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この教材、どう使う?『会話でひろげる日本語語彙 Go Easy!』
(※この記事は2023年公開の過去記事です)
――この教材、どうやって授業で使えばいいんだろう?
――もっと学習者の役に立つ活用法が知りたい!
この連載では、このような日本語教師の声にお応えすべく、教材の実践的な活用事例をご紹介していきます。
今回ご紹介するのは『会話でひろげる日本語語彙 Go Easy!』(著者:荒川洋平、発行:アスク)。
語彙の授業をどのように進めたらよいか悩んでいる先生方におすすめの教材です。
荒川先生へのインタビュー記事はこちらからご覧ください
東京外国語大学 留学生センターの授業をのぞいてみよう
著者の荒川先生が担当される「総合日本語501」という中上級レベルのクラスを見学しました。在籍する13名の学生の国は、韓国、フランス、アルゼンチン、アメリカ、チェコ、ロシア、スロベニア、イタリア、トルコ、アイルランド、カナダ、ベトナム、スペイン。全員国籍がバラバラです。
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クイズで語彙を定着させる
1コマ90分間の授業は、『Go Easy!』を使ったクイズから始まります。出題範囲が決まっていて、その範囲の語彙を使った問題が全部で12問書かれています。事前に学習しているからか、学生たちはこの問題を10分程度で解き終えていました。
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解き終わったら用紙を回収し、前回のクイズの答え合わせと解説が始まります。荒川先生の授業では、ただ丸つけをして暗記させるのではなく、語彙の運用や意味に関する問いを投げかけ、学生に考えさせる工夫をされていました。
荒川先生:どうして「目がない」は「大好き」の意味になるんでしょう? ペアで考えてみて。
学生A:このことしか見えない、他のものは見えない、という意味だと思う。
学生B:大好きなものを見ると笑う。笑うと目が小さくなるから。
このように、どうしてその意味になるのかを考えてみる経験が、記憶の定着につながるのだろうと感じました。
スキット作りで使える表現をもっと増やす
語彙クイズの後に行うのは、スキット作り活動です。『Go Easy!』に収録されている語彙を使って、ペアで会話文を作り、それをクラスメイトの前で演じます。今回の授業で発表した学生の会話は、居酒屋で展開されそうな会話です。
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学生2人は、少し恥ずかしそうにクラスメイトの前に立ち、作った会話を演じます。ただ読み上げるだけではなくて、声のトーンや、間の取り方も工夫して、自然な日本語会話を作ろうとしている様子が伝わってきました。
2人が発表を終えた後、ここでも荒川先生は学生たちに問いかけます。先生の問いかけを通して、学生は語彙を増やし、正確な運用を身につけていきます。
同じ意味の語彙を増やす
荒川先生:「めっちゃ」と同じ意味を表す他の表現、何か知っている?
学生A:「めちゃくちゃ」?
荒川先生:いいね、他には?
学生B:「超」?
学生C:「すごく」とか「とっても」も使います。
コロケーションを増やす
荒川先生:友だちと食事に行ったとき、お金をみんなで同じだけ払うことを何と言う?
学生D:割り勘?
荒川先生:よく知っているね。「割り勘」は「ワリカン」とカタカナで書くこともあります。「割り勘で払う」「割り勘にする」「割り勘で行く」のように使うことが多いですね。みなさんの国では割り勘にしますか? それとも自分の分だけ払いますか?
学生E:韓国では自分の分だけ払います。
学生F:スロベニアでは割り勘です。
学生G:ロシアも割り勘です。
正確な運用を身につける
荒川先生:「誘わないでおこう」に注目して。「~ておく」を使うとき、どのような意図があるんだろう? ペアで相談して。
学生H:「誘わない」よりも「誘わないでおこう」の方が、ちょっとやさしい感じがします。
荒川先生:「~ておく」は、「あとで困らないように何か準備しておく」という意味があります。「誘ったら困ることが起きそう。だから誘わないようにしよう」という気持ちで言っているんですね。
語彙の授業をもっとアクティブなものに!
これまで多くの語彙指導では、語彙の意味を一語一義で教えるという方法が一般的でした。授業時間が十分に確保できず、「あとは覚えておいてね」で片付けられてしまうこともあるかもしれません。
『会話でひろげる日本語語彙 Go Easy!』には、語彙指導をもっと豊かに、もっと楽しいものにするためのアイデアが詰まっています。一語一義で暗記するのではなく、「やさしい語の2番目・3番目の意味」や「やさしい語の組み合わせ」によって、使える語彙を一気に増やすことができます。そして、その過程には、定着させるための工夫がこっそりと、でも、たっぷりと隠されています。
『Go Easy!』のウェブサイトからは、さまざまな教室活動案をダウンロードしていただくことができます。本記事で取り上げた「スキット作り」の他にも、荒川先生が生み出した楽しい活動案が紹介されています。これらを活用すれば、語彙指導がこれまで以上に楽しいものになることは、間違いありません。
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