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『言い訳』を読んで

この本を読まずにお笑いの感想を書いていた自分が恥ずかしくて死にたいです。

ナイツ塙さんの『言い訳』を読みました。
とても面白かったので、感想などを書いていきたいと思います。

■『言い訳』というタイトル

『言い訳』というタイトルの通り、自身がM-1で優勝できなかったことや、関東芸人がM-1で優勝するのが難しいということについて、これ以上ないくらい深く考察されていました。

“M-1にはいい思い出がない“
“M-1では一度もウケたことがない“

本の中で、塙さんはM-1での自身の漫才についてこのように語られていました。

当時、テレビで見ていた自分としては、
そこまで言わなくても良いのにと思いました。

2008年の最終決戦。
NON STYLE、ナイツ、オードリーの3組が並び、
誰が優勝するのだろうと緊張しながら見ていたのを覚えています。

“1分を過ぎてもぜんぜんウケず、そこで二人とも優勝は諦めていました“

正直、そんなこと書かないで欲しかったです。
はっきり言って夢が壊されました

僕にとって芸人はヒーローでした。

あの頃、僕に夢を与えたのは紛れもない事実です。ヒーローはヒーローらしくいてくれという思いでした。

でも、塙さんの自己評価の低さや、『言い訳』というタイトルには、特別な思いがありました。

塙さんはM-1のことを「初恋の人」という例えで表現していました。
オジサン感丸出しの例えに安心感を感じられます。
それほど"M-1チャンピオン"という称号は芸人にとって特別ということだと思います。

M-1優勝への強い憧れとか
優勝したいとあれだけ強く願ったのに、それでも叶わなかった悔しさや無念な気持ちとか
M-1という大会へのリスペクトとか
全部が混ざりあった複雑な感情がこの本を読んでいくとじわじわと伝わってきました。

『言い訳』はボケでもなく、謙遜でもない。
全ての感情が表現されたタイトルでした。

■関西系と非関西系

M-1でありがちな議論の一つに、吉本芸人がひいきされているという批判があります。

この本の中では、非吉本であり非関西系であるナイツの塙さんの目線での思いが書かれていました。

本来、僕らはM-1の階段を上がれるだけでも幸せなんです。卑屈になる必要はまったくありませんが、非吉本芸人は、不利を承知で敵地に乗り込んでいくのだという覚悟くらいはあっていいと思います。

M-1は吉本が主催している大会なので、
非吉本芸人は大会に参加させてもらっている立場であり、ルールや流儀には従うのが筋と書かれていました。

M-1の4分という短いネタ時間や、ド派手なステージ高揚感のある登場の演出によって作られる独特な雰囲気は、スピード感と勢いのある関西弁の漫才に都合のいいようになっています。

吉本びいきというよりは、吉本の王道スタイルの芸人がやりやすいステージが出来上がっているというのが現実なようです。

でも、色んな逆境があるからこそ、関東芸人の優勝には価値があるのだと書かれていました。

確かに、アンタッチャブルやサンドウィッチマンのような非吉本非関西系のコンビの優勝は特別ドラマチックに感じたのを覚えています。

一番面白い漫才を決める」と謳っておいて、有利不利があるのはおかしいという意見はとても分かります。

でも、
そういう批判をして真剣勝負に水を差す方がダサいなと僕は思いました。

■お笑いを考察することについて

この本を読んだせいで、漫才を今まで通りに楽しめるか心配になりました。

本の中で、かまいたちの評価が低いのはなぜかを解説しているパートがありました。

M-1でのかまいたちの漫才は山内さんが主張して、濱家さんが聞くという形式になっていて、その形式では二人の掛け合いを見せるのが難しいとのことでした。

「いや、めっちゃ掛け合ってたやん!」と最初は思いました。
でも2017年、2018年のかまいたちの漫才を見返したら、めっちゃ指摘通りでした。
濱家さんは基本的に聞くスタンスになってしまうので、濱家さんのセリフでは笑いは起きづらく、それでは掛け合いにならないということでした。

漫才における掛け合いとはなんなのか、少しわかった気になれました。

正直、この指摘のせいで、今後はかまいたちの漫才を見ても、
「あぁ、山内さん今日も元気に主張してはるわ」
という冷めた感想になってしまいそうです。

こんなことならこの本読むんじゃなかった。
お笑いの考察なんてするもんじゃない。

難しいことはわからないままの方が人生楽しめる。
「結局そういうことなのか。」と思い。僕は森に帰ろうと思いました。
世界に幻滅し、いっそのこと一人でひっそりと死を待とうと思わされたからです。

僕は森の中で、この本が出た後の2019年のM-1をもう一度見ました。

最初、この年も山内さんは主張してるなぁと思いました。
でも、2017,2018とは違う所がありました。
2019のUFJのネタは、山内さんがUFJとJSJを言い間違える所から始まっていました。このおかげで、最初は濱家さん優位の所から展開されていきます。そして、自分は言い間違えてないという無茶苦茶な主張無茶苦茶な理屈で通していきます。終盤に濱家さんを混乱させることで無理やり論破するという構成になっていました。

この”立場逆転”がひょっとしてめちゃくちゃアツいのでは?と僕は考えました。

今までのスタイルに立場逆転という要素を加えることで、後半にかけての盛り上がりを演出していました。

掛け合いこそしないものの、掛け合いと同等の爆発力を感じさせられました。自分たちのスタイルを変えずにM-1で勝つ構成を作った所が最高にアツくてかっこいい。

かまいたちの漫才の構成についての考察がこの本に書かれていたから、僕はこのアツい所に気づくことができました。

またこの年、かまいたちの渾身の漫才は奇しくも、掛け合いをメインとしたミルクボーイの漫才に負けます。

ミルクボーイは駒場さんのボケでウケて、内海さんのツッコミで更にウケてという、掛け合いのみで笑いを取っているような構成でした。それが漫才というフォーマットにドンピシャでハマってることを分からされました。

2019にこんなエモいドラマがあったのかと、僕は一人で気づき、泣きました。
そしてこの本を読んでよかったなと思えました。

難しいことはわからないままでも人生楽しめるかもしれないけど、分かった方がもっと楽しめることもあるんだなと思いました。

■最後に

この本を読むと、昔のM-1がもう一度見たい衝動に駆られて、アマゾンプライムに加入させられることになります。気を付けましょう。

去年優勝したマヂラブもコント漫才だったし、関東のしゃべくり漫才が優勝する日は来るのでしょうか。想像するだけでワクワクします。

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