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「ノマド:漂流する高齢労働者たち」

(これは2022年11月のエッセイ「ノマドランド」の追記です)

 映画「ノマドランド」の原作「ノマド:漂流する高齢労働者たち」(2018年春秋社刊)を読んだ。

 ジェシカ・ブルーダーのノンフィクションである。
 映画の感動とはまた違う感動をこの本は与えてくれた。

 実をいうと、映画よりずっと面白かった。力強く、アグレッシブで、過酷で、なおかつユーモアがあり、厳しい状況下で生きる高齢労働者たちの現実がこれでもかと描かれる。

 著者のジェシカ・ブルーダーは三年もの間、自らキャンピングカーを購入し、ノマドの一員となって、彼らと親しくつきあい、ノマドたちの実態を取材して書いたのが本書である。

 様々なノマドが登場するが、彼らはそう簡単には心を開いてくれない。というのも、外部の人から散々な目にあってきているからだ。ライターなんて信用できない、と思われたのではしっかりした本は書けない。ジャーナリスト魂をかけてジェシカは彼らと寝食を共にし、過酷な冬を過ごし、アマゾンの倉庫やビーツ工場での厳しい労働も体験した上で書かれたのがこの本なのだ。原作に比べると映画は少々感傷的すぎる。伝えたいことはよくわかるが、映画だけでは十分ではない。

 彼らの厳しい現実も、過酷な労働もあれだけでは伝わらないし、彼らの覚悟も潔さも、そして何より辛さや苦しさはあれだけでは十分に伝わらない。

 家を持ち、家族と共に長年働いてきた人たちが、突然解雇され、家も年金も失い路上に放り出されるのだ。そうした過酷な現実を経験した者でないと、彼らの心情は理解できないし、彼ら自身もそれをよく知っているからこそ、安易な取材には応じないのだ。

 そうした過去からきっぱりと離れ、自らが新たに人生を開拓していくのがどれだけ大変なことか。まして高齢で老い先も短い。体力もない。それでも働かざるを得ない人たちの多くがノマドとしてRV車上生活を余儀なくされている。そこにあるのはまるで西部劇さながらの開拓者魂であると同時に、人とのたしかなつながりであり、助け合いの精神であり、またユーモアである。


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