ヒトラー演説手法解説
ヒトラーの演説の特徴は「神秘的な登場」、「分かりやすい内容」、そして「群衆を興奮させる熱狂 的なスピーチ」に要約できる。
彼は、演説そのものも上手かったが、演出の天才でもあった。 彼が自分の演説に説得力を与えるために、神秘的な雰囲気をどう演出したのかを調べてみたい。
人を洗脳するには時間と場所を選択せよ
人は誰でも自由意志で行動しているようにみえるが、実は、人間なら共通に持っている心の動きがある。それは、何か刺激を与えれば誰でも同じように反応するというものだ。
例えば、暗い場所で隅から光が差してくれば、人は光の方向に目を向ける。ヒトラーは、そういう人間の本能的な反応を利用したのだ。
彼は、サーチライトの光が発する方向に立って演説するとか、漆黒の闇となった講堂で自分だけにスポットライトを当てて演説するとか、壮大な夕焼けを背にして人々の前に現れるなどの手法を使った。このようにすれば、全員の視線が彼に集中する外なかったのである。 また、ヒトラーは演説する時間と場所にも気を配った。彼は、いつでも、どんな場所でも演説をするわけではなかった。
ヒトラーは聴衆の心理的抵抗が最も弱い時間帯、つまり夕暮れ時に演説時間を設定したのだ。午前中は判断力も鋭いが、半日経って夕方になれば、だんだん鈍くなって心の防御を解き、他人が言うことも素直に聞きいれるようになる。ヒトラーが演説に夕方の時間帯をよく使ったのは、このような原理を理解していたからだ。
気だるい夕暮れ時、夕焼けで赤く染まった空を背景にしてヒトラーが演壇に立つと、集団催眠の効果は極限まで肥大化された。彼は野外で演説する時はいつも、素晴らしい夕日を背にして大衆の前に立つことにしていた。そのため、雨が降ったりして天気が悪い日は、あっさりと演説を中止した。 ヒトラーが大衆を催眠にかけるために、どれほど夕刻の時間帯を重視していたかは、彼の著書「わが闘争」で確認することができる。
午前中から昼過ぎごろまでは、人の心は他人の意見に対して最も抵抗力が強い。しかし夕方になれば、他人の支配的な力にも従順になりやすい。人と人との会合は、互いに対立する二つの力がぶつかる相撲のようなものだ。力強い優れた演説は、精神と意志を完全にコントロールしている状態の午前中より、夕方の最も抵抗力が弱くなった時間帯の方が、人々をよりたやすく説得することが可能で、新たな方向に聴衆の心を導くことができる。
ヒトラーはすぐに演壇に上がるということもしなかった。彼が現れる直前には荘厳な打楽器の音が響き渡って、彼の出現への期待感を高めた。演説会場には赤と白と黒で構成された鮮烈なナチ旗が空を覆っていた。長時間待ち焦がれていた群衆の前に、夕日で赤く染まった空を背景にしてヒトラーが現れると、会場は熱狂のるつぼと化した。すでに聴衆は、喜んでヒトラーの催眠にかかる準備が整っていたのだ。
このような集団催眠は、大勢の群衆が集まったところで行われた。ヒトラーは大衆集会の大切さを著書の中で次のように力説している。
大衆集会は、以下の理由だけでも必要である。人はひとりでいる時は、新しい運動の支持者になることには孤独を感じて不安に捉われやすいものだが、大衆集会の中では、より大きな共同体の姿を見ることができるので、参加する勇気を持つことができるのだ。
ヒトラーの集会はいつも人々で溢れ、演説が終わる頃には全員が集団催眠にかかったように批判的な力をすっかり失っている状態だった。ヒトラーは演説の中で、全精力を傾けて群衆の士気を高揚させ、当時のドイツの現状を嘆き、人々に新しい展望を提示した。全力を傾けた演説が雷鳴のような拍手を浴びながら終了すると、ヒトラーは精気を失ったようによろよろと演壇を降りて退場した。
人を説得しようとする時は、最もよい時間と雰囲気を選択しなければならない。午前中より夕方の方が人を説得するには有利である。特に、夕焼け空が広がっているような、ゆったりして美しい雰囲気は、人の感情にアピールしやすい。
