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認知言語学とは:『言語学の教室』

今回は、言語学の一分野である認知言語学について書こうと思います。

認知言語学とは、ごく簡単に言えば、人間がことばを使う時に、どのように事柄を捉えているかについて考える言語学の分野です。すなわち、言語現象を研究していく中で、「ことば」のみならず、「ことば」を使用する人間の心・認知の部分にまで踏み込んで追究していくという姿勢をとっているのです。


認知言語学がどのような学問かを知るには、西村義樹・野矢茂樹『言語学の教室:哲学者と学ぶ認知言語学』(中公新書)がおすすめです。


この本は、(認知)言語学がご専門の西村義樹先生と、哲学がご専門の野矢茂樹先生の対談を書き起こしたものです。対談形式で書かれているのが少々読みにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、言語学、特に認知言語学がどのような分野であるかを知るのに非常に良い本だと思います。英語や中国語にも翻訳されています。

第一章(本の中では第一回とされています)の「認知言語学の誕生」は、言語学発展の歴史が紹介されており、内容として難しいですが、第二章以降は具体的な言語事象に踏み込んでいき、例も多く示されているので読みやすいと思います。

私は、この本を3回くらい読み直していますが、はじめに読んだのは高校2年生の時で、そこから本格的に言語学に興味を持つようになりました。今回は、その時に「ことばって面白い!」と感じた部分について書こうと思います。


日本語には、特殊な受身(受動態)として、「間接受身」というものがあります。間接受身は、一般的な受身とは異なり、直接対応する能動文を持ちません(対応する能動文を持つ受身は「直接受身」と呼ばれます)。

この間接受身には、「雨に降られた」や「彼女に泣かれた」など、いくつも例があり、日本語としてごく普通に使われている受身です。これらは主語が外部のものによって迷惑を被った、被害を受けたことを表しており、そのために「迷惑受身」と呼ばれることもあります。したがって、「財布」のような、主語の持ち物に属するようなものに関しては、「財布に落ちられた」などと言うことはできません

ことばに対するこのような深い分析は、ことばだけを見るのではなく、それを使用する人間の心・認知にまで踏み込むことで可能になります。自らを取り巻く世界をどのように捉えているかにまで目を向けて言語を分析するのが、認知言語学だと言えるでしょう。


この認知言語学の考え方は、文法を学んでいく上でも、非常に重要なものだと思います。ただ「こういうルールでことばを使っています」というのではなく、「こういう風に事柄を捉えているからこういうルールがあります」という方が、表面的ではない、言語の本質を捉えた学習になります。

外国語を学ぶには、それぞれの母語話者の感覚を掴むことが必要になるので、認知言語学は大変有効であり、近年は英語教育でも取り入れられてきています。また、日本語教育でも取り入れられている例があります。もしかしたら、国語教育にも何か役に立つ可能性を秘めているかもしれません。

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