ストーリージェニックな名刺の作り方 〜フォトグラファー クロカワさん編〜
はじめに
4月の下旬ごろ。このツイートの写真を見て、思わずリツイートとファボ、フォローまでしたのを、今でもはっきりと覚えている。
その人の名は、フォトグラファーのクロカワリュートさん。
まさか、こんなオシャレでキュートな写真を撮るクロカワさんの名刺のデザインを手掛けることになろうとは、そのときは知るよしもなかった。
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ある日、突然クロカワさんからメッセージが届いた。
クロカワさん:相談なのですが、名刺をそろそろちゃんと作ろうかなと思っています。名刺企画を見て、もしお願いできるのであれば、とご連絡させていただきました。
"名刺企画"というのは、おそらくこちらの「ストーリージェニックな名刺の作り方」のことである。
クロカワさん:毎度かなり凝ったギミックやロジックがあって本当すごいです!
こんな嬉しい言葉もいっしょに添えられており、私のテンションは一気にアゲアゲモードになりました。と同時に、一抹の不安も頭の中をよぎりました。それは、同業者であるフォトグラファーの宇野さんの名刺デザインを以前に手掛けていたからです。
「これは参ったな…」と思ったのと同時に「逆に知恵のしぼり甲斐があっていいかも…」と、前向きに開き直っていたのを、今でもはっきりと覚えています。
そんな中、今回の「ストーリージェニックな名刺の作り方 〜フォトグラファー クロカワさん編〜」の制作が始まったのでした。
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オンラインではなく、東京の秋葉原にて打合せ
ちょうど良いタイミングで、会社の東京出張が重なり、ご本人と直接打合せをすることができました。
いつもは、オンラインやメッセージなどで打合せを済ませることが多いのですが、やはり直接お会いしてお話をする方がコミュニケーションが取りやすいので、最近はできる限り直接お会いするようにしています。
11月4日(日)15:00、JR秋葉原駅にて待合せ。
集合時間よりも少し早めに到着し、私は路上ライブでボイパーをしている兄ちゃん2人組を眺めながら、クロカワさんが来るまで待っていました。
すると、メッセージが届いた。
クロカワさん:着きました!
上司ニシグチ:マイクパフォーマンスしているとこにいます!
クロカワさん:どの辺におりますかー?
上司ニシグチ:・・・(あっ、いた!)
みたいな感じで、SNSを介して人と会うときにする定番パターンをしていると、全身黒ずくめのノースフェイスのパーカーに、カッコ良いナイキのスニーカー履きこなしたクロカワさんが現れました。
クロカワさん:ニシグチさんですか!?
上司ニシグチ:あ、クロカワさんですか?はじめまして!
クロカワさん:はじめまして!
上司ニシグチ:喫茶店かどこか行きましょうか。この辺にあります!?
初対面らしく、二人でぎこちない会話をしながら、近くの喫茶店へと向かったのでした。
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コンセプトは、クライアントごとに刺さる名刺
手元の時計は、15時10分。
ティータイム真っ只中の時間だったので、テーブル席には座ることができず、なくなくカウンター席に腰をかけました。まずは自己紹介から始まり、お互いの会社のことやプライベートなことを中心に、話をさせていただきました。
クロカワさんも私と同じく会社員のクリエイターで、社外のお仕事もたくさん受注されているスーパーサラリーマンでした。どのような感じで仕事をされているのかも伺いつつ、実際に使用されている撮影用のラフや企画書を見せていただきながら、打合せが進んでいきました。
上司ニシグチお決まりの脱線話もちょいちょい入れつつ、本題の「名刺デザイン」について話が移っていきます。事前にクロカワさんからお伺いしていたデザインイメージやご要望をざっくりまとめると、下記のような感じになります。
「クライアントごとに刺さる名刺」として、名刺にバリエーションを持たせるために、「①SNSが入り口の人向け」と「②紹介など自分を知らない人向け」の2タイプの名刺を作成するかたちで、ブランディングをする。
①SNS入り口のクライアント