ヒトラーは屋外で演説する時には、空を赤く染める夕日を背景にした。夕焼けが広がる時間帯は、空全体の色が神秘的に変化し幻想的な雰囲気を醸し出すので、それを眺める人は理性が麻痺して感性的な心持ちに変わっていく。
これは大勢を相手にしている時に限ったことではない。たった一人の相手を説得しようとする時も同じである。
このようなテクニックは、恋愛にも応用できる。 広々とした場所で心地よい風を受けながら、神秘的な色に染まる空を眺めている時、若い女性が近付いて来てあなたを誘惑したとしたら、あなたはいとも簡単に心を寄せてしまうだろう。 異性を誘惑しようとするなら、時間は遅い夕方にした方がいい。そして、できるだけ美しい背景があって照明も薄暗くて雰囲気のある場所を選んだ方がいい。野外で会う場合なら、美しい夕焼けを眺められる時間と場所が非常に有効である。
このように、適切な時間と雰囲気の持つ力は強力である。「雰囲気」は、ただの背景ではない。
あなたは自分の力だけではなく、周りの自然と、空と、宇宙の力までを借りて、他人を説得することができるのだ。説得と誘惑に雰囲気を利用するのは、偉大な自然の力を借りて相手を操るのと同じことである。計算された演出は演説と同様に重要である。
ヒトラーの声は、演説に相応しい声ではなかった。気持ちが昂った時は鋭い音がして、声は途切れがちになり、耳に逆らった。また、彼が興奮した状態で演説する時には、聴衆は彼の言葉を正確に聞き取ることができなかった。
それでも彼が「ドイツが生んだ最高の雄弁家」だということを、すべての人が(彼の敵までも)認めている。彼はその声のおかげで優れた演説家になったわけではない。そのうえ彼の演説はたびたび長くなり、同じ話を何度も繰り返す傾向があった。それにもかかわらず、彼の演説は力と魅力に溢れていた。
ヒトラーは聴衆が何を聞きたがっているのか、よく分かっていた。社会に対する不満、暗澹としたドイツの現実、ユダヤ人に対する不満など、人々が心の中では思っていても表立って口にできないことを、彼が口に出して言ってくれたのだ。
ヒトラーは聴衆が聞きたい言葉だけを聞かせて、彼らの感情を高めた。時には聴衆を責めることも言ったが、すぐに攻撃の対象を他の敵(マルクス主義者やユダヤ人)に向けた。彼の演説が説得力を持っていたのは、人々がすでに抱いていた不満とか怒りを感情を込めた激しい表現で口に出し、大衆の感情を高揚させる能力を持っていたからである。
さらにヒトラーは劇場的な雰囲気の演出に優れた感覚を持っていた。彼は自分が演説する前に補助演説家を立てて短い演説をさせるようにした。ロックバンドの公演などで、観衆が待ち望む本命のバンドが出る前に前座のオープニングバンドが出て雰囲気を高めるが、ちょうどこれに似ている。観衆はオープニングバンドを見ながらメインバンドが出てくるのを期待して待っている。オープニングバンドの短い演奏が終わると、観衆の心は一種のウォーミングアップ状態になっていて、実際にメインバンドが登場すると、さらに熱狂することになる。
また、集会ではヒトラーが通る通路の両側にナチ親衛隊員が整列して並び、彼の存在をひと際浮き上がらせた。これはまるでマイケル・ジャクソンがユニフォームを着た多数のボディーガードを伴って登場する場面に似ている。同じユニフォームを着た大勢のボディーガードが整列して並んでいれば、彼らから護衛を受ける人物が、何か「すばらしい存在」に見えてくる。 ヒトラーを護衛する私設警護部隊はナチ親衛隊と呼ばれた。親衛隊に入るには、外見と身長が規定の水準以上でなければならなかった。それは間違いなく視覚的な効果を上げるためであった。 ヒトラーが登場する時にはいつも、太鼓の音と荘厳な軍隊マーチが流された。これらのセッティン グのすべては、高度に計算された演出によるものであった。
