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【日本遺産の基礎知識】尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市(広島県)

執筆:日本遺産普及協会監事 黒田尚嗣

広島県の日本遺産「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」の基礎知識を紹介します。
※本記事は、『日本遺産検定3級公式テキスト』一般社団法人日本遺産普及協会監修/黒田尚嗣編著(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。


日本遺産指定の背景

尾道三山と対岸の島に囲まれた尾道は、町の中心を通る「海の川」とも言うべき尾道水道の恵みによって、中世の開港以来、瀬戸内随一の良港として繁栄し、人・もの・財が集積しました。
その結果、尾道三山と尾道水道の間の限られた生活空間に多くの寺社や庭園、住宅が造られ、それらを結ぶ入り組んだ路地・坂道とともに中世から近代の趣を今に残す箱庭的都市が生み出されました。
迷路に迷い込んだかのような路地や、坂道を抜けた先に突如として広がる風景は、限られた空間ながら実に様々な顔を見せ、今も昔も多くの人を惹きつけてやみません。

箱庭的都市の景観

1.尾道水道と尾道三山が織りなす風景

尾道水道は、瀬戸内海に面した港町尾道と対岸の向島に挟まれた幅狭の
水道で、いわば「海の川」です。利便性の高い海の川は重要な交通路とし
て重宝され、自然の良港である尾道は、平安時代に備後大田荘(後の高野
山領)公認の船津倉敷地(年貢米積出港)となりました。以来、対明貿易船や北前船、内海航行船の寄港地として、中世・近世を通じて人・モノ・財が集積する港町として発展しました。
港町・商都としての発展は各時代に豪商を生み、多くの神社仏閣の寄進造営が行われ、尾道水道と尾道三山(大宝山・摩尼山・瑠璃山)に縁取られた狭小な空間には、まちの発展とともに浄土寺をはじめとする多くの寺社が建てられました。
寺社が増えるに従い、その周辺にさらに家々が密集して建ち並び、現在の
水道間際まで家々が迫る風景が作り出されることとなりました。

尾道水道と斜面地の景観

2.狭小な空間に展開する巨大な石造物

こうした路地や坂道が尾道の生活基盤となっており、寺社や住宅、庭園そして港、尾道水道をつなげ、人々をつなげています。その路地や坂道を作り出している石段、石畳、石垣などはすべて岩山である尾道三山から切り出された石でできていて、尾道は狭小な空間に展開する巨大な石造物といえます。
路地や坂道を歩けば、こうした石垣や石段、井戸、さらには、寺社の石塔や狛犬、燈籠などの美しい石造物や巨岩に出会うことができます。そして、路地と坂道を抜けた先には、突如として、美しい尾道水道や寺社建築が姿を見せ、別世界に入り込んだような空間が広がります。

3.志賀直哉の小説『暗夜行路』に描かれた箱庭的要素

尾道に住んだ志賀直哉は小説『暗夜行路』で、対岸の向島から石切場の人々の唄や作業の音が聞こえてきたり、千光寺の鐘の音がすぐ反響したりすることなど、箱庭的要素を描き出していますが、現在でも、対岸の造船所の音や尾道水道を通る船の音などがまち中で聞こえてきます。
また、まち中では四季折々の祭礼や伝統行事が行われており、細い路地でひしめき合う住民の中を、神輿などが練り歩き、まち全体が活気に溢れています。

「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」の詳しい情報はこちら

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著者プロフィール

日本遺産普及協会代表監事。近畿日本ツーリストなどを経て、現在はクラブツーリズム株式会社の顧問を務める。旅の文化カレッジ講師として「旅行+知恵=人生のときめき」をテーマに旅の講座や旅行の企画、ツアーに同行する案内人や添乗員の育成などを行う。また自らもツアーに同行し、「世界遺産・日本遺産の語り部」として活躍中。旅行情報誌『月刊 旅行読売』に「日本遺産のミカタ」連載中。著書に『日本遺産の教科書 令和の旅指南』などがある。日本遺産国際フォーラム パネリスト、一般社団法人日本旅行作家協会会員、旅の文化研究所研究員、総合旅行業取扱管理者

運営:日本遺産普及協会


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