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MMT~オカシオコルテスと山本太郎

 昨日も紹介した山本太郎の政策が袋叩きになっている。

『消費税は廃止、奨学金はチャラ、全国一律!最低賃金1500円「政府が補償」、公務員を増やします、一次産業戸別所得補償、お金配ります…』

“バカか!財源は一体どうするんだ?”、“これ以上、日本の借金を増やすつもりか!”… まぁ、ネットなどは罵詈雑言の嵐と言っていいだろうし、それこそネトウヨではない、まともな人からも、私のtwitter宛にまで山本太郎の政策の公務員増員や財源についての批判が来ている。

    で、いま米国でも同じように袋叩きになっている議員がいる。

これが、知っている人も多いだろうが、上の写真の女性、去年の中間選挙でNY州で当選したアレクサンドリア・オカシオ=コルテス米下院議員。

  彼女が中心になってまとめた環境保護政策によって数百万人規模の雇用創出と医療保険などの社会福祉拡充をはかる政策「グリーン・ニューディール政策」も、上のWSJの記事でも判るように袋叩きになっている。

“10年間で7兆ドル(770兆円)もの財源をどうするんだ?”“これ以上、財政赤字を増やすつもりか!”…こちらもトランプや共和党は勿論、メディアなどからも罵詈雑言の嵐。

 実際、何とか決議案の提出までこぎつけたものの身内の民主党議員の造反もあって法案は先日、上院で否決されてしまった。

で、この二人に共通する、こういった罵詈雑言への回答、財源捻出法というのが、こちらも聞いたことがある人もいると思うが、「MMT(Modern Monetary Theory 現代金融理論)」という、いま注目の金融財政理論なのだ。

   この「MMT」は、そもそも米大統領選で戦ったバーニー・サンダーズのチーフ経済アドバイザーでもあったニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授などが1990年代から主張しているもので、そのサンダーズのブームや、今は民主党左派と呼ばれるエリザベス・ウォーレン、そしてオカシオコルテスらがこぞって主張していることで、大きな注目を集めている新しい理論。

 と言っても、別に特別な方法ではない。単純に国債を発行して、財源を捻出すればいいというだけの話。

“そんなことをすれば国の借金が、財政赤字が…とんでもない!”という批判をこちらも当然、浴びている訳だが、その批判を“それは間違っている。赤字国債を発行しても大丈夫”という財政拡大理論が「MMT」なのだ。

   その主な論旨は『自国通貨を持つ政府の支出余地は一般的に想定されるよりも大きく、全てを税金で賄う必要はない』というもの。つまり、自国通貨、正確には通貨を発行する中央銀行を自国で持っている国家は赤字国債を発行し、たとえ財政赤字になっても、増税したり、歳出削減をする緊縮財政をとらなくても破綻はしないということ。

    例えば、ギリシャは財政破綻したが、それはギリシャがEUに加盟していてユーロを使っている為、自国の中央銀行による通貨(自国通貨発行権)がないから破綻したのだ、という理屈。

   そんなバカな、と思う人もいるだろうが、この「MMT」の理屈を現実に証明してしまっている国が世界にはある…それが日本なのだ。

   日本の財政赤字は常態化しているし、日本の債務も増え続けて、ついに1100兆円を突破。2011年の時点でさえも日本政府の債務のGDP比率は233%と財政破綻に陥ったギリシャの166%を超えている(負債から金融資産保有高を差し引いた純債務でみても日本は131%と、153%のギリシャと大差はない)。

   それなのになぜギリシャは財政破綻して、日本は大丈夫なのか?それが「自国通貨発行権」を持っていない国と持っている国の差だというのが「MMT」の理屈。

     この理屈の種明かしをすれば、それは「財政ファイナンス」という手法。簡単に説明すれば、政府が国債を発行して、それを通貨を発行する中央銀行が買うこと。中央銀行は通貨発行権を持っている訳だから、理論上は、それこそお札を刷りまくって無制限に国債を買うことが出来るし、政府も無制限に国債を発行しまくれるということになる。

   事実、日本では政府が発行した国債を日銀が買いまくっている。今や日本の国債の46%、466兆円もを日銀が持っている訳だから、政府は否定しているが、日本が事実上の「財政ファイナンス」を行っているのは紛れもない現実なのだ。

(※政府の主張は日本が行っているのは、日銀が市中の国債を買う金融緩和政策としての「買いオペ」で、政府が発行する国債を日銀が直接買う「直接引き受け」ではないから「財政ファインナス」には該当しない、という理屈。ただし、現実は日銀が買い過ぎて市中の国債がなくなってしまうような有り様なのだから、事実上の「財政フイナンス」とみなすべきだろう)