演出は細部まで計算することが重要だ。演説自体も大事だが、それをサポートする演出も同様に重要である。
演壇に上がるタイミング、雰囲気を盛り上げる補助演者、およびボディーガードの存在などは、演出のための効果的な要素である。聴衆の期待感を目いっぱい高めておいて、長時間待たせた後、あなたが舞台に登場するのである。そうして司会者があなたをおおげさに紹介する。あなたを中心に演出された巨大な舞台装置は聴衆を圧倒して、あなたの存在を雰囲気で伝えてくれる。
ヒトラーはこのようなテクニックを使って、どんな大規模な集会でも効果的に自分のメッセージを聴衆に伝えることができた。
人々の前に立って演説する機会があれば、できる限り時間をかけて劇場的な演出を研究しなければならない。実際に演説する場所に行って、スタッフと呼吸を合わせてリハーサルするのは基本である。時間に余裕があれば、かなり細部まで計画することができるだろう。
アップル社のCEOスティーブ・ジョブズは、自分が新製品を紹介する時、スポットライトを製品に当てるタイミングが1秒の誤差もないように、リハーサルでスタッフと何度も練習を繰り返したと言う。
完璧なプレゼンテーションのためには完璧な準備が必要だ。完璧なプレゼンテーションは偶然から生まれるものではない。プレゼンテーションでジョブズが語る言葉がたとえ偶然に見えても、それは前もって徹底的に計画されているのである。
会社や学校でプレゼンテーションする時には、台本以外にもその演説をサポートするさまざまな演出を計画し、細かなところまで完璧に計算し尽くして繰り返し練習しなければならない。そうすれば、あなたのプレゼンテーションは間違いなく成功するであろう。
共通の敵を作れ
大衆を団結させるためには共通の敵が必要だ。オリンピックがあれほど多くの人を結束させるのは、戦って勝たなければならない相手がいるからだ。民主化運動の指導者が大衆を扇動できるのは、倒さなければならない独裁者がいるからである。大衆を扇動するには、必ず「怒りの対象」が必要だ。ヒトラーは、大衆を結束させる最も効果的な方法が「共通の敵」を作ることだということをよく知っていた。
ヒトラーはその敵を、「ドイツ民族を分裂させようと企んでいる全ての人間」、すなわちマルクス主 義者やユダヤ人などに設定した。ヒトラーはドイツ国民にゲルマン民族の優秀性について語ったが、一方、 非難の矛先は、徹底的に敵に向けた。
このようなテクニックは、最近の子供たちの間でも使われている。学校で子供たちが誰か気の弱い子をターゲットにいじめるのは、いじめる側の子供たちの結束を強めるという理由もある。いじめられっ子をいっしょにいじめれば、自分たちがいじめられっ子ではないという安心感を持つことができるし、その優越感を元に自分たちの団結を強めることもできる。
ヒトラーだけではなく、ドイツ、いやヨーロッパ全体にユダヤ人に対する反感は、存在していた。反ユダヤ感情が最も強くなっていたのは、当時の最悪の経済状況と関係がある。とくにナチス統治以前のドイツは、ユダヤ人の経済的活動がヨーロッパで最も活発な国で、ユダヤ人は当時のドイツ人口の 3%ぐらいだったが、ドイツの富の40%を保有していた。そして当時は、ドイツ国民の10人に4人が失業者といわれるほど失業問題が深刻だった。だから、ヒトラーの主張が大衆に対して、あれほどまでに完璧に効果をあげたのである。
ヒトラーは、ユダヤ人がどこにでもいて、ドイツ全体がユダヤ人によって支配されていると主張した。
「ドイツ人労働者がユダヤ人に指図を受けるのは恥かしいことである。ユダヤ人がカネづるを握って労働者を搾取する裏で、可哀そうなドイツ民族はそれに耐えなければならない。全てのドイツ民族は一つになってユダヤ人に抵抗しなければならない。我々は最後のユダヤ人がこの地を去るまで闘いを続けなければならない・・・」
