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「ポリコレ」は何を裁くのか

 このドイツのホームセンターのCMが世界中で大きな議論を呼んでいる。

     最初にこのCMをアジア人女性への差別として問題視したのは、この記事にもあるように韓国なのだが、実はこのCMに出てくるアジアの都市は韓国でなく日本だし、自販機でおやじの使用済み下着を買い、臭いをかいでウットリしている女性も日本人女性という設定なのだ。

   この広告を制作したHEIMATに所属するクリエイティブディレクターは、ドイツで広告・マーケティングの情報サイト「HORIZONT」にCMについて聞かれ「日本の自動販売機の文化をもとにしている。性別の役をひっくり返したにすぎない。男性が若い女性から中古の下着(スリップ)を買っているという『都市伝説』を、いまは女性が男性の中古のシャツを買う、と変えている」と語った。

    そう、これは”使用済み下着を売る少女→中年男性、使用済み下着を自販機で買う男性→女性“と180度逆にした、男性が女子中高生などの使用済み下着を買う「ブルセラ・ビジネス」のパロディだし、それを皮肉ったものだというのだ。この制作者は「都市伝説」と言っているが、日本で使用済み下着が売買されていたのは紛れもない事実だし、実際に日本にはこういう自販機まで存在したという。

    こう考えてくると、このCMで本当に皮肉られ、蔑視されたのは韓国人女性ではなく、日本人、それも少女の使用済み下着を買って喜ぶようなエロ男性ということになるのではないだろうか。

  ただ、この「ブルセラ・ビジネス」を知らない韓国など外国の女性には、これは女性蔑視・女性差別と勘違いされても仕方ないし、このCMが何よりも間違ったのは、使用済み下着を売るのが自分たちの顧客、つまり白人男性で、買うのがアジア人女性という人種差別が想起される設定をしてしまったことだろう。

    勿論、これは上にも説明したようにCMを作った側としては全く意図していない事なので、このメーカーは単にCMを放送中止にするのではなく、多様性を支持しているとして、白人女性が下着の臭いをかぐ動画のtwitterを投稿したり、抗議活動を続ける韓国人女性と話し合いの場を持とうとしているとのことだ。(この辺りは事勿れ主義ですぐ放送中止にする日本の企業とは大違いだが…)

    とはいっても、これは「ポリコレ(political correctness)」的には絶対にアウト。女性差別、人種差別として誤解を招くCMである以上、放送中止は勿論、謝罪をする必要があるのは言うまでもないだろう。

   ただ、一点。私はどうしても気になることがある。

 それは、このCMの場合も、作った側に女性差別・人種差別という意図がないのは明らかだし、それが受け手側の誤解なのも間違いない点だ……“誤解を招くような表現をする事自体がいけないのだから問答無用!”という意見もごもっともだし、それが「ポリコレ」の本質であることも理解している。

  ただ、ただなのだ。例えば、「殺人罪」は殺意という「意図」を持った人殺しを罰しているのであって、単に人が死んでしまったという「結果」を罰しているのではない。事実、殺意という「意図」がなければ、人が死んだという「結果」は同じでも、過失致死や暴行致死などもっと遥かに軽い別の罪になる。

   それと同じで、女性差別や人種差別といった差別やヘイトも、その人の内心にそういう差別意識や偏見があること自体が問題なのだから、差別するつもりがあったという「意図」こそを本来は罰するべきなのではないのだろうか?

 つまり、発言や行動、作品などに差別やヘイトの「意図」があった場合に罰せられるのは勿論、当然にしても、差別する「意図」が全くない場合にも罰するのはどうなのだろう……「意図」がなく、たとえ誤解であっても、受け手が差別されたと感じる「結果」が生じた以上は罰せられて当然、という「ポリコレ」的な正義には私はどうしても諸手をあげての賛成はしかねるのだが…。

     とくにいま世界中のファッション界で問題になっている「文化の盗用」などでは、デザイナーの「意図」とは全く関係なく、受け手が何を感じるかだけで次から次と批判を浴びている。その中にはどう考えても誤解どころか、考え過ぎや、こじつけとしか思えないものも含まれているように感じるし、そもそも「ポリコレ」が一体何を裁き、罰しているのかを疑問に思うのも確かなのだ。


追記:因みに、この「意図」で裁くべき、という話は、あくまでも差別やヘイトについての「ポリコレ」の話であって、セクハラやパワハラなどのハラスメントや、いじめの話ではないことはご理解頂きたい。

 ハラスメントやいじめは、差別やヘイトなど内心の差別意識や偏見の問題ではなく、対人関係の問題なので、「ポリコレ」とは無関係。相手がどう感じたかこそが全てになるので、加害者側にたとえ被害者を傷つける「意図」がなかったとしても決して免罪はされない。被害者の心情を考えなかった事自体が罰せられるべきなのだから。

                       ※Photo by Pixabay

   




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