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【史上最も醜い学級会】~小説本編~

「今日の学級会ではセックスの相手を決めてもらいます。」史上最も醜い学級会が始まった!政府のとんでも政策、少子化対策案とは?T県2年1組の生徒の運命は・・・


①少子化対策案

 政府がついに新しい法律を決定させた。少子化防止対策の新しい法律だ。基本的人権の尊重を完全に無視している。しかし、文科省の学習指導要領にも掲載され、後は、いつから始めるかだけが問題だった。先日T県教育委員会からの通達があった。県内に、条件に合った中学校のクラスがあるため、試験的に保健体育の特別授業を進めると。また、保健体育の特別授業を行うよう定められたクラスの生徒には次の特権を与える、と記載されている。「第一条、今後進学するにあたり、営利を目的としない教育機関の授業料は、すべて国が負担し保証する。第二条、今後進学するにあたり、営利を目的としない教育機関すべてに無試験での合格を保証する。第三条、特別授業により健康を害した生徒には、すべての治療費等を国が負担する。」我がT市立T第三中学校の二年一組は、この保健体育の特別授業を行うよう決定されてしまった。もういち教員が口を出せる状況ではない。また法律と特権の説明以外は、担任が口を挟まないよう強く教育委員会から言われている。司会を学級委員に行ってもらい、決定するしかない。いずれは全国的に行なわれるが、ある条件にあてはまるいくつかの中学校二年生のクラスで先駆けて行われる。その条件とは、「男子と女子の数が等しいクラス、不登校生徒がいないクラス、全員健康体であるクラス、転校の可能性がほぼないクラス」あるようでなかなかないこの四つの条件が揃っている我がクラスが、先駆けて行われることになった。中学2年の学年末テストも卒業式も終わり、クラスの皆は、次は普通の三年だと思っている。担任としては何もしてやることができない。せめて、教育委員会特有のわかりにくい書類を、わかりやすく説明してあげる程度だ。


②学級会に向けて

 この法律をもとに行う学級会の、注意事項の書面を学級委員の谷亮介と野原希咲に見せ、準備を行った。谷亮介は「そりゃあ俺たち男はまあ、別にいいすけど。女子はきついんじゃないすか。」と冷静に言った。一方、野原希咲は「ほんっとに、ふざけんでよね!」と憤慨している。「川中T、マジでやるんすか?」と野原希咲が聞いてくる。「政府の決定事項だ、うわさでも聞いたことがあるだろう。仕方がない。教育委員会も了承済みだ。親にも拒否権はない。」私は答えた。野原希咲は憤慨しながらも「わかりましたよ!司会やるっすけど、ウチも自分が大事なんで、身を引くようなこと絶対やんないからね!」と強く主張した。後は2人にまかせるしかない。上手く決まるだろうか?いや、おそらく醜い、感情丸出しの争いになるだろう。内容が内容だ。女子の反発は激しいだろう。しかし、決めなければいけない。担任の私と学級委員の二人が教室に入った。いつもの始業あいさつを終えると、クラスの皆は何の学級会だろうと不思議そうな顔をしている。誰かが声を挙げる前の一瞬の静寂すら、私には長い時間に感じた。

学級名簿

③はじまり

 学級委員女子の野原希咲がついに学級会のスタートを切った。

「今日の学級会では、クラスの中でセックスの相手を決めてもらいます。」

ハッキリとした声で伝えられた。史上最も醜い学級会がスタートした。


学級編成

④学級編成 2年1組(1)

