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戦国オタクの短プロ留学生


日本留学・日本就職を支援する日本語のタネ代表の糸川優です。


短期留学プログラム

で、ほぼゼロ初級のクラスを担当していた時のことです。
まだ喋れない学生の例に漏れず、彼は黙ってニコニコしていました。
授業も進んで、仲良くなってきた頃、彼が授業後に来て、何か切れ切れに一生懸命話します。
「トンボキ…」
「ホンダ…」
え?本多忠勝の蜻蛉切?
まさかと思いつつ、「本多忠勝?」と聞いてみると、顔がぱあっと明るくなりました。私の仰天した反応に喜んでいる様子がありありでした。
いや、実際、驚きました。
動詞の活用、形容詞の活用を勉強している学習者です。

他の教員

に話しても、どうやら理解してもらえなかったようで、とうとう話が通じる相手を見つけた、という感じでした。
いやいや、そもそも、イギリスから来た初級の短期プログラム学生が蜻蛉切の話をするなんて、誰も予想だにしないから。
他にも、「アカゾナエ(サナダ、と言っていたかもしれない)」とか「オケハザマ」とか言っていたようでした。

「信長の野望」

にハマる留学生がいます。
私の経験では、十数年前に、中級ぐらいの留学生が浅井長政、と言ったので、「え?何?何て言ったの?」と聞き返したのが最初でした。
日本人学生とルームシェアしている学生でした。
「なんでそんなこと知ってるの?」という教師の言葉は、学生にとってはこの上なく嬉しい言葉です。
が、彼はそんな薄っぺらなマニアではなかったのでした。
「信長の野望」どころか、ある意味、本格的な戦国オタクだったのです。蜻蛉切などと得物の話をする留学生は、きっと後にも先にも彼だけでしょう。

そして学期末

の試験の頃。
彼は、A4の紙を1枚持ってきて、見せてくれました。
そこには、見てきたように桶狭間の戦いが記されていました。語彙や文法のミスはあるものの、漢字も使われており、確かに桶狭間の戦いでした。生成AIがない時のことです。
織田信長のファンだと話してくれました。
お父さんも歴史オタクだという話でした。
そして、これを出版したいので、お力添えをいただきたいという趣旨の話でした。

コピー

を取らせてもらいました。
自分の国大学で2年ほど日本語を勉強した人でしたが、初級に配置された学習者として、やはり驚かされるものではあったので、記念に手元に置かせてもらうことにしました。
出版については、もう少し日本語が上達したら、でしょうかね、という話で納得してもらった記憶があります。

忘れられない学習者の一人です。


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