中国残留日本人の国籍問題 ①
中国残留日本人を語る上で、一番重要なのが「国籍問題」だ。
2018年に行われた中国に対する意識調査では約80%近くが否定的であり、中国共産党の諜報活動、中国企業の産業スパイによる被害もあり、悲しくも自分の意に反し中国に残留せざるを得なくなった残留日本人に対して向けられる視線は、日本人の戸籍を乗っ取った「背乗りのスパイ」が殆どである。
「残留日本人はスパイなのか」で登場する元日本兵や、お孫さんの中国残留邦人三世も事実無根のスパイ被害者であり、いくら日本の国籍法や法律で説明をしても嫌中感情が根底にあると、その洗脳が解ける事はなく、同じ日本人に対して人権侵害や名誉毀損をしてしまう事になる。
また、中国残留日本人の国籍に関する著書の多くが、一般ケースで解説されているため、一般ケース以外の中国残留日本人の国籍取得は誤解を受けやすい。その為、ここでは一般ケースと、それ以外のケースに分けて解説をしたいと思う。一旦、嫌中感情は置いて頭の中をフラットにして見ていただきたい。
中国残留日本人の国籍問題を解説する上で、まず大まかに「中国残留孤児」「中国残留婦人」「中国残留邦人」と3パターンに分ける必要がある。これは年齢と性別が関係していて、戦時死亡宣告での死亡取消なのか、日本国籍取得が就籍なのか、帰化なのかにも影響してくる。
① 中国残留孤児
両親が日本人で、ソ連軍侵攻と関東軍の撤退が直接の原因で両親が死亡、もしくは生き別れとなった、当時 12歳以下の子供(男子・女子)のことを中国残留孤児と言う。
② 中国残留婦人
戦前・戦中、開拓団などで満州国(中国東北部)などに渡り、終戦後の混乱で置き去りとなった日本人のうち、当時13歳以上の女性を中国残留婦人と言う。孤児同様、多くが過酷な避難生活や貧困、差別を体験。 日本政府による帰国支援も遅れた。
③ 中国残留邦人
日ソ中立条約を破棄してソ連軍が満州(中国東北部)に侵攻して以降の混乱の中で日本に帰国できず、やむを得ず中国にとどまった13歳以上の日本人(本解説では日本人男性とする)。
以上の3パターンから更に、それぞれ「日本人であることを証明できる物を所持している者」と「日本人であることを証明できない者」で分ける必要がある。
その理由として中国残留孤児の場合、両親と共に荷物を持ち逃避行をしているうちに戦闘に巻き込まれ両親と死別したために自分を日本人だと証明することができないケースがほとんどである。
また、中国大陸で終戦を迎えた元日本兵が命の危険を感じ、身分を証明する物を破棄して現地人になりすまし生き永らえたケースもあるためである。
なお、中華人民共和国成立以前の混乱期において中国人と国際結婚した場合、それが有効であることを証明することが難しく、効力を有さないとされてしまうことがあるため、ここでは中華人民共和国成立から解説する。
中国残留日本人一世
基本的に中国残留日本人一世は日本国籍を死ぬまで保持し続ける。
これは中国残留孤児、中国残留婦人、中国残留邦人全てにおいて言える。
ただし、①日中国交正常化(1972年9月29日)以降に自らの意思で中国国籍を取得した場合、日本国籍が喪失する。
ちなみに、②中華人民共和国成立(1949年10月1日)から日中国交正常化(1972年9月29日)までに日本国籍を離脱して中国国籍を取得したとした場合、日中国交正常化の日が日本国籍喪失とされるので、一世であっても① ②のケースになると日本国籍を再取得する場合は帰化となる。
なお、1959年3月3日に未帰還者に関する特別措置法(法律第7号)が公布されるが、これは生死不明の未帰還者が戸籍上は死亡したものとして扱われる戦時死亡宣告なるものだが、これは生存している事が判明した時に適用外となるので、これは考えなくても良い。
上記は日本国籍を離脱する手続きができるため、一般ケースの「日本人であることを証明できる物を所持している者」になる。
一般ケースではない「日本人であることを証明できない者」の場合、日中国交正常化以降に自らの意思で中国国籍を取得すれば自動的に日本国籍は喪失となるが、日中国交正常化までに中国国籍を取得した場合は日本と中国の二重国籍者となる。
しかし、日本人であることを証明できないので、日本に帰るためには自分が日本人だと証明できる資料を探して提出したり、肉親とのDNA鑑定をする必要がある。
それで無事、日本政府から日本人であると認定されれば良いが、空襲や原爆などにより日本の家族や親族がみんな死亡してしまい、また証明する資料も焼けてしまい、何も証明する事ができない場合は最悪、日本人に戻れないままになる可能性が極めて高い。
ただし、記憶を頼りに本人しか知りえない家族の情報などで戻れたケースもある。
最後に日中国交正常化の日を持って中国残留日本人の日本国籍が喪失したなどと記されている著書があるみたいだが、日本国籍喪失者が日本国を訴えた裁判は全て日本国側が敗訴となっている為、真に自らの意思で中国国籍を取得したのか、そうでないかが重要になってくる。
それは「残留日本人はスパイなのか」で記した通り、戦後における中国共産党のプロパガンダや文化大革命などで、命の危険を感じ中国国籍を取得した者、元日本兵で身元を証明する物を捨て出身不明者となり出身不明を解消するため中国国籍を取得した者、戦闘に巻き込まれ両親と死別した残留孤児を保護した中国人が中国国籍取得の申請をして取得した者など、真に自らの意思で中国国籍を取得した訳ではない人達もいるからである。
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