教育委員会からの特別授業のお達しを受けた担任の川中聖一は、ちょうど一年前のクラス替えの会議を思い出していた。最初に学年主任から、黒岩弼と平百合香を担任として持つよう頼まれたときにはどうしようかと思った。学年一の問題児二人だからである。それならばリーダー性のある生徒を多く入れてほしいと私は嘆願した。その結果次期生徒会長の上村四海、私と相性のいい谷亮介、野原希咲を入れてもらえることになった。普通クラス替えはこのようにリーダーと問題児、不登校から決めていくものだ。どちらのリーダーも二人の問題児と相性は悪くないはずだ。そして、黒岩弼が怖がっている、東幸平と、若林千尋も同じクラスに入れてもらった。こちらも、どちらとも私と相性のいい生徒だ。東幸平は無駄な喧嘩はしないが、幼少期から、全て圧勝で負けたことがない。若林千尋はなかなかの不良だが学校ではあまり迷惑をかけない。さらに二人は、中二には思えない男気の持ち主だ。これでかなりやりやすくなった。さらにリーダー格の今井達樹と中橋桜も入れてもらえることになった。ますますいい感じだ。ついでに最後に、いつも笑顔でいてくれる、かわいい女子生徒を多く入れてもらうようお願いした。女子がかわいいと男子はモテようとして悪いことをせず、女子に優しくすることになる。当然女子も気分がいい、笑顔が多くなる。必然、クラスが落ち着いてくることになる。これは予測ではなく、経験則によるエビデンスだ。間違いはない。仮に私が異動になっていたとしても、後任者もずいぶん楽になったことだろう。その場合は色々入れ替えを行ったかもしれないが。


⑤学級編成 2年1組(2)

 少し、クラス編成について説明をする。まず、最重要項目として「いじめ、SNSの問題」がある。前提として小学校時代のいじめ等で、最初からクラスを離すよう小学校からの要望がある。以後この重要事項は3年間考慮しなければならない。次に1年次のいじめ、トラブルを合わせる。1年次黒岩弼がいじめを行った、被害者のA、B、C、は、本人も親も違うクラスになることを望んでいたのでクラスを離すことになる。いじめがあった場合、今後二度と同じクラスにしてはならないという重い制限がつく。黒岩弼の場合は加害側だ。被害側としては安川千夏だ。1年次、クラスの男子から悪口、いやがらせ等のいじめを受けたと親が怒鳴りこんで来た。いや、お前も男子の悪口を言いまくっているだろう、と思ったが、こういう例は言ったもの勝ちだ。Z、Y、Xを離すことになる。そして近年多いのがやはりSNS上のトラブルだ。こちらもいじめと同じように、必ずクラスを離さなくてはならないという重い制限がつく。浅田由葵人と山下麗美がSNSトラブルで離さなくてはならない生徒がいる。必ずクラスを離すのは、同じことが起こった場合、把握していたのに対応しなかった、と完全に学校の責任となるからだ。そのため学年末には、今年度にいじめ、SNS等のトラブルがなかったかどうかについてのみ、クラス替え用のアンケートとして確認している。また、平百合香とクラスを離してほしいとのように、いじめではなくとも、正当な理由があっての主張ならば、一人程度は同じクラスにならないように離すことができる。今回の主張は、平が邪魔で勉強ができなかったという理由だ。3名程が主張してきた。しぶしぶ離すよう重要項目に入れた。また、付き合っていたのに別れたから、同じクラスになりたくない、告白して振られたから同じクラスになりたくない、等の恋愛関係の主張でも離すこともある。これもまた、しぶしぶ重要項目に入れた。不登校になる原因を把握していたのに対応しなかった、と言われることを防ぐためだ、仕方がない。さっきも言ったが、こういうことは言ったもの勝ちだ。まあ、14歳は最も多感な時期なのだ。できる限りメンタル面でのマイナスがないほうがいいに決まっている。


⑥学級編成 2年1組(3)

