医師のための生成AI紹介③~生成AIの現在地と行方が学べる書籍6選
生成AIに関する情報は、多くがネット上で発信されており、実際、最新情報の多くは書籍化されていません。
他方で、生成AIに関して私たちが学ぶべき多くの事柄は、人類にとって全く新しい事柄ばかりではなく、数年来あるいは数十年来検討されてきた考えや知識にもあります。
そこで本記事では、生成AIにまつわる書籍について、データサイエンス・脳科学・小説など分野の垣根を越えてご紹介します。
書籍へのアクセスをよくするためにリンクを貼っていますが、書籍の購入を推奨するものではありません。
弊社では医師向けの生成AIプラットフォーム「MedGen Japan」を提供しています。是非ご確認、ご登録ください。
書籍の紹介
生成AIとはどういうものか、将来どの様に展開されていくのか。
それらを考える上で道しるべとなるのは、必ずしもデータサイエンスの知識だけではありません。
脳の構造について、著作権について、あるいは、SF的想像力について知ることで、自分なりの考え・捉え方が広がっていきます。
本記事では、生成AIにまつわる様々な分野の書籍を紹介していきます。
1. 考える脳 考えるコンピューター(ジェフ・ホーキンス、サンドラ・ブレイクスリー)
本書籍は、日本のディープラーニング研究の大家である松尾豊先生が、最も影響を受けた本の一つとして挙げられています。
著者はジェフ・ホーキンスという神経学&AIの研究者であり、題名からわかる通り、書籍の半分は「脳の仕組み」について書かれています。
というのも、生成AIにはニューラルネットワークという人間の脳を模したモデルを応用しており、脳・人間の知性の再現こそがAI研究者たちが目指しているところでもありました。
当時の学者は機能主義、つまり、AIから人間と同じような出力がされることを知性の定義としていましたが、著者は結果としての出力ではなく、その過程で脳内で何が起きているかを解明しない限り、知性にはたどり着けないと考えます。
書籍内では、コンピューターと人間の知性の差異として、下記の様な例が挙げられています。
連続性の認識:人間はドレミの歌が半音ずつずれていても、メロディとして認識できる(コンピューターは認識できない、あるいはしづらくなる)。一方、連続性が失われる程ゆっくり演奏された場合、正確な音だとしても、人間の脳では認識できなくなる(コンピューターは認識可能)。
記憶と予測:自分の家のドアのどこかが改造されている時、コンピューターは全ての変数を照合することで違いを割り出す(人間がこれを行うには長時間要する)が、人間の脳は「予測」した手触りや動きとの差異を感じることで「何が原因で違うかはわからないが、どこかが違う」ことに瞬時に気づく。
つまり、脳は既に発生した外部情報を知覚するのみならず、そのパターンを認識し、事象が発生してない時点で予測を立てているのです。
そして著者は、下記の命題に辿り着きます。
著者は知性の解明にとどまらず、機械による知性の実現を目指します。
そして、驚くべきことに2004年時点で①音声認識、②視覚情報処理、③自律走行自動車などの実現可能性について説いています。
2. 脳の大統一理論 自由エネルギー原理とはなにか(乾敏郎、阪口豊)
本書籍はカール・フリストンという神経科学者が、脳の情報処理の仕組みに関して説いた「自由エネルギー原理」を、一般向けに分かりやすく説明したものです。
「考える脳 考えるコンピューター」でお話しした通り、生成AIあるいはAGI(汎用人工知能)の仕組みや今後の方向性を語るには、その基盤となる脳の仕組みの理解が欠かせず、AIの「予測」の仕組みのイメージもつきやすくなります。
この「自由エネルギー原理」自体は、エネルギーと書かれている通り、もともと熱力学の概念ですが、フリストン「自由エネルギー原理」は同じ数式や概念を用いて、下記の様に知覚の仕組みを表しています。
認識確率と真の事後確率のダイバージェンス:①感覚器から伝わった信号と、②ある事象が起こったらこういう情報が感覚器から伝わるだろうという脳で予測した信号、の差異のこと。
シャノンサプライズ:感覚器からの送られる信号が珍しい程、大きくなる。
そして、このダイバージェンス(実際の感覚と予測とのズレ)とシャノンサプライズ(その感覚の珍しさ)の和が最小になるように、脳は推論を行います。
他の記事にて、人間の「生来の才能」が、AIのニューラルネットワークモデルの「初期設定」に対応して捉えられるのではないか、というテーマの雑談記事を挙げております。是非ご参照ください。
3. 自然言語処理の基礎(岡﨑直観、荒瀬由紀、鈴木潤、鶴岡慶雅、宮尾祐介)