「クロカワのテイストでお願いしたい」という、仕事を得るためのブランディングとして(こちらが理想)
②紹介などその他のクライアント
ビジネスプロフィールなどの「人物系」と、ホテルなどの「料理系」から仕事を得るためのブランディングとして
この要件を踏まえて書いたメモは、こちらになります。
※あくまでメモ書きですので、実際のアイデアとは異なります。
実際にデザインに起こした企画書は、こちらになります。
この企画書を見ながら打合せを進めつつ、クロカワさんの感想やご意見をコーヒー片手に伺いました。コンセプトやデザインについて、概ね気に入っていただけたので、ほっと胸をなでおろしました。さらに、ブラッシュアップをする部分を詳しく伺って、打合せは終了となりました。
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クロカワさんに、ゆうこすさんから撮影依頼が舞い込む
私は会社の仕事が立て込んでいたこともあり、その翌週からデザインのブラッシュアップをしていこうとスケジュールを立てていました。当初の予定では11月末日の納品であったため、もう少し時間をおいても問題のない範囲だったので、そうさせてもらおうと思っていました。
そんな中、忘れもしない11月13日(火)の午前中。
突然、クロカワさんからメッセージが届いた。
クロカワさん:おつかれさまです。1点急なご相談があります。オフレコですが、ゆうこすさんから撮影依頼来まして、今週末に撮影する形になりそうです。
ゆうこすさんか・・・えっ!?
ゆ、ゆ、ゆうこすさん!(←私の心の声)
言わずもがな、菅本裕子・ゆうこす。
SNSをしている人なら知らない人はいないはず。しかも、肩書きが「モテる為に生きてる♡モテクリエイター」。そして、ツイッターのIDは「yukos_kawaii」。そう、とにかく「kawaii」「可愛い」「カワイイ」を売りにしている、天下のゆうこすさんである。(ゆうこすさんを心底褒めちぎっている文面になってしまったw)
案の定、メッセージを二度見したわけですが、間違いなく「ゆうこすさん」と書かれている。私はふと我にかえり「これは私の話ではなく、クロカワさんの話なので、大いにあり得ることであろう」と自らを納得させたうえで、メッセージを読み進めていきました。
クロカワさん:そこで、名刺をお渡しできたらと思い、正方形の方を現状の仮データでも構いませんのでいただけないでしょうか。現状のデータでこちらで刷る形でお渡しできたらなと...
まだ、デザインのブラッシュアップを全然できていない中で、それでもいただきたいとのこと。さらに読み進めていくと、最後はこんなメッセージ締めくくられていた。
クロカワさん:難しい場合はもちろん構いません。こちらで最低限の名刺を作ってお渡しします!
※前述していた「①SNS入り口のクライアント」のみが、急ぎで必要という意味です。
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察するに、こうだ。
「せっかく、ゆうこすさんとお仕事をするにあたり、手持ち無沙汰(名刺がない状態)で行くというのは、非常によろしくない。こんなチャンスは滅多に巡ってくるものでもないのだから、爪痕を残さなければならないのだ。」と、クロカワさんの声が聞こえてきそうでした。
これは、クロカワさんから直接聞いたわけではないので、合っているかどうかはわかりませんが・・・文面から察するに、私はこのように感じたのである。
そこで、私は思った。「これは、もうやるしかない!」と。
ここで私が妥協をしてしまうと、クロカワさんに申し訳ない。自分自身も後悔してしまいそうだったので、全力でデザインに向き合うことに腹をくくりました。
こうなってくると「自分はデザイナーだから」とか、そのような問題ではなく、"目の前に困っている人を助ける"みたいな感覚になってます。
カッコ良く言うと、"デザインの力で相手を救う"みたいな感じである。これは、本能レベルに近い感じがしていて、個人的に"デザイナーのデフォルト機能"ではないかと思っているぐらいです。
そう思った私は、その日にセッティングしていた友人との会食をキャンセルして、クロカワさんにメッセージを送りました。
上司ニシグチ:であれば、今晩に体裁を整える段取りします!今日の予定変更して、21時以降にデザイン作業できるように時間段取りしました!
クロカワさん:めちゃくちゃ感謝です....