   この事実上、「財政ファイナンス」を行っていることを日本政府が否定している理由は、日本の法律(「財政法」)でも禁止されているからだし、そもそもこの手法には重大な副作用があって、世界中でやってはならない禁じ手とされているから。で、その副作用というのが、「インフレ」。

    中央銀行が国債を買う為に通貨を発行しまくる(これははあくまでも見かけ上の比喩で、実際にお札を刷ったり、発行する訳ではないが)…これは通貨の価値を毀損することに他ならない以上、当然、インフレを引き起こす。事実、第一次世界大戦後のドイツや1980年代のブラジル、アルゼンチンなどでこの「財政ファイナンス」によるインフレが引き起こされ、大変な事態を招いている。

「MMT」でも、無制限の財政拡大や財政ファイナンスを認めている訳ではなく、『すべての経済および政府は、生産と消費に関する実物的および環境上の限界がある』とも主張。具体的には、「インフレにならない限りは」という前提条件はつけている(山本太郎も、「2%の物価上昇まで」という具体的な限度を主張している)。

   結局、今までの経済常識が「財政拡大や財政ファイナンスはインフレを引き起こすからダメ」というのに対して、「MMT」は「インフレを引き起こさない限りは、財政拡大も財政ファインナスも出来る」と言っているだけなのだ。

    “ インフレになったらアウトなんだから、やっぱり「MMT」なんてインチキじゃん ”と言う前に、ちょっと考えてほしい。実際に、その「財政ファイナンス」をし続けている日本でインフレは起こっているだろうか? インフレどころか、その反対のデフレ脱却とか言って、2%の物価上昇を目指すとか言っているのが、日本の現状。

    つまり、インフレが起きていない日本、そして米国では確かに財政赤字は積み上がっているが、財政ファイナンスによる財政拡大の余地はまだあり、増税など緊縮財政策をとる必要はないというのが「MMT」の考えだし、その財政拡大による政策を訴えているのが山本太郎であり、オカシオコルテスだということなのだ。

    因みに、日本のように財政ファイナンスをして通貨価値を毀損し続けているのになぜインフレが起きないか、という事も「MMT」では説明しているのだが、簡単に言えば、インフレが起きる理由には様々なものがあり、通貨の価値毀損や発行量増加の問題の他にも、そもそも「需要と供給の問題」があるということ。

    つまり、通貨や金融政策の問題を考えれば、それこそリフレ派の主張通りにインフレが起きて当然でも、実体経済の問題として、それ以上に格差と貧困の拡大などによって需要そのものが減ってしまい、それに反して世界中で企業などによる供給量が増えている需要と供給のアンバランスがある為にインフレが起きないというのだ。

    これはフリードマンのマネタリズムやリフレ派などに代表される新自由主義的な新古典派経済学の誤りを指摘するものだし、財政拡大による雇用と需要の創出という政策も、その名の通り、ケインズのニューディール政策そのもの。今まで財政赤字はダメだとか、プライマリーバランスだとか、といった錦の御旗で緊縮財政を推進して来た新自由主義政策に対するアンチテーゼだし、ケインズ経済学の復活と言ってもいいだろう。

    オカシオコルテスなどは、米国で“社会主義者!共産主義者!”と罵倒されているようだが、本人も自称している通り、民主社会主義者だし、彼女のケインズ的な政策も、その基になる「MMT」も、持続可能な資本主義を取り戻す考えなのだ。

    勿論、いくら「MMT」で財政ファイナンスや財政拡大が可能といってもインフレという限界はある訳だし、それが来る前に財政拡大で国民の貧困と格差をなくす雇用と社会福祉を充実させ、需要をつくり、経済を成長させることが重要(そういう需要増加による自然なカタチでインフレを起こすことが、実は国民を苦しめることなく財政赤字を減らしていく訳だが、その点は長くなって来たので、また改めて)。

   また、大切なのは財政ファイナンスで財政拡大をする事自体ではなく、そうして作ったお金を何に使うかにこそあるのは言うまでもない。

そういう意味では、「財政ファイナンス」をしてまで防衛費を増やし、戦闘機やミサイルを米国から買ったり、辺野古に基地を作ったりしている安倍の行為は論外だし、単なる無駄遣い。ましてや財政拡大を続ける一方、「反緊縮」どころか、社会福祉の削減とか消費増税などの緊縮政策まで同時に行っているのだから、安倍などはアクセルとブレーキを同時に踏むバカというしかない。

「財政ファイナンス」でつくったカネを国民に回して雇用と社会福祉を充実させ、格差と貧困を解消することによって需要をつくり、経済を成長させる…山本太郎の政策こそが本当に正しい経済政策。そのことをぜひ多くの人に知って貰いたいと私は思う。

                                                         ※Photo by Jeenah Moon/Bloomberg

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