隣のネズミ-7
拙作短編「隣のネズミ」はこの回で終了です。
イイネで応援してくださった方、読んでくださった方、誠にありがとうございます。
創作を「晒す」のは、レスポンスをいただける可能性とを天秤にかければ安いものと考えつつも、けっこう恥ずかしいものなので、ほんのちょっとのお気持ちが全て励みになっています。
昭和産まれの人間より、今の人達の心が弱く幼いのは、どうしょうもない事なんだろうか。
高瀬さんが子供会を辞めてから、また、水島さんが自治会合に来ることになったらしい。
水島さんは、何を考えているか分からないし、高瀬さんのことで逆恨みされても困るから、話を聞いてみようか、ということになった。高瀬さんは、水島さんのことが気に入っていたみたいだから、きっと、私達に良い顔をしながらも、彼女には私達の愚痴を言っていたんだろう、と当たりをつけてカマをかけたけど、別にそういうことは無かったらしい。
私達が頼りになる、と。良かった、と思うと同時に、高瀬さんにはもっと親切にしても良かったかな?と思って、連絡先を聞こうと悩んだが、水島さんにとって、高瀬さんが彼女より私達を頼りにするのは面白くないことだったみたいで、どんどん不機嫌になった。
人生の経験値が違うんだから、張り合っても仕方ないのに。挙げ句の果てに、フォロワーさんしか知らないはずのハンドルネームで私を呼び付け、集会室から出て行った。正田さんから、何のことか聞かれたの。「放置しているつぶやきアプリのアカウント名だけど、変な人からフォローされているのを放置していたから、何か勘違いしているみたい」と、説明しておいた。
水島さんにチェックされているなんて、気持ち悪いからアカウントを一旦削除したけど、フォロワーさん200人に心配されるから、新しいアカウントを作った。一週間、鍵を付けておいた。
水島さんのことは気持ち悪いけど、子供自慢ばかりの従姉妹や、五十歳間近になっても子供部屋おじさんの弟よりはマシかも知れない、と、思うこともある。けれど、やっぱり態度が悪い。
冬が近づいて、パートと家事の傍ら、衣替えやベランダの鉢を替えるうちに、ふっと思いついたことがあった。ひょっとして、お隣の水島さんは、発達障害なのでは。それが遺伝して、息子さんも。
あり得る話だ、と思った。彼女の感覚はけっこう変わっているみたいだし、こちらが不快に思うようなことでも平気で言う。
大人の発達障害者は疲れるけど、息子さんはまだ可愛い気があるので、兼ねてから気になっていた子供のお見送りを引き受けることを、提案してみた。出勤する時間のほうが、通園・通学する時間よりも早いために、困っている共働き世帯が多いとニュースで聞いた。水島さんも、根は悪い人では無いんだろうから、そこまでされれば、私の懐の深さに気付くかも知れない。ついでに、つぶやき投稿の九割が「子育てを頑張る私」で、私を小馬鹿にしている年下の従姉妹も、ご近所付き合いの巧みさを感じればら少しは大人しくなるかも。
ちょうどエレベーターで一緒になる機会があったので、水島さんにその提案をしてみたが、案の定、初めは拒否した。「旦那さんにも聞いてみるよう」言えば、水島さんの尻に敷かれて疲れているはずの旦那さんは、私の提案に乗るかもしれない、と考えた。
かくして、私は冬休みの間、子供ちゃんのお見送りを担当ことになった。
初めは愛想の無い子に思えたけど、慣れてくると人懐こい子で、お菓子を上げると
「さたたさん、ありがとう」
なんて、まだちょっと舌足らずなところが可愛らしい。
水島さんは、連絡ノートやハンカチを入れ忘れることがあって、何度か泥を被ったけど、それでも私はその仕事に慣れて楽しんでいた。けれどやっぱり、息子が私に懐くということが、彼女は気に入らなかったらしい。テレワーク申請が通ったから、という理由で、見送りを私に任せるのを止めたいと言ってきた。
可能性の一つとして考えていたので、私はゴネなかった。
他人の好意を素直に受け取れない彼女だから、私が彼女の良き隣人であることに一生気付けないかも知れないけど、それは彼女自身の問題。私は何もしてあげられないし。