 つまり、発覚したいじめやSNS上のトラブルでは絶対的に、本人の主張は正当性が認められることで、同じクラスにならないようにできる。極端な話でいえば、同じクラスになりたくない人物がいれば、本人と親で、今まで言っていなかったが実は、「小四の時に苛められて嫌な思いをした。」等の話をでっち上げれば、同じクラスにはならない可能性が高い。中学校側は確認のしようがないので、信じてクラスを離す選択肢しかない。T県で三学期に三者懇談会がないのは、このクラス編成の直前に口出しをされたくないというのが、大きな理由のひとつであると私は考えている。もしクラス編成に思うことがある場合は、二学期の三者懇談会で親子そろって担任に伝えるのが一番確実だろう。また、誰かと同じクラスになりたい、という側の生徒の主張はよほど学校側にメリットがないと受け入れない。例えば不登校の生徒が特定の生徒と同じクラスならば、学校に来るといったような場合だ。いじめ、SNSトラブル以外は受け入れられないと思っているのか、クラス替えについて希望を主張してくる生徒も親も意外に少ない。まあ少ないにこしたことはないのだが、クラスが替わった後から、「本当は・・・」と言ってくるぐらいなら先に教えてくれと思う。

⑦学級編成 2年1組(4)

 ちなみに、リーダー候補には普通付いていないものだが、野原にはクラス編成の重要項目が付いている。過去の暴力事件だ。(といっても幼少期の頃だが、相手の親は今でも怒っているようだ。)もう一つ付いているものは双子の兄弟を離すというルールだ。野原には双子の弟がいるため離さなければならない。また、谷のように同じ学年に親戚がいる場合も離すことになる。合唱の伴奏者は振り分けなければいけないし、担任の負担を考えると、モンペも振り分けなければならない。こんなに制約が多ければ、クラス編成はとても難しい作業になるに決まっている。というか最初は不可能に思える。しかし近年、クラス編成をやり直したとの例もあるように、絶対にミスしてはならない最重要事項だ。リーダーと問題児の振り分けが終わると、今度は重要項目付きの生徒の振り分けだ。離すべき生徒を間違いのないよう離しながら振り分けていく。最後に各クラスの平均点に極端な差がでないよう一般生徒で埋めていく。この時、人畜無害でトラブルも主張もない生徒はとても重宝される。どのクラスにでも移動させることができるからだ。最後にもう一度、生徒の人間関係をよく考えながら入れ替えをして調整する。一番大事なのは人間関係なのだ。実はこの時、懇談会で「来年もぜひ先生の教室で。」と言ってくれた親の生徒を、私は優先的に入れ替えている。当然信頼してくれている親なので、トラブルになる可能性がほぼないからだ。一見通りそうもない親の主張も、実は意味をなすことが多い。言っておいて損はない。その後担任はもちろん、学年スタッフ全員で重要項目を何回もチェックし、離すべき生徒が離れているかを見直す。問題が見つかればその都度いずれかの生徒を入れ替えさせる。問題なしと分かったところで完成だ。以後よほどのことが無い限り変更することはない。変更すると重要項目に漏れが出てくることがあるからだ。このようにして決まったのが、今の二年一組だった。当初の予定通り私が担任をすることになった。大変なクラスだが、私と相性のよい生徒が多いため、割と楽しくできるだろうと思っていた。事実、なかなか快適に、私も生徒も過ごすことができたと思う。


