16歳のゲーマーが、Dotaのプロシーンで産声を上げた日。
2021年12月1日。師走に入り年の瀬も近づいた日の午前2時。眠い目をこすりながら画面を見ていた私は目が覚めるような光景を目の当たりにした。
そう、それは新たな才能の開花。
若き16歳の新たな天才が、Dotaのプロシーンで日の目を見る瞬間だった。
推しチームの解体と絶望
時は1カ月半前に遡る。
Dota 2の世界大会、「The International 10」が無事終了。無観客での開催となったが、結果は当時無名の「Team Spirit」が並み居る強豪を倒し優勝。日本円で約18億円もの賞金を手に入れた。
2018年に開催されたTI8のOGのように、強豪でも優勝するとは限らない、何が起こるかわからないワクワク感を体感した大会だった。
Dota 2はTIが一年のシーズンのフィナーレだ。そのためTI終了後は、各チームでプレイヤーの移籍が起こる。私はこの瞬間が特にワクワクする。今まで敵だったプレイヤーが敵になったり、戦う地域を変える発表に驚き、どのようなチームになるかを想起するのがたまらなく面白いのだ。
特に注目したのは次の2チーム。
1チーム目は「Team Secret」。ヨーロッパではかなりの強豪と呼ばれるチームであり、今年のTI10では3位だった。
このロスターはむちゃくちゃ面白い。「シンガポールが生んだ"怪物"」iceiceiceをアメリカから引き抜き、OGから「"King"」Sumailを獲得。元からいるメンバーとともに、下馬評史上最強ともいえる発表を行った。
全員がスーパースター。少なくとも私にはそう思えるラインナップだった。
2チーム目は「OG」。TI8、TI9の二連覇を達成した私の推しチームなのだが、今回のTI10はノリノリの「Team Spirit」に敗北。恐らく前人未到の三連覇がかかる重圧に押しつぶされたのだろうか。チームの一人は引き抜かれ、残りは休養や裏方に回るなど、実質解体状態となってしまった。
もう私たちが熱狂したあのメンバーが集まることはない。内心絶望しかなかった。
更に、その穴を埋めるように入ったのは誰も知らないような無名のメンバーがほとんど。年齢も20前後で固まっており、大舞台の経験があるプレイヤーが有利なプロシーンにおいてはかなり思い切った決断である。
「本当にOGは今年勝つ気があるのか?」
OGを応援していた私もそう思わざるを得ないほどのひどいロスターだった。
特に目を引いたのは AMMAR というプレイヤー(画像中央)。ヨルダン出身のプレイヤーなのだが、特に目を引いたのは年齢が16歳であること。16歳。日本では高校一年生ほどの若造をチームに入れ、本気で優勝を目指すと言っているのだ。
前例としてTIを15歳で優勝した事例はあるものの、それは彼があまりにも"King"と呼ばれるにふさわしい才能があったからである。そのレベルがポンポン出てくるようなものではないのだ。
「本当にOGは今年勝つ気があるのか?」
私の疑念は更に深まるばかりであった。
史上最強 vs 未知数
そして迎えた12/1。新シーズンの始まりとなるDPCのヨーロッパリーグ。
なんとメインにその「OG」と「Team Secret」が戦うのだ。
一方は史上最強のラインナップ。方や無名ばかりが集うラインナップ。経験も試合数も何もかもが違う。
観戦者の予想も約3:7で「Team Secret」が優勢。私もOGを応援はしていたものの、流石にこのラインナップの「Team Secret」には手も足も出ないだろうと考えていた。一緒に見てたDota仲間も「さすがにOG負けるでしょ」と分析するくらいの事前評価だった。
そして始まった1ゲーム目。
私は目を疑った。
OGが優勢なのだ。何故か。
世界中からプレイヤーを引き抜き、史上最強のラインナップをそろえたのに。
それでもなおOGが優勢なのだ。
私は目を疑った。
その試合の中心にいたのは、"King"でも"怪物"でもない。
そう、あの16歳だった。
彼が試合を支配し、マップを縦横無尽に駆け回っていたのだ。
まるで敵なんかいないかのように暴れまわる様は、彼がただの16歳ではないことをありありと見せつけた。
確かに相手チームが様子見をしていたのもある。敵も無名の寄せ集めのチームに、少し現実を見せるくらいの余裕はあったのかもしれない。
しかし、それを差し引いても、敵はあのSecretなのだ。スーパースターの集いなのだ。
であるにも関わらず、OGが優勢なのだ。
彼はトップのゴールドのまま試合を決め、あっという間に試合を終わらせてしまった。
13キル1デス18アシスト。あの「Team Secret」相手とは思えない戦績。
まあただのまぐれだろう。観戦者の多くはそう思った。
↑右に映っているのがAMMAR
衝撃と混乱の中始まった2ゲーム目。
Secretもさすがにヤバいと思ったのか、ピックが本気になった。いよいよ本気のSecretが見れる。OGはひとたまりもないだろうと思っていた。
しかし、結果は違った。
OGが優勢なのだ。
同じチームであるYuragi(彼も16歳)とともに敵を破壊しつくし、ワンサイドゲームと化した。
10キル2デス14アシスト。それが2ゲーム目の彼の戦績である。
試合を終えて
私は言葉を発することができなかった。
何故だ。何故OGが勝ったんだ。
今まで私が知るプロシーンに名前が上がらないほどの無名なのに。今のSecretにはスーパースターがそろっているのに。
しかし、違った。結果は2-0。誰がどう見てもOGの圧勝だった。
OGは本気だったのだ。本気で世界を取ろうとしていたのだ。
私は試合前にDota仲間にこう言っていた。
「これでもし勝ったらOGのコーチングやマネジメントは本物だよね」
そうだ。そういう事なのだ。かつての世界で頂点を取ったメンバーの意思は受け継がれているのだ。
通常、Dotaのプロシーンでは強くて経験のあるプレイヤーをマネーゲームで引きぬくのがチームを再建する王道である。
しかし、OGはそれをやらなかった。
彼らは彼らの知識や経験を残し、次世代に受け継ぐ道を選んだ。
誰もやらない、やれない戦術で頂点を取ると本気で考えていたのだ。
「私が応援したかったOGはまだ残ってるんだ...」
私は一人、画面の前で涙を流した。
最後に
このnoteは試合終了直後に書いたものです。現在時刻は5時11分。興奮冷めやらぬまま書きなぐったので、少々わかりにくい部分は後日加筆修正していく予定です。
「鉄は熱いうちに打て」とあるように、この混沌とした感情を咀嚼し整理する前に残しておこうと思いました。
Dotaは奥が深すぎるゲームです。1万時間遊んでも遊び足りない。そう思えるほど深いゲームです。
このnoteを読んでDotaに興味を持ち、実際に試合を見ていただけると幸いです。この真の興奮は試合を見ないと分かりません。
(ハイライト版です)
(今回の大会はここで配信しています)
そして、新生OGは想像以上の可能性を秘めているチームです。この試合がビギナーズラックとならないように願いつつ、これからも応援していきます。
GG。いいゲームでした。
よかったらサポートおねがいします! 読書や編集のお供となるホットココア代に使わせていただきます!