戸籍時報連載『旧市区町村を訪ねて』18「小さな土地の大きな爪痕」鳥取県鳥取市〜佐治村〜(文・写真:仁科勝介)
こんにちは。コンテンツビジネス推進部のMです。弊社刊行「戸籍時報」との好評連動企画、「旧市区町村を訪ねて」。
いつもたくさんの「スキ」をありがとうございます💛
今回、令和6年10月号掲載の第18回(※)は、鳥取県鳥取市から、去年夏の台風による大雨被害の傷跡が残るまちで感じた想いを込めた記事となっています(※9月号第17回はnote休載)。
いつものとおり、仁科さんの素敵なお写真をここではカラーでご紹介しています。
今後の連載も、ぜひお楽しみに!
『小さな土地の大きな爪痕』
岡山県の旧上齋原村(かみさいばらそん)から辰巳峠を越えて,鳥取県旧佐治村(さじそん)に入った。徐々に家屋も見えはじめ,佐治川沿いの道路を進んでいく。そのときにとにかく思ったことは,「こんなにも大雨の痕跡が残っているのか」ということだった。
佐治川沿いの道路が複数陥没しており,土のうやブルーシートで覆われ,今でもいたる箇所で工事が行われていた。川には根こそぎ木が転がっていたり,半分ほど崩落してしまった橋があったりした。
道路を片側通行に制御する工事用信号も,短距離の間に何度も現れた。旅先で,河川の工事現場に遭遇することは少なくないけれど,その中でも爪痕の大きさに驚かされた。
しかし,ぼくはこの佐治川の災害がいつ発生したのか,心当たりが浮かばなかった。調べてみて,2023年8月の台風第7号による影響だと分かった。国土交通省の当時の発表によると,この台風によって10府県の河川で浸水被害等が発生したという。
ぼくはその頃,旅で青森県を巡っていて,恥ずかしながら,この台風の被害のことをあまり意識していなかった。
そんな当時の自分を振り返り,モヤモヤとした気持ちを抱いた。自分と直接関わりがあるかないかによって,どうしてこれほど自分がキャッチする情報が変わるのだろう,と。
同じ日本でも,自分の知らない土地で発生した災害はほんとうにたくさんある。もしニュースで見たとしても,自分が直接関わる土地ではないからと,忘れてしまっている災害も,包み隠さずに言ってしまえばたくさんあるのだと思う。
ただ,災害に遭ってしまった方にとっては,平穏な日常生活が強制的に変えられてしまっている。だから,もし自分にとっての今の日常が平穏なら,それはとてもありがたいものだ,とあたりまえながら思う。
もちろん,そのことを考え始めたらキリがない,ということもわかる。誰が幸福で,誰が不幸で,と比べ合いが始まる。
けれど,ほんとうの平穏とはどのようなことなのだろう。それは,自分だけが平穏なのではなく,自分がまったく知らない土地でも,一人でも多くの人が,穏やかに暮らせることだとぼくは思う。
そして,その数は不特定多数だけれど,やっぱり,一人一人なのだと思う。みんな同じ命だから。旅をしていて,何度もそう感じてきた。
佐治川の河川工事が順調に進むことを願うし,自分の身の回りの世界だけではない平穏を祈りたい。今も知らない土地に災害の爪痕があるかもしれない,ということを忘れずに。
(かつお╱Katsusuke Nishina)
仁科勝介(にしなかつすけ)
写真家。1996年岡山県生まれ、広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年春より旧市町村を周る旅に出る。
HP https://katsusukenishina.com/
X(旧Twitter)/Instagram @katsuo247
本内容は、月刊『戸籍時報』令和6年10月号 vol.858に掲載されたものです。
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