最初の反応

⑧騒ぐ生徒

・・・・・。
「えええええええええー---。」「はあ?ふざけんなよクソが!俺ぜってぇーやだし!。」「やったー!セックスできるん?まじで?うひょー!てか岩瀬か明法寺とヤリたい俺!でも平とは絶対いや~。」「はあ?うるせえ!俺だってお前みたいなクソとヤルかよ!死ね!」「えー--。俺誰とやろっかな。弼とかぶっけど、俺も岩瀬か明法寺かな~。あ!でも粟島もいいな!ねーねー粟島俺とやらん?」「えー、ちょっと、大きい声で名指ししないでよー。」「えー--!どうしよ。私やったことないし!てか、みんなやったことあるん?ねえねえあるん?私ないんだけど。」「はーい!これはすごいことになりましたよ!てかどっちがどっちを選ぶん?男が女?女が男?そこめっちゃ重要じゃね?マジくじ引きはやめてほしいね~。てか普通、男が女にお願いするもんっしょ。」「はあ?誰がてめーにお願いされてヤルか!クソが!。」「はーい。おまえには言ってないですー。」「死ねや、クソが!」「安川、俺指名すんのまじやめてね!」「黙れボケ!」安川が中指を立てた。「はーいはーいてか神原と神楽付き合っとるやん。そこ確定なん?あ、大川と新沢も。」「あー、えー、みなさん静かにしてください。」「いやいやいやいやここは静かにって無理っしょ!はーい、みんな盛り上がるっしょ!」「そうそう!無理無理!勃ってきたし俺!」「あーもう、うっさいなー。マジでちょっと黙ってくれん?」「ねーねー野原、もっかい言ってよ、何するん?」「はあ?さっき言ったし。」「いや、もっかい教えて!もっかい言って!」「だから、相手決めるってゆーたやん!」「もっかい言って!何するか!」「希咲~もっかい言ってよ~、も~一回!も~一回!」「も~一回!も~一回!」「黙っとれや!セックスん相手決めるっつったやろ!」「・・・。」「ぉぉぉぉおおおおおおー!」「セックス!セックス!野原そんなヤリたいん笑」「はぁ・・・うっせーな・・。もーさっそく疲れたわ、亮介、最初あとやって、めんどくさい、マジで。」「あー、わかったよ。希咲、ちょっと座ってれば。」野原希咲があきれた顔で、ドッと教卓の椅子に座った。「あー、そろそろ言いあきたっしょ。まじで静かにしてくれ。騒いどるだけじゃ絶対決まらんやん。」谷亮介が言った。「まーそーだね。はーい、みんな静かにしようぜ!ちょっと司会の話聞こうぜ!」原口悠が皆を促し、やっとクラスが静かになった。「決める前に先生から説明あるから。」「川中T、お願いします。」やれやれ、最初にギャーギャー言う奴は決まっている。やっと黙ってくれたか。「谷くんもそこの椅子にすわってて。」さてと、法律と特別授業の説明をするか・・・。もちろん私も疲れてしまった。

⑨反応する男子たち

「はあ?」と「クソ」と「死ね」が言葉に入っているのは平百合香だ。この女、色々なことに過剰に反応する非常にメンドクサイ女だ。一人称が「俺」なので少々分かりづらいが、一応女子である。必ずといっていいほど、前述の三語が発言に入る超ウザい性格だ。もちろん幼い頃からずっと、嫌われヒーロー、いや嫌われヒロインである。非常に迷惑な存在だが、教室の生徒たちはもう慣れてしまっており、めんどくさいのでほぼ誰も反応や発言にツッコまない。ナイス対応である。女子でうるさいのはこの女だけである。一方、この歳になってもうるさい男子は多めだ。「やったー!セックスできるん?まじで?うひょー!岩瀬か明法寺とヤリたい俺!でも平とは絶対いや~。」と喜びのあまり絶対に叶うことのない妄想をし、叫んでいるのは黒岩弼だ。思ったことは何でも口に出す。「平とは嫌」のように、発言に他人への悪口的要素も忘れない。「そうそう!無理無理!勃ってきたし俺!」のように下品な言葉を叫ぶことも大好きだ。いつも「チ〇コ、マ〇コ、おっぱい、セックス」と騒いでいる。野原にしつこく絡んでいたのも、もちろんこの男だ。弱いものいじめも大好きな超最低最悪の性格の男、というかクソガキだ。一種の精神的障害、典型的なADHDだ。「はーい、はーい」と調子よく発言していたのは原口悠だ。いい意味でも悪い意味でも必ず場を盛り上げようとする、ある意味必要なタイプであり迷惑でもある。悪い男ではないのだが、ものすごいお調子者のお祭り男だ。平百合香にも、お前には言っていない、としっかりツッコんでいる。男からお願いするものだ、という感覚からそれなりの女子への優しさというか、配慮はできる男だ。もちろん平への扱いは別物だが。「えー--。俺誰とやろっかな。弼とかぶっけど、俺も岩瀬か明法寺かな~。あ!でも粟島もいいな!ねーねー粟島俺とやらん?」と、いきなり叶うはずのない妄想と、好みの女子にお願いというか願望を発言していたのは、高瀬麟空だ。こちらも下ネタの大好きさと落ち着きのなさは黒岩弼にも負けてはいない。騒ぐことももちろん大好きだ。黒岩弼に便乗して野原希咲に絡み、もー一回!と周りを煽り始めたのもこの男である。騒ぐのが大好きなこの三人に共通しているのは、身長が低いことだ。中学男子で落ち着きのない生徒はだいたい身長が低い。しかし、身長の伸びと共に一気に落ち着いてくるのも中学男子の特徴だ。早く大きくなれ。