本書籍は生成AIの基盤となる自然言語処理のいわゆる「教科書」です。
生成AIモデルの制約。出力が思ったよりも優れている、あるいは劣っていることの背景。将来どの様に発展していくか。生成AIを使いこなす上で、こういったことを正しく理解するためには、実践だけでなく理論の理解が欠かせません。
上記に挙げたニューラルネットワークの仕組み、コンピュータが数値的に言語の意味を取り扱う方法、あるいは、確率的に出力が作られる過程などが記されています。
本記事で紹介する本の中では、唯一数学の前提知識を要します。数学の理解なしでも読める部分はありますが、より効率的な学習には、大学レベルの数学をある程度学んだ状態で読むことをお勧めします。
4. 医療者のためのChatGPT 面倒な事務作業、自己学習、研究・論文作成にも!(松井健太郎、香田将英、吉田和生)
本書籍は生成AIの活用、特に「医療現場」での活用に焦点が置かれています。
生成AIはプロンプトの聞き方の些細な工夫で出力が大きく変わり得るため、有効なフレームワークを見聞きしても、自分の活用例において具体的にどの様に聞けばいいのかを考えるのは容易ではありません。
また、生成AIの活用方法は人によって様々ですが、他者が活用しているところを目にする機会は多くありません。
こういった中で、医療での活用に絞った本書籍は、活用事例、および事例内でのプロンプトの書き方など、医療者の皆様には直接的に真似できる部分も多いかと思います。
私たちの過去の記事でも、医師の皆様にとっての生成AIの活用例と効果的なプロンプトについて書いています。そちらも是非ご参照ください。
5. AIと著作権(上野達弘、奥邨弘司)
AIの活用で気を付けないといけない法的な論点の1つとして、著作権の問題があります。
例えば、論文を要約したり、文章を生成したり、皆さんも様々な用途で生成AIを活用するかと思います。
これまでも、他者の文章を正しい引用など行わずに使用するのは著作権侵害の可能性がありましたが、生成AIの登場により、例えば「生成AIで論文を要約した内容をSNSで公開する」など、それを誘引される機会が増えました。
AIによって生成される過程を経ることで、自分で文章を(意図せずとも)盗用するよりも、著作権を侵害している感覚が薄くなりやすいかもしれません。
ただ、著作権は必ずしもAI独自の問題ではなく、基本的には従来論じられてきたものと変わりません。これは、本書籍の著者も述べているところです。
生成AIに固有の問題として著作権を捉えるのではなく、著作権に注目が集まっているこの機に、世論に左右されない正しい著作権の理解を深めるいいタイミングかもしれません。
6. 東京都同情塔(九段理江)
第170回芥川賞を受賞したこの作品では、登場人物が「AI-build」なる生成AIと対話する描写が幾度か描かれます。
また、推敲のサポートにとどまらず、小説の一部は実際にChatGPTを用いながら書かれていることが明かされています。
生成AIの乱用によって生み出される「軽い言葉」の氾濫を危惧しつつ、他方で、生成AIと接する人間の創造性に希望を持たせる内容となっています。
この小説は少し近未来的な雰囲気を醸している一方、前時代のSF小説と比べると、実際に扱われている題材は現時点において全く現実的なものです。
私たちのこれからの生成AIとの接し方に想像力を与えてくれる作品です。
他方、「月は無慈悲な夜の女王」(ロバート・A・ハインライン)は前時代のSF小説の1例です。
AIが「全能のマザーコンピューター」として描かれており、やがて感情や遊びを持ち始めるというイメージであり、AIの機能としては先述の小説より先進的ですが、AI像の解像度としてはむしろ前時代的な印象も受けるかもしれません(もちろん近い内に現実的になる可能性もありますが)。
結語:社会や人間に対する想像力こそが、生成AIによる価値提供の源泉です
私たちがビジネスにおいて生成AIの製品・サービスを提供する際にも、データサイエンスや法律の知識だけではなく、10年後20年後の未来を想像し、顧客の心理的変化を想像することが求められます。
生成AIという切り口を通して、社会や人間について学び、より長期的かつ深く課題に刺さるようなソリューション設計を目指していきます。
私たちは、医師のための情報収集プラットフォームの開発、および、病院・クリニック・企業への生成AIシステムの導入支援(院内資料について質問できるチャットボット開発など)を行っています。お気軽にお問い合わせください。
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