こんな風に演説が終わると、聴衆は嵐のような拍手を送った。 ヒトラーは演説を通して、「ドイツ人VSユダヤ人」という対決の構図を作り出し、これを大衆扇動のエネルギーの下で充分に活用した。
したがって、強力なリーダーになるには、大衆を統合する対決構図を適切に利用することが重要である。
民衆のプライドを持ち上げろ
ヒトラーの演説の中に満ちている憎悪、不満、反抗などの否定的なメッセージは、当時のドイツ人が持っていたコンプレックスに、非常に効果的にアピールできる要素だった。しかしヒトラーは、そのような否定的なイメージだけで聴衆にアピールしたのではない。
ヒトラーは敵方(第一次世界大戦の戦勝国、ユダヤ人、共産主義者など)に対しては批判と憎悪の言葉だけを向けたが、ドイツ国民に対しては非常に肯定的なメッセージを送った。 純粋アーリア人の優秀性を力説する彼の演説は、自信を失っていたドイツ国民が最も聞きたい甘い言葉であった。
このようにヒトラーは、第一次世界大戦の敗北以来傷ついていたドイツ人のプライドを持ち上げることで、すべてのドイツ人を味方に引き入れることができた。絶対多数のドイツ国民から支持を受けた結果、極端な話、政治的ライバルさえもヒトラーに敬意を示すほかなかった。
ヒトラーの腹心であるゲーリングやゲッベルスなどに対する非難は、当時でもよく見受けられるが、その当時のどの新聞や文献にも、ヒトラーに対する非難を見つけることはできない。
ヒトラーが大勢のドイツ国民を一つに団結させて動かすことができたのは、ユダヤ人などに対するドイツ国民の強烈な敵意を覚醒させたからだ。
もちろんそのような否定的メッセージが大衆の扇動に非常に重要な役割を果たしたのは事実だが、もしヒトラーが、ドイツ民族が優秀だというお世辞や褒め言葉で大衆の自尊心をくすぐることがな かったら、あれほど全ドイツ国民が一糸乱れずに行動するということはなかったはずである。 否定的なメッセージや肯定的なメッセージの片方だけを用いても大衆を操ることはできない。その二つは必ずいっしょに使われなければならないのである。
大衆扇動を総合芸術に昇華させよ
ヒトラーは演出のために、旗の波、大規模な軍隊行列、そして劇場的な照明などを使用した。 特に照明効果は、まるで映画を連想させるほどよく利用した。サーチライトを照らしたりトーチを灯したりする方法が使われた。
これらはオペラが好きなヒトラーの趣向が加味されている。彼は大型オペラのビジュアル的要素を政治集会に導入したのだ。このような舞台効果は、既存のどのような政治集会にも見られなかったものである。
また、彼は自分の演説が始まる前に、徐々に雰囲気を盛り上げていくような、政治集会としてはかなりユニークな方法を使った。これは今日の映画で使われる展開方法とよく似ている。戦争映画ではクライマックスの本格的な戦争場面に入る前に、戦闘準備の過程を見せてテンションを上げていくというストーリー展開がよく使用される。この手法はビルド・アップと呼ばれ、監督ピーター・ジャクソンも非常に重要視したテクニックである。
ヒトラーは自分が演壇に登場する時、雰囲気を徐々に高めていくビルドアップ・テクニックをよく使った。高々と上げられた多数のナチ旗、荘厳なマーチ、合唱、シュプレヒコール、まるで宗教儀式のように繰り返される「ハイル」の叫び。それらは全て「偉大な総統」の演説に対する期待感を高めるために、神秘的な雰囲気を作り上げるプロセスであった。
このような雰囲気を醸し出すために、カネを払って雇った「拍手部隊」も動員された。彼らがあらかじめ雰囲気を盛り上げてくれれば、群衆は自ずとその雰囲気に便乗するようになるのだった。 また、ヒトラーはサーカスの要素も取り入れた。大きな宣伝トラックに貼り付けた広告は、明らかにサーカスから学んで採用されたものだ。彼はこんなことまで言っている。
「国民を統治するにはパンとサーカスを与えておけば充分だ」