⑩反応する女子たち

 一方、中学女子は14歳では皆、ほぼ人格が完成しているように見える。男子と比べると、ものすごい精神年齢の差だ。ほとんど皆落ち着いている(平はのぞく)。不思議だ。高瀬臨空の、いきなりの名指し願望発言にも関わらず、冷静に受け答えしていたのは粟島佳帆である。といか、こんな発言にも少し微笑んで返している。誰のどんな発言や行動に対しても、いつも大人の笑顔で優しく対応する、なんというか、大人すぎる女の子だ。下ネタ王の高瀬麟空とはランクが違いすぎる。この願望は間違いなく通らないだろう。また、「えー--!どうしよ。私やったことないし。てか、みんなやったことあるん?ねえねえあるん?私ないんだけど。」と一人で盛り上がり、経験なしと暴露しながら周りを巻き込む発言をしているのは、小畠菜月だ。この女、とんでもない天然の超おバカである。いついかなる状況でも笑顔、というかヘラヘラしているようにしか見えない。ヘラヘラしながら、とんでも発言をしてしまう、爆弾要素も含むおバカだ。しかし、この女一人でなんとなく教室の雰囲気が和んでしまうという、とびぬけた能力も持っている。黒岩弼の発言に対し、中指を立てて「黙れボケ!」と暴言を吐いているのは安川千夏だ。この女、とんでもなく自己中である。自分がそのような行為に及ぶにも関わらず、男子に暴言を吐かれると、すぐに泣く。そしていじめだと騒ぎ立てる。その日のうちにモンペの母親から電話がかかってくること間違いなしだ。そちらのお子様も、いじめと受け取ることのできる暴言をなさってますよと伝えても、「うちの子はそこまでじゃありません。相手の方がひどいからこっちが傷つくんです!」と聞く耳をもたない。親子そろっての自己中ペアだ。もちろん女子からも、少し話しかけてもらえなかっただけで、仲間外れにされただのいじめと決めつける。その後は上記の通りだ。もちろんクラスではかなり嫌われている。だが我がクラスには神か仙人かのような女子が複数いる。そのおかげで今年はだいぶトラブルが減ったのだが。平百合香、安川千夏以外の女子には本当に感謝する他はない。ぜひ幸せな未来を迎えてほしいと思っていた。がしかし。少子化対策のモデルクラスに選ばれてしまったわけだ・・・。

