「ここに行ったよ!ここ行きたい!!」その1 歴史ある港と保命酒の町、鞆の浦
日本遺産ソムリエ 中本美苗
昨秋(2023年)福山方面へ行く用事があり、少しだけ観光して帰るとすると、どこがいいかな……と考えていたら、昔、何かの集まりで同席した方が鞆の浦出身で、「海がとってもきれいで、お魚もおいしくて、ほんっとうにいいところだからっ!!!!!!!!」と、ものすごい熱量で語ってくれたことを思い出した。
だったらちょっと行ってみるか、と思い、急ぎ足で巡ってみることにした。
福山~鞆の浦
新幹線で福山駅に到着すると、ガラス窓越しにお城がっ! 福山城だ!
お城にも行きたいけど、今日は鞆の浦巡りなので、後ろ髪を引かれながらバス停方面へ。次は絶対行く……
そして、バス停そばの案内所で、「鞆の浦史跡めぐりクーポン」をゲット。福山駅から鞆港までの往復バス料金と、主だった観光スポットの入場料込みで、効率がいいうえに料金もお得! 買うしかない!!
呉のとき(寄稿文「呉の海防今昔―旧呉鎮守府への旅」参照)と同様、何の気なしに撮影していたけど、これにもしっかり「日本遺産ロゴ」がついていた! 鞆の浦訪問もまだ日本遺産について全然知らなかった頃だったから、ず~っと日本遺産に呼ばれていたのかもしれない(笑)
さて、クーポンを使って、鞆港行のバスに乗車し、30分ぐらいで到着。
鞆港は終点だけど、1駅手前の鞆の浦で下車。目の前の案内所で地図をもらうためだ。
帰りに買うお土産の品定めをしつつ、限られた時間内で行きたい場所を選んでいく。
気になるポイントは2つ。「港」と「保命酒」。
まずは目の前にある港関係から巡ることにした。
いにしえからの港町
鞆の浦は歴史のある港町。
万葉の時代にはすでに記録がある由緒正しい港で、琉球、朝鮮、オランダなど外国の使節団がたびたび寄港していたという重要な港だったとのこと。
江戸時代の港湾施設5セットがほぼそのまま残っているのは鞆港だけらしい。ちなみに何があるかというと……
・常夜燈……今でいう街灯? 海に面しているので、灯台の役目もしていたかも
・雁木(がんぎ)……階段状の船着き場で、潮の満ち干に関わらず船をつけて荷物の揚げ下ろしができる
・波止場
・焚場跡……船の修理場、ドック
・船番所跡……今でいう港湾管理事務所
常夜燈は石造り。思ったより大きくて素朴で、港に突き出す姿が絵になる。
夜に明かりが灯ったらきれいだろうなぁ。
うちの近くにも「大関酒造今津灯台」という灯台があり、同じく江戸時代に建てられたものなので、形が似ているな~と感じた。
これについては、「灘五郷・今津郷」のお話として別途紹介したいと思う。
鞆の浦と龍馬
雁木は修復中ということで残念ながら見られず、そのほかの港湾施設はちょっと離れていたので時間の関係でパスし、すぐそばにある「いろは丸展示館」へ。さっそくチケットを使う(笑)
実は、鞆の浦は坂本龍馬と縁のあるところ。
歴史好きの人ならピンとくると思うが、あの「いろは丸事件」の際、一番近くて大きい港である鞆港へ上陸し、竜馬の海援隊側と紀州藩それぞれが逗留、損害賠償交渉を行ったのだ。
事件について詳しく書くと長くなるので、興味がある方、行ってみたい方はぜひご自分で調べてみてほしい。
その「いろは丸」は今も鞆の浦沖に沈んでいるのだが、5回にわたって潜水調査した内容を展示しているのが、この展示館だ。館内には、イラストやクイズ、写真のほか、2010年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」の「いろは丸事件」のときの映像も流れていたり、海底に散らばっていた遺物の状況がかなりの大きさのジオラマで再現されていたり、龍馬グッズも売っていて、思った以上に盛りだくさん。
また、2階には、この事件後に龍馬が身を隠していたという部屋が再現されていて、あんまりかっこよくない等身大の龍馬人形が配置されている(笑)
せっかくだったら、福山雅治似にすれば、みんなもっと喜んで写真を撮るのに……
実は建物自体も古いもので、江戸時代の蔵をそのまま使っているとか。
展示品やグッズだけではなく、建物自体にも注意を向けると味わい深いと思う。
ちなみに、鞆の浦観光前に仙酔島に立ち寄ったのだが、そのときに乗った、鞆の浦から島までを渡している船は、「平成いろは丸」と呼ばれている。
坂本龍馬が率いる海援隊が乗り込んだ蒸気船「いろは丸」を模した船だそうだ。乗船時間は約5分で料金は往復240円。外観は黒、中はレトロな感じでなかなかかっこいいので、記念に乗ってみるのもいいと思う。
日東第一形勝:福禅寺 対潮楼(ふくぜんじ たいちょうろう)
「『日東第一形勝』ってなに?」と思う人も多いだろう。
わたしも最初、「は??」と思った一人だ。
福禅寺 対潮楼について調べると、必ず出てくる言葉。
ここは、朝鮮通信使を接待する施設、迎賓館として使われていたそうで、「いろは丸事件」の際、海援隊と紀州藩が談判を行った場所としても知られている。1711年、朝鮮通信使の李邦彦(イ パンオン)が、ここからの眺めを「日東第一形勝」とほめたたえた。「日本で一番の景勝地」という意味だそうだ。
……と調べはついていた。
え~、ほんとかなぁ、と思っていた。
でも、実際その場にいくと、「うぁ~」と声をあげてしまったぐらい、絵葉書のような美しい景観。