それら全ての要素は細部まで念入りに計画され、その計画どおりにとり行われたのだ。 それは、オペラの公演で、舞台装置から俳優の演技まで、全要素があらかじめ綿密に準備されていなければならないのと同様である。 このような事実をみれば、ヒトラーが大衆を扇動し説得することができたのは、ヒトラー個人の即興的なアドリブ、つまり臨機応変な会話術によるのではなく、前もって計画された完璧な企画によるものだったと言うことが分かる。
ヒトラーがなぜこれほどパーフェクトな事前準備をしたのかは、彼のいろいろな失敗経験から、その原因を見つけ出すことができる。
彼は、最初のうち、少人数の前で演説をした。そのような経験を積みながら、同じ主題でもどんなふうに伝えるかによって聴衆の反応が千差万別だということが分かるようになった。彼は、ある日曜日の朝の集会で失言をした。その時の聴衆の反応は「氷のように冷たかった」と回想している。彼はその後、「朝は聴衆を説得するのに適した時間ではない」ということを会得した。
もちろんヒトラーは扇動家としての天才的な才能を持っていたのだが、演説前の事前準備はいつも完璧であった。彼の演出はわずか一つの詳細事項といえども見逃すことはなかった。彼は党の戦略のような大きな路線を決定する時だけでなく、一見些細に見える細かいことを決める時でも、その緻密さを見失うことはなかった。
彼は時々、主要な集会場所の音響状態を自ら調査して、それぞれのコンディションによって声の音調とアクセントを調節することもあった。演説会場として使われる醸造場や地下のビアホールなどの音響特性を分析して、集会場所の雰囲気や大きさ、通風状態などを綿密に調査したのだ。
彼は成功する演出には完璧な事前準備が必要だということをよく理解していた。
プレゼンテーションはアドリブではダメだ。
大衆扇動は総合芸術である。演劇やサーカス、ミュージカルなどと同様なのだ。 演劇はあらかじめ決められたシナリオどおりに演じられ、サーカスも決められた振り付けによって 公演される。もしサーカスで、空中アクロバットを演じる人が本来の振り付けを無視してアドリブを試みれば、恐ろしい事故が発生するかもしれない。完璧な計画がなければ、サーカスも演劇も成功することはないのだ。
職場や学校でのプレゼンテーションも同じである。発表やプレゼンテーションをする時は、演劇のように前もって全てを準備しておいた方がいい。
一般的に、演劇やオペラは決まったシナリオどおりに練習しなければならないものだと思っている が、自分のプレゼンテーションはそうではないと考えがちだ。
しかし、プレゼンテーションを成功させるには、演劇やオペラと同じように完璧に計画して、何度もリハーサルを繰り返さなければならない。プレゼンテーションや集会では、あらかじめ会場を徹底的に調べて、あらゆることを前もって計画しておくべきである。
プレゼンテーション前の準備過程は、少々退屈かもしれないが、そんな時は、「これは総合芸術だ」、「ヒトラー以上に聴衆の心を捉えてみせる」と考えながら自らのモチベーションを高めるといいだろう。
再度、明確に認識しておこう。
「パーフェクトな準備だけがすばらしい公演を作りあげる」ということを
説得力のエネルギーを最大化せよ
人の心には厚くて硬い壁がある。その壁をあなたのメッセージが通過するには、あなたのメッセージに一種のエネルギーを加えてやらなければならない。これを「説得力のエネルギー」と呼ぶことにする。説得力のエネルギーには、次のような特徴がある。
【説得力のエネルギーの特徴】
1. メッセージが単純であればあるほど、説得力のエネルギーは強くなる。
2.理性から遠ざかれば遠ざかるほど、感情的になればなるほど、説得力のエネルギーは強くなる。
3. 相手のあなたへの好感度が高ければ高いほど、説得力のエネルギーは強くなる。
あなたが他人を動かしたいと思った時、思った通りに行かなかったのではないだろうか?
