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【日本遺産の基礎知識】「いざ、鎌倉」~歴史と文化が描くモザイク画のまちへ~(神奈川県)
執筆:日本遺産普及協会監事 黒田尚嗣
神奈川県の各市町村の日本遺産「『いざ、鎌倉』~歴史と文化が描くモザイク画のまちへ~」の基礎知識を紹介します。
※本記事は、『日本遺産検定3級公式テキスト』一般社団法人日本遺産普及協会監修/黒田尚嗣編著(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。
日本遺産指定の背景
鎌倉は、源頼朝によって幕府が開かれた後、急速に都市整備が進められ、まちの中心には鶴岡八幡宮、山には切通(きりとおし)、山裾には禅宗寺院をはじめとする大寺院が造られました。
この地に活きた武士たちの歴史と哀愁を感じられる古都鎌倉は、近世には信仰と遊山の対象として脚光を浴び、近代には多くの別荘が建てられましたが、歴史的遺産と自然とが調和したまちの姿は守り伝えられてきました。
このような歴史を持つ古都鎌倉は、自然と一体となった中世以来の社寺が醸し出す雰囲気の中に、各時代の建築や土木遺構、鎌倉文士らが残した芸術文化、生業(なりわい)や行事など様々な要素が、まるでモザイク画のように組み合わされた特別なまちとなったのです。
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1.鎌倉幕府の成立
鎌倉は、12世紀末に源頼朝が幕府を開き、貴族社会から武家社会への転換という、革命的な変化が起きた舞台であり、本格的な武家政権が誕生した地です。政権の守護神鶴岡八幡宮とその参道の若宮大路が建設され、山には内外を結ぶために「切通」と呼ばれる道(鎌倉七口)が開削されました。
さらに、幕府は宗教政策にも積極的に取り組み、特に、禅宗は、修行の形式が武士の趣向に合ったことや、茶や美術工芸など当時の最先端を行く中国文化を伴っていたことから手厚く保護され、多くの禅宗寺院が建立されました。
中世都市鎌倉は、幕府滅亡後も室町幕府の東国支配の拠点(鎌倉公方(くほう))として大いに繁栄しましたが、公方の移転に伴って徐々に衰退し、戦国時代には静かな農漁村となりました。
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2.鎌倉観光の先駆け
寒村となった鎌倉にあっても、社寺は、時の権力者が鎌倉を武家政権発祥の聖地として保護し続けたことから命脈を保ちました。江戸時代中期以降、歌舞伎や浄瑠璃(じょうるり)の演目や地誌などで取り上げられ、七里ヶ浜から江ノ島や富士山を望む浮世絵が頻繁に描かれるようになると、鎌倉は、庶民に広く知られるところとなり、信仰と遊山の対象として江戸近郊の観光地となりました。
3.別荘地鎌倉と「鎌倉文士」
江戸時代からの認知度の高さに加え、温暖な気候に恵まれ、遠浅の美しい海岸を持つ鎌倉は、まさに、東京近郊のリゾート地としての条件を備えていました。このため、鎌倉は、海浜保養の適地とされ、別荘地として発展しました。
別荘地として発展していくにつれ、鎌倉には川端康成など、多くの文人墨客が住まうようになり、活発な文芸活動が展開されました。彼らはやがて「鎌倉文士」と呼ばれ、今日の歴史的遺産と緑とが調和した鎌倉特有の景観を守ることにも貢献しました。
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著者プロフィール
日本遺産普及協会代表監事。近畿日本ツーリストなどを経て、現在はクラブツーリズム株式会社の顧問を務める。旅の文化カレッジ講師として「旅行+知恵=人生のときめき」をテーマに旅の講座や旅行の企画、ツアーに同行する案内人や添乗員の育成などを行う。また自らもツアーに同行し、「世界遺産・日本遺産の語り部」として活躍中。旅行情報誌『月刊 旅行読売』に「日本遺産のミカタ」連載中。著書に『日本遺産の教科書 令和の旅指南』などがある。日本遺産国際フォーラム パネリスト、一般社団法人日本旅行作家協会会員、旅の文化研究所研究員、総合旅行業取扱管理者