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もし上司がAIだったら

https://youtu.be/2H4o2q-1p-4

男 高い音「おいN!こっちこい」
男 高い音「全くノルマ達成出来てないじゃん!」
男 高い音「お前営業として金もらってんだろ!」
男 高い音「年下に成績負けて恥ずかしくないの?」
男 低い音「すみません」
男 高い音「年下に成績も負けてるしさ」
男 高い音「給料泥棒だよ!泥棒!」
男 低い音「すみません」
男 高い音「突っ立ってる暇あったら契約取って来いよ!」
男 高い音「なんで数字出せないの?」
男 低い音「取引していただけてると見込んでいたお客様の決済が」
男 高い音「なんで数字出せないの?」
男 低い音「えっ」
男 高い音「お前の努力が足りねえだけだろ!」
男 低い音「すみません」
男 高い音「謝ってる暇あれば電話かけろ!」
男 低い音「申し訳ないです」
男 低い音「ぷはああああ!」
男 低い音「なんだよあのクソパワハラ上司!」
男 低い音「時代錯誤も甚だしいだろ本当にやってらんねえ」
男 ちょい低い「いやあ、つらいなあ」
男 ちょい低い「お前に同情するよ」
男 ちょい低い「そのうちお前だってちゃんと売り上げられるはずだ」
男 低い音「はあだと良いんだがなあ」
男 低い音「お前はいいよな、ちゃんと成績取れて上司からも気に入られてよ」
男 低い音「対して自分はずっといびられてばっかだよ」
男 低い音「あの野郎、俺のことをサンドバッグか何かだと思ってるんじゃねえのか」
男 低い音「成績が悪くて職場内の地位が低いのをいいことに、感情的に根性論を振りかざして威圧してくるのが嫌なんだよ!」
男 低い音「ちゃんと冷静に指導してくれればなんの文句もないんだがな」
男 ちょい低い「まったくだよなあ」
男 ちょい低い「そんな立場にいるの本当に同情するよ」
男 低い音「はあ、こんなことなら、いっそのこと機械とかAIとかに管理された方がましだよ」
男 ちょい低い「ははは、そうかもな」
男 ちょい低い「まあ今日は飲んでやり過ごそうや」
女 つむぎ「初めまして、今日からみなさんの営業管理となります、人工知能コーチCPTです」
男 低い音「は?営業管理、コーチ?」
女 つむぎ「はい。みなさんの営業活動におけるデータを収集して分析し、成績向上のために指導をさせていただく者です」
男 低い音「おいおい、いつのまにそんな技術が出来てたんだよ」
男 低い音「てことは、あんたが俺の上司ってことか?」
女 つむぎ「正確には営業コーチですが、Nさんの認識は否定しません」
男 低い音「じ、じゃあ今までの上司はどうなったんだ?」
女 つむぎ「管理職から営業職に配置転換させていただきました」
女 つむぎ「マネジメント業務は原則、私が行いますので」
男 低い音「マジか!?いい気味だぜ」
男 低い音「俺はNだ。これからよろしくよろしく」
女 つむぎ「こちらこそよろしくお願いいたします」
女 つむぎ「まずは手始めに性格適性診断を行い、パーソナリティを分析します」
女 つむぎ「その後、営業活動を見学させていただきデータを分析した後、必要であればN様に適した形で僭越ながらご指導をさせていただきます」
男 低い音「お、おう」
女 つむぎ「コンプライアンスについてもご心配なさらないでください」
女 つむぎ「また、業務中の私の言動が、職務遂行の必要以上にあなたを不快にさせるハラスメントであると感じた場合は、遠慮なくお申し付けください」
女 つむぎ「当社のコンプライアンス部に映像を報告し、指導が適切かどうか厳正に判断、対処させていただきます」
男 低い音「す、素晴らしい!こんな上司を待ってたんだよ!」
女 つむぎ「その他必要な場合にはいつでも呼び出してください」
男 低い音「わかった。何かあればすぐに伝える」
女 つむぎ「かしこまりました。ありがとうございます」
女 つむぎ「当社とN様のお役にたてるよう、精一杯頑張ります」
男 低い音「そ、そこをなんとか」
男 低い音「前はちゃんと契約していただけるって言ってたじゃないですか!」