では、項目を一つずつ確認することにしよう。
1は最も重要な法則だ。
あなたがいくら立派な演説者だとしても、演説で複雑なメッセージを送ったのでは、大衆は何も理解できない。その理由は明確だ。どんなにいい話でも、難解な理論を使って説明したのでは、相手は 「分かった。分かった。お前の頭がいいのは充分分かったから早く消えてしまえ」と思うだろう。 メッセージが単純であるということは、他の何よりも重要で基本的なことである。
政治、宗教、経済など、人間社会のどんな組織でも、単純化されたメッセージ、つまりスローガンが使われる。
企業は、その企業のアイデンティティーとビジョンに最も相応しい表現を研究して、それを一つの文章に要約してスローガンを作る。それが消費者の脳内で一定の部分を占めることがそのスローガンの目標だ。メッセージは単純なら単純なほど強力になる。 例えば、ナイキ社のスローガンは、「Just do it」であり、アップル社は、「Think different」である。日本企業なら、ロッテの「お口の恋人」や、トヨタの「Drive your dream」が有名だ。
どれも非常に短いが、企業の特徴をよく表している。 アメリカ大統領バラク・オバマの選挙スローガンは「Change!」だった。
短いこの言葉の中には、現職大統領だったブッシュに対する嫌悪感や、イラク戦争に対する厭世感、健康保険問題に対する怒りなど、アメリカ人のさまざまな不満が詰まっている。
我々は、特別意識することなく毎日を過ごしているが、よく考えてみれば、ありとあらゆる場所でスローガンに出会い、スローガンを記憶して、スローガンの意図したとおりに消費生活を送っている。現代人はスローガンに支配されていると言っても不思議ではない。
また、宗教でも布教のためには単純なメッセージを必要とする。宗教のメッセージもシンプルであればあるほど、布教は成功する。キリスト教には経典としての「聖書」があるが、そんなぶ厚い本を全部読んだ人は、信者でもほとんどない。しかしほとんどの信者は、その教理を知っている。
「キリストを信じれば、あなたが罪人でも、永遠の生命を得て天国へ行く」
これはとてもシンプルで、強力だ。キリスト教が西洋全体に広がることができたのは、このようなシンプルなメッセージのおかげだ。
日本の仏教には、もっとシンプルなスローガンを開発して成功した高僧がいる。ひたすら「南無阿弥陀仏」だけを唱え続ければ、悪人でも極楽往生できると説いた親鸞だ。
シンプルで強力なメッセージができたら、それを伝える方法が重要だ。
「相手の理性ではなく、感情にアピールしろ!」
これが2の法則である。
ヒトラーが、なぜ、気だるい夕方を演説時間として愛用したのか思い出してほしい。ヒトラーが、 なぜ、あれほど演出を重視してオペラやサーカスなどの要素を政治集会に取り入れたのかを思い出してほしい。なぜ、彼は自分の集会を、オペラのように総合芸術に作り上げようとしたのか思い出してほしい。
その理由はすべて、雰囲気を高揚させるためだったのだ。つまり、今までその重要性を強調してきた「演出」というものは、メッセージを感性的に伝えるための手段だったのだ。
3の法則は、「相手の好感度が高ければ高いほど、説得力のエネルギーは強くなる」である。どんなに正しくて良い話でも、高校の朝礼で長々と話す校長の挨拶のようでは、誰もその話に耳を貸したりはしない。高校生たちは「何でこんな退屈な話を聴かなきゃいけないの?」、「校長先生は俺たちの本当の悩みが分かってるのか?」などと考えているかもしれない。 同じメッセージでも校長が話すより、学生に人気があるミュージシャンが話す方がずっと効果的だ。その理由はただ、話す人の好感度によるものなのだ。
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