【製薬・医療機器 営業・マーケティング】「顧客中心」の医療情報提供の概念と、必要とされる取り組み
皆様ご存じの通り、営業やマーケティングにおいて「顧客中心」というワードが注目を浴びて久しいです。医薬品や医療機器などのヘルスケア製品の営業・マーケティングの在り方でも、「企業主体」から「顧客中心」へと移っています(ここでいう顧客は、主に「医師」を指します)。
それは、個々の顧客との向き合い方だけではなく、会社の全体戦略であり、組織の在り方であり、また、技術基盤の問題でもあります。
本記事では、主にヘルスケア企業の営業・マーケティングにおける、「顧客中心」とは何を表すのか、そして、どの様な技術基盤によって可能になるのかをご紹介します。
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「顧客中心」とは?
「顧客中心」について知るには、「顧客中心ではない」とは何なのかを知る必要があります。それは、企業が伝えたい内容・タイミングを起点として営業・マーケティングを行う「企業中心」です。
それに対して、顧客の主体的な関心を起点とした営業・マーケティングこそが「顧客中心」と呼べます。
ヘルスケア企業の営業・マーケティングはどの様に行われる?
ヘルスケア企業は、数年、時には数十年かけて医療製品を開発し、承認を受けます。そして、その製品が市場に届くよう、営業担当者(MR)や講演会、メール、デジタル媒体などを通じて対象疾患や新製品の啓発および適正使用のための情報提供を行います。
これらの媒体は「チャネル」と呼ばれ、伝統的にはチャネルごとに単一の情報資材を用意し、全ての医師に対して一律に届ける「チャネル中心」の情報提供が行われてきました。
この際、能力の高いMRは個々の医師の顔を見ながら話し方や内容を調整しますが、近年は例えば「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」が設けられるなど、MRが話せる範囲が縮小しています。また、個々のMRの経験に依存する部分も大きく、全社的な施策は困難でした。
他方、医師のニーズは多様であり、説明の中で重視する内容、情報を求めるタイミング、情報を得やすいチャネルなどは個人によって異なります。
他の分野と変わらず、医療であっても情報提供の肝は、「最適な顧客に、最適なタイミングで、最適な内容を、最適な方法・チャネルで届け、情報の価値を最大化すること」であり、これにより、顧客の満足度や購買意欲、そして企業側の投資効果も最大化されます。
下記のMcKinsey社のレポートでも、個々の顧客に対する情報提供の最適化によって、実際に売上上昇(5~10%)やコストカット(10~20%)が実現されていることが示されています。
ヘルスケア業界における「顧客中心」のトレンドは?
では、情報提供の最適化を行うために、具体的にどの様な取り組みを行えばいいのでしょうか。ここでは、3つのトレンドをご紹介します。
1. 「Push」から「Pull」への転換
これは企業が届けたいタイミングではなく、医師が能動的に知りたいタイミングで必要な情報を取得できるようにすることです。
現状、ヘルスケア企業のマーケティングの大部分が「Push」、つまり、起業主体の情報発信に注がれています。特にデジタルの情報提供に関して、私たちの独自調査によって下記の結果が得られています。
デジタルでの情報発信の7割が関心の薄い医師に届けられている
8割の医師が過剰なメルマガによる情報発信をネガティブに感じている
これを「顧客中心」にするためには、「Push」を「Pull」に転換する必要があります。すなわち、臨床や勉強会など、医師が情報を欲するきっかけがあり、情報を得るための行動を取った際に、医師が顕在的・潜在的に知りたい情報が提供される仕組みが重要です。
2. コンテンツの最適化
医薬品分野の資材はガイドラインに即して制作する必要があり、他業界と比べて自由度が低いです。そのような中でも、複数の資材から個々の医師が重視する側面に合わせて選択できるような取り組みが行われています。
例えば、ヘルスケア業界で説明資材の管理プラットフォームを提供するVeeva社は、資材をモジュラーという複数のセクションに分け、医師ごとに組み合わせや順番をカスタマイズできるようなサービスを提供しています。
また、説明の内容や順番だけではなく、資材のフォーマットやスタイルなども、実は影響を与えています。ZS Associates社の調査では、フォントサイズや画像の数などがメールのクリック率に影響を及ぼすことが示されています。
3. オムニチャネルの実施
同じ情報であっても、MRや講演会、デジタルプラットフォームなどさまざまなチャネルが用いられます。メディア研究の大家であるMarshall McLuhanが唱えた「メディアはメッセージである」に象徴されるように、表現形式によって受け手側の理解も変容します。
このように、複数のチャネルを個別に(バラバラに)運用することを「マルチチャネル」と呼びます。これをさらに発展させ、複数のチャネルを統合的に運用することを「オムニチャネル」と呼びます。
近藤・中見の『オムニチャネルと顧客戦略の現在』で、この概念は2011年からアメリカの小売業を中心に発展したものであることが語られています。
例えば、顧客がオンライン上で商品の情報を収集しつつ、実店舗で試用し、オンライン上で注文して自宅へ配送するなど、顧客と企業とのコミュニケーションが多層的かつ統合的に行われて購入の意思決定・体験が形成される状態を指します。
ヘルスケア業界でも同様の取り組みがなされ、MRが講演会の参加を促し、講演会の参加者にデジタルでフォローアップを行うなど、1人の医師との接点を点ではなく連続的な線で捉え、複数チャネルを統合することでより深い情報提供を行っています。
また、ここでは「チャネル」もヘルスケア企業主導のものに限られません。医師間の口コミ、患者やコメディカルとの対話、検索行動など、該当する製品や疾患に関するあらゆるコミュニケーションを含みます。
「顧客中心」のトレンドまとめ
このように、個々の医師のニーズに合わせたパーソナルな情報収集体験の提供は、医師の能動的な情報の取得を起点としつつ、医師またはその先の患者のニーズを解析し、顕在的・潜在的に関心の高いタイミング・内容を正しく把握し、チャネル横断的に情報を届ける一連の営みにより可能となります。反対に、こうした営みなしには、有用な技術や情報が必要としている対象に届かない可能性もあります。
「顧客中心」はどの様に達成する?
これらが経験と勘による人力ではなし得ないことは想像に難くありません。データサイエンス技術と、それを支えるデータパイプライン構築や組織構造により、初めて成り立ちます。
特にヘルスケア業界では顧客データが充実しています。例えば、顧客単位の過去の営業・マーケティングデータ、施設・ブリック単位の処方データが入手できます。さらにレセプトなどのリアルワールドデータ(RWD)を扱う業者もいます。こうした環境から、データサイエンスとの親和性が高いです。
「顧客中心」の営業・マーケティングに用いられるデータサイエンス技術の例
ごく簡単にですが、マーケティング分野で近年適用されるデータサイエンス技術の例を挙げます。
まず、自然言語処理を用いて、資材へのタグ付け(カテゴリカルな変数への分類)や文章をベクトル化した上での内容の類似度計算など、コンテンツ側の整理が行われます。
その上で顧客の反応や処方意向の変化をデータ上で観測し、時系列上で各接点やコンテンツが与えた影響が機械学習により解析されます。
また、人間の脳を模した数理モデルであるニューラルネットワーク等のAI技術を活用し、接点の連続性をパターン解析して有効なパターンを特定・予測することにより、複雑かつ個別の最適化を達成しようという動きも見られます。
結語:「顧客中心」のための変革は総合格闘技
上記でも述べている通り、これらはデータサイエンスだけで技術的に解決できるものではありません。これを可能にする、組織の構造、データ基盤、社内のコミュニケーション、そして最終的には、それを理解して使いこなす「人」、全てが必要となります。
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