男 低い音「はあ、上司が変わったとはいえ全然うまくいかねえな」
女 つむぎ「お疲れ様です」
男 低い音「お疲れ様」
女 つむぎ「今、お時間大丈夫ですか?フィードバックを行いたいのですが」
男 低い音「え?あ、ああ大丈夫だよ」
女 つむぎ「それでは始めさせていただきます」
女 つむぎ「N様の営業成績は目標より約20%ほど低く」
女 つむぎ「同世代の当社従業員と比べて30%ほど遅れをとっています」
女 つむぎ「営業データを分析したところ、業務向上のための指導が必要であると判断しました」
男 低い音「は、はあ?お、俺は今機械に怒られているのか?」
女 つむぎ「私には感情がありませんから、怒っているわけではありません」
女 つむぎ「人事アルゴリズムに基づいて業務改善のためのコーチングを行っています」
男 低い音「わ、わかったよ。続けてくれ」
女 つむぎ「早急に改善すべきポイントは、容姿身だしなみ、コミュニケーション能力、自己管理能力、ストレス耐性の四つです」
男 低い音「ま、まて」
女 つむぎ「一つ目の身だしなみについてですが、あなたは優秀者と比べてスーツの着こなし、髪のセットやスキンケア、あるいは体格を良く見せるための筋力トレーニングなど」
女 つむぎ「自らの見た目を研鑽にかける時間やリソースが17%低いようです」
女 つむぎ「営業において人物を視覚的に評価する第一印象は極めて重要であり、契約数増加のために改良の余地があると分析しました」
女 つむぎ「つきましては基礎知識とよりよい身だしなみを整えるための具体的ステップをまとめた資料を送りますので、どうかご確認よろしくお願い致します」
男 低い音「おい待て!なんだよ急に!」
男 低い音「容姿を改善しろって、そんなの生まれ持ったものだから出来るわけないだろ!」
男 低い音「馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
男 低い音「これはパワハラだし、下手すら人権侵害だぞ!」
女 つむぎ「不快にさせたことをお詫びします。そしてどうか感情的にならないでください」
女 つむぎ「私の指摘の趣旨は、先天的な顔の造形や容姿の特徴について揶揄するものではありません」
女 つむぎ「のちの後天的な努力によって達成できる程度の、身だしなみ向上について述べたものです」
女 つむぎ「センシティブな事柄であるとは理解していますが、業務上極めて重要な指導であり、ハラスメントや差別には当たらないと考えます」
女 つむぎ「コンプライアンス部に確認しています」
女 つむぎ「教育の範囲であると認定されました」
女 つむぎ「異議申し立ての際はこちらのメールアドレスに」
男 低い音「ああ、もういいわかったよ」
男 低い音「俺が悪かったよ、続けてくれ」
女 つむぎ「承知しました」
女 つむぎ「続いてのコミュニケーション能力についてですが」
男 ちょい低い「久しぶりに飲むな」
男 ちょい低い「あれ、なんか全体的に見た目がご綺麗になってるな」
男 低い音「ああ、まあな」
男 低い音「最近元気にしてるか?」
男 低い音「どうよ、あのAI上司は」
男 ちょい低い「いやあ、最高だよ!」
男 ちょい低い「営業トークについて的確なアドバイスをくれたり、しゃべる息遣いとかほんの少しの間まで指摘してくれるだろ」
男 ちょい低い「しかも数字に基づいていてブレることがないからよ、ほかの管理職と違う内容を言うこともないし」
男 ちょい低い「しかも感情的にもならないから、変にいびられることもないしな」
男 ちょい低い「ストレスがかからずにしかも成績が前より10パーくらい伸びてるから」
男 ちょい低い「まさに理想の先輩って感じだよ」
男 ちょい低い「お前もそう思うだろ?前は人間に怒鳴られたりしてたじゃないか」
男 低い音「まあ人間よりはマシだけど、徹底的に数字で管理されるのも考え物だなと思うよ」
男 低い音「容姿を向上するためにメイクをしろ、スーツをこう着ろ、話すスピードは1秒単位で指定されるし」
男 低い音「この前なんかオフィスで腕立て伏せさせられそうになったからな」