ガラスの入っていない大きな窓枠の向こうには、弁天島と、その奥の仙酔島(せんすいじま)が横たわり、海と島と空の色がとてもくっきりとして美しい。
確かに、ガラスで妙に反射したりしてしまっては、この景観は台無しだ(冒頭の福山城の写真参照)。
手前に敷いてある赤い毛氈の上に座って、しばらくぼーっと外を眺めていた……癒される。
ここでは多分、どんな人でも美しい写真が撮れると思った。
造り酒屋の旧家屋:太田家住宅
そして、太田家住宅へ。こちらもチケットチケット……。
こちらは、いわゆる昔の立派な商家がきれいな形で残っている文化財。
家の中は確かに古いものの、きれいに整えられていて趣はある。
でも、木造の純日本家屋に数十年住んでいた者としては、造りは似たような感じなので、これまで訪れた「●●家住宅」と同様、内部にはそれほどの感動はなかった(ごめんなさい)。
だが、ここはただの商家ではなく、鞆名物「保命酒」の造り酒屋だったので、軒先には杉玉を吊るすところがあり、蔵の中には醸造用の甕が立ち並び、酒を絞るためのでっかい石がいっぱい吊るされてあった。
造り酒屋ならではの設備を見るのは、とても新鮮でおもしろかった。
江戸時代にはたくさんの保命酒醸造所が軒を並べていたらしいが、現在製造しているのはたったの4軒のみ。
数は減ったけれど、今もきちんとレシピや技術が受け継がれているのは、とてもすばらしいし貴重なことだと思った。
鞆の浦の歴史を総まとめ:鞆の浦歴史民俗資料館
最後のチケットを使うために、高台へと上っていく。
鞆の浦の地形って、海からすぐ高台になる感じなのだ。だから、ちょっと浜から離れると、結構のぼりが大変。
そういえば、スタジオジブリの映画「崖の上のポニョ」は、宮崎駿監督がここで構想を考えたとかで、鞆の浦と似た景色が映画内に出てくる、という話を聞いた。
「ポニョ」は見ていないので、よくわからない……
見たことある人で鞆の浦へ行ったことある人、どうでしたか?
さて、結構のぼって、鞆の浦歴史民俗資料館に到着。
ここは鞆城跡に作られたということで、お城のあったところ。
なるほど、高台にあって町や港が一望でき、城の場所としてはうってつけ。ただ、本当に「跡」で、名残がほとんど感じられなかったのはとても残念。
では、気を取り直して館内を見学。中には、鞆の浦の歴史や文化をさかのぼるさまざまな資料が展示。漁具、祭の道具、江戸期ぐらいの鞆の浦の模型もあって、昔の暮らしぶりをうかがい知ることができて興味深かった。また、訪問したときは保命酒の入れ物(陶器)展をやっていて、いろんな産地の瓶や甕が展示してあり、こちらも興味深く見学した。
2Fには宮城道雄という筝曲家の展示があった。
誰もが聞いたことのあるお琴の名曲「春の海」。
タイトルと結びつかなくても、お正月などによくBGMで流れていて絶対知っているはず!というこの曲は、彼が鞆の浦をイメージして作曲したらしい。父方の先祖が鞆の浦で、代々ここにお墓があるとか。
彼は若くして目が不自由だったそうで、家族や親せきから美しい鞆の浦の話を聞き、想いを馳せ、イメージを膨らませてこの曲を作ったのだろうか……
この曲のルーツを知り、ちなんだ場所にも訪れた今は、ちょっと聞こえ方が変わるかもしれないと思いながら、資料館の前に広がる鞆の浦の風景をしばし眺めていた。
保命酒めぐり
さて、そろそろ帰り時間が気になってきたので、もう1つのポイント「保命酒」めぐりをはじめることにした。
保命酒とは、薬草酒として思い浮かぶ養●酒とは違い、医薬品ではない。
ただ、両方とも味醂をもとに独自配合の十数種類の生薬を漬け込んでつくり、褐色で独特のにおいがするという点では、とても似ていると思う。
先ほど書いたように、昔はたくさんの蔵元があったが、今残っているのは4軒のみ。
・八田保命酒舗(赤たる)
・岡本亀太郎本店(ミツボシ)
・入江豊三郎本店(ともえ)
・保命酒屋(鞆酒造)
生薬の種類や配合にそれぞれ特徴があり、試飲させてくれるらしい。
※アルコールなので、20歳からですよ!
飲み比べてから好きなものを買って帰ろうと思い、1軒ずつ訪ねた。
……おいしい……おいしい……おいしい……おいしい……。
生薬が効いているもの、甘みが強めのもの、人参が効きそうな感じのもの、やさしいお味のもの。それぞれに特色があり、選べない!!!!
1つだけ通常サイズを買うのは難しいなぁ、う~ん、困った……と悩みつつ、帰りのバス停前の土産物屋さんに入って、とりあえず他のお土産を買うことに。
店内をブラブラしていたら、「保命酒 4醸造セット」という、4種類を飲み比べができる小瓶のセットが売っていた!
やった! あるやん、わたしの求めているベストの商品!!
長蛇の列ができていて食べられなかった名物「鯛めし」の素など、たくさんの海のおみやげと一緒に買い求め、重いので自宅に送る手配をし、福山行きのバスへ乗り込んだ。
次に来るときは、絶対福山城へ寄って、「鯛めし」を食べる!
そして保命酒は…………また4醸造セットを買う気がする(笑)
日本遺産「瀬戸の夕凪が包む 国内随一の近世港町
〜セピア色の港町に日常が溶け込む鞆の浦〜」
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