学生強豪になる条件

僕が思うに、学生将棋の上位入賞者は次の2タイプに分類できる。

学校の勉強がめちゃできるから将棋も強くて当然の人間」と、

学校の勉強を全くやらないから将棋が強くて当然の人間」である。

僕は典型的な後者のタイプで、食べる&寝る以外の時間はすべてネット将棋に捧げる高校生活を送っていた。だから「勉学なんぞ」にうつつを抜かす連中にはめったに負けなかった。

でも、一学年上の石清水氏(仮名)だけは例外だ。

彼は全国共通模試で常に総合順位5位以内に入る超天才。もちろん典型的な前者のタイプである(付き添いの将棋部顧問は彼の圧倒的な学力と棋力を前に所在なさげだった)。

僕は序盤でできる限りの優位を築いてそのまま逃げ切る勝ち方を得意としていたが、石清水氏は「東大将棋ブックス」の内容を全巻暗記していると噂が立つほど脅威の記憶力を誇っており、いつも序盤から一方的に押し切られてばかりだった。

ただし、一度だけ「あわや」というところまで行ったことがある。

ある大会で石清水氏が居飛穴に潜る直前に端桂から奇襲を仕掛け、無条件に飛車を成り込み桂香まで拾う大きな戦果を挙げたのだ。

(これはもしかして、勝てたかも……)と、盤上から視線を離し、相手をちらりと見た。しかし、そこにいつもの冷静沈着な彼はいなかった。

両手で髪をぐちゃぐちゃ掻き回し、目を真っ赤に充血させ、ギリギリと歯を噛み締めながら盤面に集中している一匹の鬼がいた。

「もしこの将棋を勝ったら、僕は殺されるんじゃないか」

と思わず恐怖を覚えたほどだった。気を呑まれた僕は消極的な指し手でじょじょに形勢が縮まり、結局逆転負けを喫してしまった。

僕はついに石清水氏に1勝もできないまま高卒ニートになり、彼は誰もがよく知る有名私大へと進んで行った。きっと今ごろは世界中を飛び回っていらっしゃるのだろう。ときに将棋は自分の人生の線上に本来現れるはずのないすごい人を引き合わせてくれるものだ。

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