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転職支援師たち

youtubeに投稿した動画の脚本です。

https://youtu.be/K9QNWbYGoqQ

男 低い音「なんの疑いもなくホワイト高級企業に転職できると思っていた彼が、無残にブロック企業へ転職したんです」
男 低い音「そして、なんの疑いもなくハイレベル人材を獲得できると思っていた企業が、無残に無能を雇うことになったんです」
男 低い音「おそらく私は、あの時のエクスタシーが忘れられなくて、転職支援師をやっているのでしょう」
男 低い音「今度地獄に落ちるのは、あなたかもしれません」
男 低い音「転職支援師とは、転職アドバイザーとして求人企業と求職者の両方を騙し、大金を手に入れる詐欺集団のことです」
男 ちょい低い「今日狙うのはどんな企業や?」
男 低い音「半導体製造装置を国内外に販売している、大手メーカーです」
男 低い音「最近のシリコンブームに乗っかって急成長し、人材不足に悩んでいるとのこと」
男 低い音「彼らは製造業で営業の経験がある即戦力がお望みだとか」
男 ちょい低い「おっ、大企業の営業職か」
男 ちょい低い「これは結構高い年収での転職になるんちゃうか?」
男 ちょい低い「800万ってところか」
男 低い音「いえ、1000万を提示します」
男 ちょい低い「1000万!?こりゃ随分ふっかけたなあ」
男 低い音「相手は特需に沸く半導体企業」
男 低い音「既に経験がある即戦力の人材は、喉から手が出るほど手に入れたいはずです」
男 低い音「ここは大きく出た方が逆に怪しまれないでしょう」
男 ちょい低い「なるほどなあ。よお考えるわ」
男 ちょい低い「で、その企業から仲介手数料として30%もらうんやな。一撃で300万か」
男 ちょい低い「こりゃええ商売やで」
男 ちょい低い「でも紹介する人材は、相手が求めてるようなハイスペックじゃないんやろ?」
男 低い音「ええ」
男 低い音「ですが面接対策を完璧に叩き込み、法に触れるギリギリまで職歴を盛ります」
男 低い音「よほどの手練れじゃなきゃ、見破れませんよ」
男 低い音「試しに見てみますか?」
男 ちょい低い「おお、お手並み拝見や」
男 低い音「求職中の高橋さん、入ってきてください」
男 高い音「失礼します!よろしくお願いします!」
男 低い音「自己紹介と職務経歴を」
男 高い音「中々メーカーで3年働いておりました、高崎です!」
男 ちょい低い「おお、製造業での勤務経験あるんかいな」
男 低い音「いえ、彼はその企業で清掃員をしていただけです」
男 ちょい低い「くわはははは!」
男 ちょい低い「じゃないとうちみたいなエージェント使わんわな!」
男 低い音「気を取り直して志望動機と転職理由を」
男 高い音「私が御社を志望した理由は、かくかくしかじかで」
男 ちょい低い「こりゃええわ!」
男 ちょい低い「わざとミスリーディングさせる、いい塩梅の嘘やわ」
男 高い音「こ、これでただの清掃員だった僕も、大手企業に入れるんですよね?」
男 低い音「はい、人生逆転できますよ。では下がってください」
男 高い音「本当ですか!ありがとうございます!」
男 ちょい低い「希望に満ち溢れた顔しとったな」
男 低い音「ふふふ、これから面接を受ける企業が」
男 低い音「激務ブラック企業であるとも知らずにね」
男 ちょい低い「そりゃろくに企業研究してない方が悪いわ!」
男 低い音「その通りです」
男 低い音「馬鹿げた都合のよい転職広告だけをみて、主体的かつ批判的に物事を判断できないからこうなるんですよ」
男 低い音「私たちはあくまで転職支援業者ですから、入社後のことまでは責任がとれません」
男 ちょい低い「ふひひひひ!間違いないわ!」
男 低い音「しかも、お金を頂くのは企業側からだけではありません」
男 低い音「高崎さんからも転職手続費としてそれなりの額をいただきます」
男 ちょい低い「悪魔も真っ青やなあ」
男 低い音「ふふふ、人を騙すことほど楽しいことはありません」
男 低い音「さあ、あとは面接を突破するだけです」
男 低い音「もっともフィジカルで、もっともプリミティブで、もっともアイロニカルな、嘘つき転職面接をね!」
男 つまったちょい高い声「ふう、今日はエージェントから紹介された転職者の面接か」
男 つまったちょい高い声「履歴書はっと、ふんふん」
男 つまったちょい高い声「職務経歴も志望動機の文章もよく出来ているな」
男 つまったちょい高い声「顔写真もプロ並みに綺麗だ」
男 つまったちょい高い声「んんんん、でもなんとなく怪しい匂いがするんだよな」
男 つまったちょい高い声「なにもかもちょっと出来過ぎ、って感じがする」
男 つまったちょい高い声「まあでも半導体バブルによって急に仕事が増えたせいで、早く人を取らないと業務が回らねえ」
男 つまったちょい高い声「他部署からの突き上げもうるさいから、最低限のネガティブチェックだけして適当に通すか」
男 つまったちょい高い声「エージェントの皆様もご足労ありがとうございます」
男 低い音「いえいえ、とんでもないです」
男 つまったちょい高い声「それでは、面接を始めさせて頂きたいと思います」
男 高い音「よろしくお願いします」
男 つまったちょい高い声「高崎さんでお間違えないですね?まずは自己紹介をお願いいたします」
男 高い音「中々メーカーで3年ほど勤務しておりました、高崎です!」
男 高い音「よろしくお願いします!」
男 つまったちょい高い声「こちらこそよろしくお願いします。面接官です」
男 つまったちょい高い声「では、志望動機をお聞かせ願ってもよいですか?」