このようなやりとりをしている間に、あらゆる策を(会社の仕事中に)考えて、水面下で間に合うように段取りをしていました。
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デザインが未完成のまま、納期は4日後というスケジュール
とはいえ、告げられた納期は、11月17日(土) の夜。撮影がその翌日となるため、まさにパツパツのスケジュールである。つまり、4日後にクロカワさんのお手元に名刺を届けなければならないわけだ。
通常サイズ(91×55mm)とは異なる正方形のサイズ(55×55mm)のデザインで提案していたため、印刷上の工程(切り抜く工程)が1工程多く、納期的にもより厳しくなる状況でもありました。
実際に印刷をお願いしているところに問い合わせてみたものの、どう考えても間に合わないのである。そこである案を思いつきました。
それは、通常の名刺サイズでオンデマンド印刷をおこない、納品された名刺をクロカワさんが正方形にカットするというもの。
最終的に、入稿したデータはこちらになります。
正方形になるサイズで、カット線を薄めに入れています。
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五月雨方式のアウトプットでデザインは完成しました
そして、11月13日(火)の夕方。
足早に会社を後にして、自宅に帰りました。晩ご飯とお風呂を高速で済ませ、まさに五月雨方式でデザインをしていきました。
おさらいですが、名刺のコンセプトは、こちらになります。
①SNS入り口のクライアント
「クロカワのテイストでお願いしたい」という、仕事を得るためのブランディングとして(こちらが理想)
〈デザインコンセプト〉
①名刺を渡したときに「カワイイ」と思ってもらえる形状
②Instagramを意識した「スクエア型」を採用
③写真バリエーションの豊富さ(選べる楽しさ)を演出
※詳しくは、企画書に記載しております
秋葉原での打合せにて伺った修正内容をもとに新たにデザインを作成し、数回のやりとりを経て、デザインが決定しました。※修正内容は割愛します
五月雨方式で、当日の夜中にデザインが決定しました。クロカワさんの即レスのご協力もあり、おかげさまでテンポ良く最終案まで絞り込むことができました。
この名刺に限っては、ゆうこすさんやスタッフさんだけにお渡しするためだけの名刺。いわゆる「インスタントなプロトタイプな名刺」といったところです。改めて紙を変更して印刷をするわけですが、とにかく納期に間に合わせること重視して、一生懸命がんばらせていただきました。
無事受け取れました!ありがとうございます!!!
ほんとにほんとに感謝です!おかげさまで明日頑張れます!
このメッセージを見て、早くも達成感でいっぱいになってしまいました。
つまり、あとひとつの「②紹介などその他のクライアント」バージョンが、まだ残っているのである。
その日は、安堵感でいっぱいの中、眠りについたのであった。
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相手によって、企画書の雰囲気を変えるのもひとつ
上記の企画書を見ての通り、デザインをブラッシュアップしていくときは、コンセプトなどの余計な文字は省いて、純粋にデザインそのものが映えるような企画書をデザインするよう意識しています。わかりやすく言うと、見やすくて、選びやすい導線をつくるようなイメージです。
なおかつ、相手が好みそうなフォントや雰囲気を演出するのも大切です。クロカワさんは、打合せの最中にも「セリフ系のフォントよりサンセリフ系のフォントが好き」「中心揃えが好きではない」と話していたので、クロカワさんが心地よく見れたり、選べたりできる企画書のデザインを心がけました。
ロジックを使って話をされる方には、説明部分の文字量を多くするようにしていますし、クロカワさんのようなフォトグラファー(クリエイター)の方には、できる限りロジックを減らして、見た目が心地良くみえるような企画書のデザインにしています。
とはいえ、普通に提案するときもあるので、一概には言えませんが、"企画書にバリエーションを持たせるというのは、ひとつの武器"になると思うので、依頼者ごとに企画書をカスタマイズするのも、個人的には好きだったりします。
実際に今回の企画書で例をあげると、デザインを選択する記号(A・B・C・D・E)に関して、クロカワさん好みのフォント(サンセリフ系)を大きめに使用し、視認性を高めつつ名刺のデザイン(POPなカラー)が強調されるよう、無彩色(グレイ)を使用しています。
選ぶ人が心地よく感じてもらえるような色彩設計を意識することも、これからは大切になってくると思います。
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デザインした名刺がゆうこすさんのもとに届いた
そして翌日(撮影日の当日)。
ゆうこすさんのツイートに、クロカワさんが登場していました。
クロカワさんのMacBook Proに映し出されているのは、クロカワテイストに染まったゆうこすさんでした。私はニンマリしながら、すかさずファボ&リツイートしました。
その日の夜、クロカワさんから御礼のメッセージが届きました。
おかげさまで無事撮影が終わりました!名刺も「かわいい〜!!」とゆうこすさんからめっちゃ褒めていただきました!
