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*3 【階段映画】上手く使えば名監督? ♯キーワードから新しい映画ジャンルをつけてやる
階段ほど実に象徴的な意味を付与されて使われたり、印象的なシーンとして使われる部位はなかなかないと思います。古典的な名作セルゲイ・エイゼンシュテイン監督『戦艦ポチョムキン』において乳母車が降り行くシーンでお馴染みの「オデッサの階段」は映画史的にも有名で、もはや殿堂入りです。また、これにオマージュを捧げたデ・パルマ監督の『アンタッチャブル』の駅舎でのシーンも有名ですし、『ローマの休日』のスペイン階段なんかも代表的な階段です。ロケ地自体が有名な存在です。ターセム・シン監督の『落下の王国』は、およそ実際にあるとは信じらないような場所が複数箇所登場します。そのうちの1つの階段井戸もまた、ロケ地自体が観光地として有名です。
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逆に、ロケ地に選んだことにより有名になった階段が登場する作品としては『ジョーカー』のあのウェイウェイ踊りながら下りる階段が近年では代表作と言えます。これにより「ジョーカーステアーズ」と呼ばれて観光客が詰めかける聖地のようになり話題となりました。
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次に、実際には存在し得ない無限階段、錯視絵として有名な「ペンローズの階段」も映画の中では作り出す事ができます。『オッペンハイマー』で今年アカデミー賞を受賞したクリストファー・ノーラン監督『インセプション』は夢の中に潜るという設定であるため、想像を越えた見たこともない映像表現が遺憾なく発揮されていて、観客を圧倒させました。ノーラン監督は、これまで見たこともないような設定を映像化して表現できる監督であり、こだわりの強さが随所に感じられる人です。そのため、SF好きにはたまらない監督です。(今後この連載で何度も登場します)
このペンローズの階段も含めて、一体どのように作られているのかの秘話や舞台裏、メイキング映像が実に興味深いので、気になった方には全力で推せます!(Blu-rayも安くなりましたね。でも、ノーラン監督作品は映画館のIMAXで観るのはもちろんですが、家ではBDの映像特典やパンフレットなども非常によく作られており、SF好きには当然として、そうでない人でもハマれば長く楽しめます。)
ついでに、トーテムも買っておくといいでしょう。今、自分は夢を見ているのか私は起きたら確認していますので。
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さて、ここまでは大分有名な階段を取り上げてきましたが、一度ここで立ち返ってみましょう。階段と言うのは本来、上下を行き来するための建築部位のことですが、その上下がヒエラルキーの隠喩として使用されることも少なくありません。近年の作品の中ではこちらもアカデミー賞受賞作品ポン・ジュノ監督の『パラサイト』がまさにそうです。そして、そのポン・ジュノ監督が意識していたと明かしているキム・ギヨン監督『下女』(1960年!)もまた、韓国映画史に残る作品であると同時に、見事な階段映画と言えます。常に情事はや事件が階段によって展開します。足が悪い子供がいるのにも関わらず部屋は2階という時点で確信犯的ですし、また終盤に下女がどうなるのかも含めて実に巧妙な隠喩となっています。
そういえば、日本でも階段落ちは舞台劇でのお決まりのようになっています。また、日本では馴染みがありませんが『美女と野獣』なようなお城や華やかな舞踏会のような場では、着飾った女性が降りてくる舞台として階段と踊り場が重要な役目を果たします。
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有名な階段は世界中にあるので話にキリがないのですが、最後に個人的にこの人は階段監督なんじゃないかと確信している監督と作品を取り上げようと思います。
そう。恐らく今の日本のアニメ映画監督として1番ノっていると思われる新海誠監督です。
その名を一躍世界に知らしめた『君の名は。』では、メインビジュアルにおいても出会いの場所として、手すり付きの階段が実に印象的に使われています。
また、『言の葉の庭』においても、雨が降りしきる中の公園でのシーンが思い出されますが、実は階段が重要なシーンで使われています。そして、私が最も確信犯的だと感じたのは『天気の子』において、穂高が非常階段を駆け上がる終盤のシーンです。このシーンは穂高が非常階段を登りながら、カメラは徐々にズームアウトして全景を写すように描かれていて、穂高が本当に小さくなるまでカメラが引いていきます。このシーンを観たとき、私は穂高ではなくこの階段を見せたいのではないかと強く印象に残りました。この非常階段が付いた廃ビルは、代々木会館という新宿に実際に存在するビルが聖地となっていますが、実際に観に行くとすぐに分かりますが非常階段がありません。
つまり、真偽は不明ですがなんらかの監督の意図によって、アニメの中で付け加えられた階段としか考えられません。逆に意図的でないとしたら、なんなんでしょうか?もっとヤバいでしょ
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階段を上手く演出に使える監督は売れるのか、逆に結果的にそうなっているだけなのかもしれませんが…非常に重要な要素であることには変わりありません。
ただ、階段フェチも行きすぎると病的に映ります。NYにあるヘザウィックスタジオ設計による「ヴェッセル」は、蜂の巣のような幾何学的な構造であり、用途としては眺望を臨める場所でもなく、全て階段しかないという狂気っぷりです。是非一度足を運んでみたいものです。
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今回とりあげてない【螺旋階段】は、別の機会にキーワードとして取り上げようと思います。ここまで読んでくださった方ありがとうございました。ではまた次回。