「レイプ天国」の闇
最近、レイプをした容疑者が裁判で無罪になる、という驚くべきことが頻発している。
1つ目は、福岡市の飲食店で当時22歳の女性がテキーラ等を大量に飲まされて酔いつぶれた後にレイプされた福岡地裁久留米支部での準強姦事件。
2つ目は、25歳の女性をレイプして、けがを負わせ、強制性交致傷の罪に問われたメキシコ人男性の静岡地裁浜松支部での強制性交等致傷事件。
3つ目は、当時12歳の長女に乱暴したなどとして、強姦と児童買春・ポルノ禁止法違反の罪に問われた静岡地裁での事件(強姦罪では無罪の判決)。
4つ目は、私もこうツイートしたが、愛知県で父親が19歳の実の娘をレイプした名古屋地裁岡崎支部での準強制性交事件。
(※2017年の刑法改正で、上の事件も発生時期によって罪名が違うが、以前の強姦罪→強制性交等罪、準強姦罪→準強制性交等罪と考えていい)
どれも信じ難いような判決だし、何と3月一カ月間だけで4件もこういう無罪判決が出ている訳だから、twitterやネットで、“この国の裁判官はどうかしている、この国は「レイプ天国」か”など、という声が出ているのも当然。
それこそ99.9%が有罪になるという日本の刑事裁判としても異例中の異例だし、なぜこんなことが起きるのか、色々と記事資料や専門家の意見も調べてみて驚いたのだが、この問題。どうやら「この国の裁判官はとんでもない」という話では終われない問題のようなのだ。
まず一点目は、この国がレイプなど性犯罪に甘くなっている訳ではなく、その逆。今までならば警察や検察に訴えても取り上げて貰えなかったり、不起訴になっていた事件が、裁判になった結果として、無罪が増えているというのだ。
2017年の刑法改正で性犯罪が厳罰化され、レイプも強姦罪が強制性交等罪、準強姦罪が準強制性交等罪などと名前が変わるのと同時に、被害者が訴えなくても警察や検察が立件出来る非親告罪化も行われた。この結果、警察が今までならばとりあわなかったり、検察が不起訴で裁判にしなかったレイプ事件も裁判にまでは持ち込むようにはなった。ところが、司法全体としての考え方、裁判所で行われる判断の基準などは変わってないから無罪判決が連発される、という訳なのだ。
つまり、今までは多くのレイプ被害者が警察や検察の手で泣き寝入りさせられていたが、それが少し減って、今度は裁判所で泣き寝入りさせられている構図と考えていいだろう。
もう一点は、法律そのものの問題。この話の時にも少し触れたが、法律(刑法)の上では、「故意」で犯した罪を罰するのが大原則で、言い換えれば、ワザとやっていなければ罪には問えないのだ。
例えば、コンビニで自分の傘と間違えて他人の傘を持ってきた場合などにも、ワザとではないので窃盗罪には問えない。ワザとではない間違いの場合にも罰する、過失致死罪のような「過失」規定を盛り込んだ罪は特殊で、勿論、レイプ犯罪(強姦罪、準強制性交等罪)にも「過失」を罰する規定はない。
つまり、相手の同意を得ない性交渉、レイプが行われたとしても、レイプを行った方が相手が同意していると勘違いした場合は「故意」ではなく「過失」なのだから罰することは出来ない、無罪ということになるのだ。
事実、上の無罪判決でも、1番目と2番目は同意のない性行為、レイプがあったという事実は裁判所も認めている。ただし、加害者が相手が同意をしていると勘違い、正式には「誤信」してしまうような状況があったので「故意」ではない=無罪、という判断になっている。
これをおかしいと思う人も、“勘違いした場合も有罪にしてしまえ!”と思う人もいるだろうが、人の死と違って性交渉そのものは不幸な結果でも悪でもない。両者の合意があれば何の問題もないのだから、性交渉で「故意」ではない「過失・誤信」まで罰するのは明らかに法律としては正しくないのだ。
また、いま強制性交等罪などから外すべきだと議論を呼んでいる「暴行脅迫要件」も一慨にこれがあるから無罪になってしまうという訳ではなく、逆に暴行や脅迫をしたこと自体が加害者の「故意」の証明、被害者の同意を得たという「誤信」がない事実の証明になっている面もあるのだ。
それでもレイプ、つまり同意を得ていない性行為があったという事実がありながら、加害者が罰せられないのは絶対におかしい、許してはならない、と思う人もいるだろう。私自身もそう思う。
ではどうすればいいか、というと、これはもはや法律や裁判の問題ではないのだ。
勿論、同意を得ていない性交渉はレイプだ、という当たり前の認識を国民全員が持つことは先ず大前提。これを法律の条文に盛り込め、という意見もあるが、今でもこの部分は法律の基本になっているし、大切なのは法律ではなく私たち自身が全員、そう理解すること。
それに何より問題なのは、ちゃんとした同意がないのに加害者が相手の同意を得たと思って性交渉をしてしまう間違いなのだし、その「誤信」をなくすことしかないのだ。かといって商契約ではないのだから、同意した旨をお互いに文書で交わしたり、口頭で約束し合うということも現実的には不可能。
その為には、性交渉をレイプにはしない正しい合意とは何なのかを理解すること。そしてその逆の“そんな状況で相手が性交渉を同意をしたと思い込むのがおかしい、そんなことは同意ではない”という、性交渉の同意に関する正しい「常識」を裁判官も含めて、私たち全員が共有するようになるしかないのだ。
“一緒にお酒を飲んだ女性を自分の部屋に誘ったら喜んでついて来たんだからやってもOKとか、キスをしたら「いや」と言われたけど、大して嫌がっているように見えなかったから大丈夫“…云々とか、それこそ私たち自身、特に男性の考え方から根本的に見直していかないといけないし、この国、この社会の「常識」そのものを根底から変えていかないといけないのだ。それをせずに裁判官だけを“とんでもない”と責めても無駄だろう。
そういう意味では、女性の意志を尊重するのは勿論、女性の人権…女性だけではなく他者の人権そのものを尊重できる意識も、もっと私たち自身に培われなくてはならない。
こう考えてくると、とんでもない判決がただ出ているだけではなく、この国が「レイプ天国」である背後には、人権への意識など、この国が抱えるもっと根本的で深刻な問題、闇があるとも思わざるを得ないのだが…。
追記:3番目、4番目の無罪判決についても言及しておくと、3番目の「無罪」判決は、“家が狭くて家族が多いからレイプは無理”という部分は論外にしても、被害少女の証言が不自然に変遷した部分があるようなので、誣告の恐れもあって、ちゃんとした裁判記録を読まずに判断すべきではないと思われる。
4番目については、現在は近親相姦そのものを処罰する規定はないし、家族や家庭、個人への法権力介入の問題などもあって、それ自体を一慨に間違いとも言いきれないのだが、女性が被害を訴えている以上、準強制性交等罪の「抵抗不能」の意味を親子関係なども含めて、広く解釈することで対応すべきなのだから、明らかに不当な判決だろう。
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