このメッセージだけで、全て報われたような気がしました。
なぜなら、この名刺をデザインするにあたり、自分の裏テーマとしては、ゆうこすさんに「かわいい〜!!」と言わせるのを目標に掲げていたからです。
「あー良かった!」と、思わず声に出てしまった、11月18日(日)でした。
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ビジネス用の名刺デザインは、ベーシックなスタイルで
その日の夜に、早速もう一方の名刺のデザインをブラッシュアップしていくことになりました。
おさらいですが、名刺のコンセプトは、こちらになります。
②紹介などその他のクライアント
ビジネスプロフィールなどの「人物系」と、ホテルなどの「料理系」から仕事を得るためのブランディングとして
〈デザインコンセプト〉
①名刺を渡す相手によって、見せる面を使い分ける
②表面を「人物用」、裏面を「料理用」とする
③写真を大きく見せることを最優先に考える(写真本意で考える)
※詳しくは、企画書に記載しております
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まずは、[表面]料理用について。
こちらは、新たに手配いただいた写真で、最初のダミー写真とは明らかに違う印象でした。言わずもがな、とても素晴らしい写真で「クロカワさんって、こんな写真も撮るんだなぁ」と感心していました。
事前に伺っていた、入れなければならない文字は至ってシンプルで、下記の3つになります。
①職業(英語):Photographer
②名前(日本語):黒川隆斗
③名前(英語):Ryuto Kurokawa
文字の流し方として、3パターン提案しましたが、すべて写真の邪魔にならないような位置にレイアウトしています。
最終的に、お皿に沿って文字を流した[B案]で決定しましたが、個人的にもイチオシの案だったので、正直ほっとしました。
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そして、[裏面]人物用について。
こちらも、事前に伺っていた、入れなければならない文字は至ってシンプルで、下記の3つになります。
①電話番号:000-0000-0000
②メールアドレス:kurokawa.ryuto@gmail.com
③URL:http://ryutokurokawa.tokyo/
写真の邪魔にならないようにレイアウトするには、間違いなく上面の空の部分にするのがベターです。こちらもベタですが、左揃え・右揃え・中央揃えの3つを提案しました。
背景の空の右側が白くなっているので、こちらに黒色の文字が入ると一番しっくりくるだろうなと思いつつ、案の定、右揃えで文字を合わせた[B案]に決定しました。
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[裏面][表面]ともに、デザインの部分で特に意識していたのが、"写真を活かすデザインをする"ということです。
そのために、ロゴやマーク、QRコードなどを入れず、文字と写真のみでデザインを構成しています。SNS用の名刺(上記のスクエア型の名刺)のように、QRコードを入れるとかなりノイズになるので、文字(URL)のみの表示にしています。
さらには、文字の大きさも肉眼で見えるであろうサイズの6ptに設定し、フォントも英文・和文ともに、ウエイトが細いフォントをセレクトしました。
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あとがき
先日のnoteの仕様カイゼンで、文字のカウントが表示されるようになったとのこと。現在、ここまでのカウント数を見て見ると、約6,900文字。
今までの記事の中で、過去最高の文字数となっています。それぐらい今回の名刺デザインには、多くのストーリーと想いが込められたのかなと勝手に思います。
今回は、写真までご本人に撮っていただくという甘えっぷりを炸裂させてしまい、クロカワさんには本当に恐縮しきりです。
この名刺がたくさんの人に届きますように、そして、クロカワさんのご活躍にもつながりますようにと願いつつ、今日もお仕事がんばりたいと思います。
それではまた、バイバイ(^_^)ノ""""