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《世界の医療事情》vol.21|認知症の現状と対策

認知症とは、さまざまな脳の病気によって認知機能や記憶力・判断力などが低下し、日常生活に支障をきたした状態のことです。2023年の時点で認知症患者は世界に5500万人以上いると報告されており、日本では2025年に700万人に達すると予測されています。なお、日本における認知症患者が多い理由としては、高齢化が進んでいることと、2型糖尿病が多いことが指摘されています。2023年12月には、アルツハイマー病の進行を遅らせる治療薬が保険適用となりましたが、普及には医療機関の体制強化や適切な情報提供がカギとなっていくでしょう。

2021年時点では日本が最も多いが、2045年には韓国が高齢国家として世界一位になるとみられており、2050年には韓国に認知症患者が急増すると予想される。
認知症は初期に治療を受けることで進行を予防できるが、低・中所得国では認知症に対する意識が低く、診断が遅れたり見過ごされることが多い。

アメリカ:本人を尊重したケアを推進   不法行為への責任が課題

アメリカでは、認知症高齢者の7割が在宅で過ごしており、親族やボランティアによる介護が中心となっています。夕方から不安が増したり興奮状態となる「夕方症候群」は対応が困難なので、送迎つきで夜間のケアを提供する病院もあります。アメリカの認知症ケアは、本人や家族に十分な情報を提供して自己決定を促すことが基本。患者による不法行為の責任も本人が負うことになりますが、認知症患者による運転事故が多発しているため、医師の報告が求められている州もあります。なお、65歳以上の約4割が銃を所有し、うち約1割が認知症と推計されていますが、認知症高齢者が混乱して家族を撃つ痛ましい事件も起こっており、銃の処分が課題となっています。

韓国:徘徊の行方不明者が増加   インフラの整備が急務

韓国では高齢化が急速に進行し、認知症高齢者は現在推定で約100万人おり、2050年には300万人を超えるといわれています。患者の約6割が家族による介護を受けていますが、介護ストレスによる事件も増えているため、インフラの整備が急ピッチで進められています。徘徊によって行方不明になった認知症高齢者は年間1万人以上となり、テレビやインターネット、SMSでも失踪者情報が発信されています。認知症高齢者の2割以上は警察に指紋の事前登録をしており、失踪した際は早期に発見できるよう整備されています。韓国では保険のデータが一元化されているので、認知症高齢者のデータベースを構築することで、今後の制度設計に活用される予定です。

オランダ:革新的なケア施設の取り組み   認知症でも安楽死が可能

オランダには「ホグウェイ」という、認知症患者だけのために作られた町のような施設があり、世界中から注目を集めています。敷地は高い塀で厳重に囲まれて管理されており、スーパーやレストランなどのスタッフは全員が介護士。重度の認知症患者が自由に生活できます。都会派・インドア派などの趣向に合わせて共同生活を送り、活動的に過ごして体力を保てるため転倒が少なく、寝たきりになるのは最期の数日間だけ。費用は所得に応じて軽減されます。また、オランダでは安楽死が合法化されており、事前に本人からの要請があれば、認知症患者も安楽死を選択できます。なお、直前に本人への意志確認を怠った医師が起訴されましたが、無罪判決となりました。

スウェーデン:短時間で効率のよいサポート 医療よりも触れるケアに注力

高福祉・高負担国家であるスウェーデン。認知症患者は約14万人いますが、約6割が自宅で、約4割がシニア住宅などの施設で生活しています。在宅支援では、アンダーナースとよばれるスタッフが毎日15分ほど訪問。投薬の介助やデイケアの送迎時間の確認などを手助けする「オムソーリ」というケアが行われ、短時間でも効率よく、柔軟な対応がなされています。必要に応じて緊急呼び出し電話が自宅に設置されており、ナイトパトロールも実施するなど、認知症ケアの保障は行政が果たしており、医療的なケアはほとんど行われていません。手や背中を包み込むように触れて興奮状態や不安感を軽減する、「タクティール」というタッチケアがよく行われています。

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