英語の一人称 "I" は消える!?
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英語の授業を初めて受けたとき、「I-my-me-mine, we-our-us-ours, you-your-you-yours, …」と唱えた記憶はきっと誰にでもあることでしょう。今回はそんな英語の基本、人称代名詞について考えてみます。
you は二人称単数じゃない
「あなた」を指す代名詞といえば単数でも複数でも "you" ですよね。これ、不思議に思ったことはありませんでしたか? 一人称の "I" であれば "we" 、三人称の "he," "she," "it" であれば "they" など、ふつう単数と複数では代名詞が異なるものです。
実を言うと、二人称においてもちゃんと単数と複数で別の言い方があったのです。それは、17世紀まで標準語でも使われた "thou"。かつては何ら特殊な縛りもなく、二人称単数として普遍的に用いられた人称代名詞です。主格-所有格-目的格-所有代名詞の格変化もきちんと存在し、"thou-thy(thine)-thee-thine" となっていました。
イギリス国歌『God Save the Queen (女王陛下万歳)』の2番にも用例がありますので見てみましょう。
6行目の "On Thee our hopes we fix," のところですね。文法的には以下の通り説明できます。
<On Thee> our hopes we fix,
→ (現代の語順では) we fix our hopes on Thee,
意味としては「我らが望みは汝の上に」となります。
この "thou" が消えた理由というのは話せば長くなりますので、ここでは二人称単数の代名詞は消えたのだという現状を提示するだけにしておきます。
移り変わる三人称単数
三人称単数の代名詞といえば "he," "she," "it" ですよね。それはもちろん正しいのですが、最近これがどうも揺らいできているようなのです。昨今のジェンダー平等などの考え方によって、いわゆる「ポリティカル・コレクトネス」に人々の関心が集まるようになってきました。
その中で、「男性か女性か分からない三人称を "he" で受けるのはおかしいのではないか」という意見が強くなってきています。今では性別の確定しない三人称を "he" で受けることは極めてまれであり、"they" を用いるのが正当とされています。
このまま性的少数者に対する寛容さなどが普及し、生物学的性が社会的人格性に影響を及ぼさなくなったとき、"he" と "she" との区別が必要なくなる可能性があります。これは荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
例を挙げるとすれば敬称の "Ms." でしょうか。家制度が人を社会的に強く縛っていた状況下において、女性は婚姻しているかで敬称が異なりました。既婚であれば "Mrs." と呼ばれ、未婚であれば "Miss." と呼ばれていたのです。しかし、近現代社会の潮流の中でそうした社会秩序は解体され、女性を一般的に呼称するために敬称として "Ms." を用いることはもはや普遍的になっています。
このような変遷が人称代名詞にも起きた場合、人を指す三人称単数が "they" となることは想像に難くありません。さらに言えば、"it" も怪しい兆しが見えているのです。動物はかつて家庭の所有物として "it" で表されてきました。ただ、動物愛護の観点や動物を家庭の一員としてとらえようとする人々によって、これらが "he" や "she" で置き換えられつつあります。
それに賛成だ反対だというつもりは一切ありませんが、僕たちが生きているうちに三人称が単複問わず "they" で統一される未来は、個人的にはありうると考えています。
未来のIF
ここまでの話が実際に起きたとして、そこからさらに3世紀以上後の人はどう思っているでしょうか。その頃に英語がまだ国際標準語として使われているかは甚だ疑問ではありますが、もし使われていれば二人称が全て "you" で三人称が全て "they" であることを疑問に思う人は相当少ないはずだということはまず言えるだろうと思います。今の時点で二人称の "you" に対して疑問を持って過ごし続けている人すらほぼいないのですから。
そうすると彼らにとって疑問なのは「なぜ一人称だけ "I" と "we" なんていう2つに分かれているのだろう」ということなのではないでしょうか。そして一人称が統一されるとすれば……
おそらく消えるのは "I" でしょうね。そもそも1文字しかなくて常にキャピタルな単語って時点でもう相当気持ち悪いですから。それになんやかんや今まで複数形が優勢でしたし、ここで "we" を残しておけばbe動詞の現在形は "are" だけで済みますから無駄な文法事項も増えなくてすっきりします。
さいごに
とまぁこういうことを考えながら日々生きていましてね。さすがにタイトル詐欺感は否めませんが、どうかご容赦ください。
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