男 高い音「はい!私が御社を志望した理由は、自らの業務経験を生かしながら、急成長する半導体産業、特にトップランナーである御社に貢献したいと思ったからです」
男 高い音「詳しくはかくかくしかじか」
男 つまったちょい高い声「わかりました。ありがとうございます」
男 つまったちょい高い声「続いて、転職理由をお願いします」
男 高い音「はい!もっとキャリアアップをして、成長したいと思ったからです!」
男 高い音「前職でもとても良くしていただいたのですが、かくかくしかじか」
男 つまったちょい高い声「なるほど。とてもやる気が感じられますね」
男 つまったちょい高い声「熱意と人柄が伝わってきて、良い印象です」
男 低い音「そうでしょう。選りすぐりの人材ですからね」
男 つまったちょい高い声「んんん、ではもう少しだけ突っ込んでお聞きします」
男 つまったちょい高い声「高崎さんは前の会社の指導方針が物足りず、もっとハードな環境でチャレンジをしたいとおっしゃっていましたが」
男 つまったちょい高い声「前職の方針がどのようなものであったか、営業成績の詳細、そしてわが社でどのように働きたいかを具体的にお話しください」
男 高い音「え、えええと。具体的に、ですよね」
男 高い音「具体的に、かあ、あは、ええと、えー」
男 ちょい低い「まあまあ、もおええやないか、しつこいなあ」
男 ちょい低い「わしらのこと信用してないんか?あんたの職業倫理どうなってんの」
男 つまったちょい高い声「続けさせてください」
男 つまったちょい高い声「さあ、答えてください」
男 高い音「え、ええとお」
男 高い音「わああああああ」
男 つまったちょい高い声「ど、どうしましたか」
男 低い音「お漏らししてしまったようですね」
男 低い音「まあ、朝からずっと緊張していましたから、無理もない」
男 つまったちょい高い声「えええ、ええええ!!も、漏らした!?」
男 つまったちょい高い声「いやいや社会人でそれはないだろ!老人かよ!」
男 低い音「トイレへ行きましょう」
男 高い音「ぜ、前職では、主にルート営業ばかりを任されていました」
男 つまったちょい高い声「え、え?」
男 高い音「主な担当は家から駅へ曲がったところの、ピーコックのレジ機械や」
男 高い音「外苑西通りを渡ったところにある、ライフの業務用冷蔵庫などを売っていました」
男 高い音「成績は同期の中で一番高く、」
男 高い音「御社では対法人営業、中でもどでかい規模の案件をこなしたいです」
男 つまったちょい高い声「ほ、ほお。頼もしいですね」
男 つまったちょい高い声「ま、まあこの際もうどんなやつでも採用するしかないか」
男 つまったちょい高い声「例えお漏らし野郎だったとしても、だ」
男 つまったちょい高い声「まあこの状況で面接を続けられるガッツは正直すごいしなあ」
男 つまったちょい高い声「すごく期待が出来る新人さんです」
男 つまったちょい高い声「んんんん、では、内定ということで」
男 つまったちょい高い声「これからどうぞよろしくお願いいたします」
男 高い音「本当ですか!?ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!」
男 低い音「ご契約ありがとうございます」
男 低い音「報酬は契約通りに」
男 つまったちょい高い声「こちらこそ人材を紹介してくださってありがとうございます」
男 つまったちょい高い声「お金の方はもちろん任せておいてください」
男 低い音「では、私たちはこれで」
男 ちょい低い「いやあ、ヒヤッとする場面もあったけどなんとかなったなあ」
男 ちょい低い「あんたのおかげや、あんなに機転が利くと思わんかったわ」
男 低い音「あの深堀質問は完全なアクシデントでした」
男 低い音「そこで私は持っていたお茶を高崎さんにぶっかけ、お漏らししたように見せた瞬間に」
男 低い音「極小のイヤホンを耳に刺したのです」
男 低い音「そして予備として待機していた仲間が遠隔で指示を送り、なんとか窮地を脱しました」
男 低い音「運が良かっただけですよ」
男 ちょい低い「どんな不測の事態でも、たじろがずにようやるわ」
男 ちょい低い「本当に、恐ろしい男やで」
男 つまったちょい高い声「ぜんっぜん数字出来てねええじゃん!!」
男 つまったちょい高い声「数字出来てないどころか、基礎的な社会人マナーすらなってないじゃん!!」
男 つまったちょい高い声「まずは挨拶しようねって小学生みたいなことから教えてないといけないの!?」
男 高い音「ちっ、さーせん」
男 つまったちょい高い声「お前、前に製造業の営業として働いていたって言ってたのは噓だろ!」
男 つまったちょい高い声「おいおい、俺は騙されてしまったのか」
男 つまったちょい高い声「クソがっ!クソ!クソっ!」
男 つまったちょい高い声「こんな人材を採用したって知られたら、人事としての評価は終わりだ!」
男 つまったちょい高い声「きっとあらゆる部署から後ろ指をさされるだろう」
男 つまったちょい高い声「1000万!年収1000万もかけて採ったやつなのに!」
男 つまったちょい高い声「人材不足で、ろくに確認もせずに急いで雇ったのが良くなかったんだ」
男 つまったちょい高い声「ふはははは、もう、俺は終わりだろうな」
男 つまったちょい高い声「まさかあいつらが転職支援師たちだったなんて」
男 低い音「ふふふふ、追い詰められた人間の表情は素晴らしい」
男 低い音「次はどの企業を狙いましょうかね」
男 低い音「今日も転職支援師たちは、闇の転職サイトで、獲物を見定めている」


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