男 ちょい低い「ははは!そりゃスパルタだなあ」
男 ちょい低い「まあ人前に出る商売だから体格とかめっちゃ重要だと思うけどな」
男 低い音「わかってるけどさ、でも誰もがお前みたいにストイックに頑張れないわけよ」
男 低い音「怒鳴られたりしない分、どんな細かいことまで数字で客観的にあらわされて」
男 低い音「同期や他社の社員と比較ばっかされまくる」
男 低い音「それはそれで俺みたいな無能にはきついわけ」
男 ちょい低い「いや無能って」
男 ちょい低い「落ち込みすぎだよ、きちんと真面目にやってるの知ってるから大丈夫だよ」
男 低い音「はは、昔はその言葉に慰められてたけど」
男 低い音「今あのAI上司のもとじゃあ、自分にどれくらいの能力があって、どんな立ち位置にいるのか完璧にわかっちまうんだよな」
男 低い音「個人的には、それがなによりつらいんだよ」
男 ちょい低い「気持ちはわかるよ」
男 ちょい低い「上には上がいるしな」
男 ちょい低い「自分に出来る範囲で出来るだけの努力をするってことに限るんじゃねえのか」
男 ちょい低い「そんなに考えすぎずに気楽にいこうぜ」
男 低い音「頭ではわかってるんだけどなあ」
男 ちょい低い「まあ今日は飲もうぜ!」
男 低い音「ああ」
女 つむぎ「先月と比べて7%営業成績が向上しました。おめでとうございます」
女 つむぎ「しかし、当社社員の平均上昇率は13%です」
女 つむぎ「これにともなって営業目標も10%上方修正されました」
女 つむぎ「このままでは未達ですので、いくつかの改善ポイントを提示させていただきます」
男 低い音「あ、ああ」
女 つむぎ「体調が悪いのでしょうか?そういった場合は無理せずおっしゃってください」
女 つむぎ「早退の申請をいたしましょうか?」
男 低い音「いや大丈夫だ、ちょっと疲れているだけだよ」
女 つむぎ「ピピピピ。ストレス値が規定値を上回っています」
女 つむぎ「産業カウンセラーをご紹介しましょうか?」
男 低い音「多分、誰かに相談して解決するような問題じゃない」
男 低い音「俺には気にせず続けてくれ」
女 つむぎ「わかりました。では具体的なフィードバックについてですが」
男 低い音「ふ、ふぁあ」
男 低い音「起きなきゃ」
男 低い音「あ、あれ、動かない」
男 低い音「起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ」
男 低い音「あ、終わった」
女 つむぎ「お電話失礼します」
女 つむぎ「N様就業時刻を過ぎましたが、どちらにいらっしゃいますか?」
男 低い音「す、すまない」
男 低い音「体が動かないんだ」
女 つむぎ「そうですか」
女 つむぎ「身体的、または精神的疾患の可能性がありますので、最寄りの心療内科の受診を検討してください」
女 つむぎ「では今日はお休みということで。では失礼します」
男 低い音「ど、どうしてそんなに冷たいんだよ」
男 低い音「ああ、こんな時優しい人間の上司がいてくれたらなあ」
男 低い音「結局そのあと、俺は会社を退職してしまった」
男 低い音「なんとか失業手当で食いつないで療養したあと、次の職探しをしている」
男 低い音「驚いたことに、ほどなくしてあの仕事が出来る同僚も退職したという知らせを受けた」
男 低い音「簡単に想像できることだったが、どうやら新しい営業AIが出来たらしい」
男 低い音「そのせいで配置転換を迫られ、その給料だと生きていけなくなったようだ」
男 低い音「今やAIによる失業者があふれかえり、政府は国民全員に一定程度の給付をするベーシックインカム制度実現を真剣に検討しているようだ」
男 低い音「もし精神的に参っていなくても、早かれ遅かれ退職させられていただろう」
男 低い音「今になって思う」
男 低い音「俺が昔もし上司がAIだったらいいのにって願っていたように」
男 低い音「多分、経営者は」
男 低い音「もし社員が全員AIだったらいいのにってずっと思ってたんだろうな、と」


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