Märchen
私はお姫様。壊れた地球儀と齧りかけの苺、お揃いの匂い。 ピンクのワンピースだけを着ているからおかしい奴だと笑われるけど残念ながら今の私にはこの四畳半の白い四角い箱が全てであって世界だからうるさい声も感じないのです。 床に散らばった大量の菓子パンの袋だって、魔法のステッキと乙女心をちょびっと振りかざせばほら、きゃわいいぷくぷくシールに変わるよ。 使用済みナプキンと新作の香水が混ざりあってゆめのなか。ゆめのなか。タレ目アイラインを初めてひいたとき、これは過去からの離脱だと思った。大嫌いなつり目もしじみみたいなお目目も、気分だってすぐ上書き保存できてしまうから化粧落としなんか必要ないの。いつか消えてしまうものは醜いから無くなればいい。永遠こそが美しさだし信条だし、それ以外信じられないと言っていたあの子のカラコンの色は27時の空みたいな色をしていて、彩度高めな平成女子雑誌に載っていた誰よりもかわいくて羨ましかった。殺したかった。私はお姫様。もうすぐ誰かの喘ぎ声や産声が空に熔けて、夜が地球の裏側に行ってしまう。大嫌いな朝、朝、朝。やってくる。 太ももに刻み込まれた花を咀嚼して吐き出した。 花束になる予定だったのに。ごめんなさい。きれいなきれいなものが醜くなって還ってくる瞬間がとてつもなく好き。私以外醜ければいい。 私はお姫様お姫様お姫様お姫様お姫様、1度も開けたことの無いカーテンに血が滲んで芸術みたいだった今朝のこと。精神安定のために消費されてゆく承認欲求と崩れ掛けの自己愛で完成されたお城のなかでひとり。 今日はやけに静かだからお月様を独り占めしているよう。棚の中から桃色と白色の錠剤を2粒ずつ取り出して飲み込む。どろっとした経血のような眠気が早足で近づいてくる感覚を五線譜に記して500年後に演奏されたい。このお城が壊れるまでの間、私は君とキスだけしてたいよ。むかし話はいらないから「今だけ」を積み重ねていこうね、お願い。ずっとずっと望んでいた君との、おとぎ話。私はお姫様。