⑪少子化対策の全容

「あー、できるだけ、カンタンに説明するぞ。しっかり話を聞けるよう、手は膝の上において、先生の目を見て聞くように。・・・まず中学を卒業する前に、子どもを一人作ってから卒業してもらう。今は3月だから1~2カ月の間に受精すれば、3年生の内に一人産むことができる。中学卒業までに必ず一人は子どもを作るというのが、政府の少子化対策案だ。」「で、子どもを作るためにはセックスの相手が必要だ。それを今日決めてもらうということだ。教育委員会からは学級会で、生徒だけで決めてほしいといわれている。俺が口をはさむと教員の責任が、とかになることを避けるためだそうだ。相手が決まれば、近くのホテルを貸切ってある。放課後保健体育の特別授業として、そこでセックスを行ってもらう。練習も含めて一応週に2回のペースだが、女子は排卵日を調べるために毎日基礎体温を測ってもらう。排卵日が近い週は毎日だ。そして、検査薬で妊娠がわかれば、特別授業の終了だ。普通の学校生活に戻れる。簡単だろ?相手さえ決まれば。」「また、少子化対策案のモデルクラスに選ばれたみんなには、特別な権限が与えられる。この権限はすごいと思うぞ。後に日本全体でこの特別授業が始まることを考えると、モデルクラスに選ばれたことはラッキーだ。」「今後の権限とは、まずみんなは高校進学や専門学校進学等に無試験で無条件で合格、進学できること。好きな進学先に必ず行くことができるということだ。大学も同様だ。高卒の資格があれば、無試験無条件で好きな大学に入学できる。他の専門学校も同様。ただし卒業できるかどうかは、みんなの頑張りにかかっているる。しかも、学費はすべて無料だ。」「ざわ・・・。」「また。特別授業で健康を害した場合、治療費等はすべて政府がもつということだ。」「出産してしまえば、後は政府の乳児育成チームが育ててくれるから、みんなの、というか女子の将来の進路選択にも問題はない。体調を戻すことに専念できる。」「はい、ここまで静かに聞いてくれてありがとう。ここまでで何か質問はあるかな?」ひとしきりの説明を終えた。みんな真剣だ。よかった。「先生!」「はあ?クソかよ」「川中T!」「あのさー。」「早くヤリてー!」、「あー、すまないが、今は時間が惜しい。無駄な発言を聞く暇がない。質問は手を上げて行ってくれ。全員が知るべき質問と回答だと思うからだ。」質問タイムが始まった。手を挙げたのは、上村四海、藤原琢磨、岩瀬恵真、平百合香、中橋桜、明法寺紗理奈だった。

⑫質問する生徒

藤原琢磨と平百合香はどうせロクな質問ではない。藤原はさっき伝えたことを聞いてくるだろうし、平はギャーギャーとわけのわからんことを言うだけだろう。他の4人は話してもらう価値がある。「じゃあまず、上村君。」「はい、子どもができなかったらどうなるんですか?」なるほど、鋭い。説明する必要がある。川中Tは答えた。「子どもができなかったら、・・・・留年。もう一年、中学三年生をやってもらう。今後、子どもを作ることは中学卒業の条件になるんだ。」「ええええー--!」周りの生徒が騒ぐ中、上村は2秒ほど考えて、「わかりました。」と答えた。そのとき高橋ひなのが、何か考えるしぐさをしたのが見えた。おや?・・・「みんな静かに!・・・じゃあ次は藤原君。」「はい、えっと好きな高校に行けるんですか?」・・・ハイきたよこれ。先程まで騒いでいた皆も急にしらけている。「さっき言った。藤原君、はい終わり。次。」「えつ、言いましたか???」「話聞けよ!」「人の話聞けよクソが!」うむ、今だけは平百合香も正しい。「じゃあ次平。」川中Tは基本女子を名字のさん付けで呼ぶが、例外が4人いる。岩瀬恵真→エマ、神楽奈琉→神。野原希咲→キサ、中島桜→サクと呼んでいる。それと平。岩瀬は学年に同じ名字がいるための区別、神楽は神のように真面目な、手のかからない生徒であるから。野原と中島は、女子というより、かっこいい男子に近い。要録表記が女子なのにかっこいいとなっているがあれは間違いではない。とくに中島桜は半端なくカッコいい。というわけで、なんか「さん付け」じゃないなあと思っていた。夏休みの後の生徒会でよく行動を共にするようになり、急ぐときに呼びやすくするため「キサ」、「サク」で呼ぶけどいい?と聞いて承認を取っている。さて、平百合香のセリフは・・「ふざっけんなよクソが!政府しね。まじでクソだし。ってかアレ、総理大臣つれてこい!ここに!」「はい終わり。満足ね。」サッと終えた。「はあ?なんでもう終わりなんだよ!」「だってそれただの愚痴だから。聞くのめんどくせーよ」川中Tが女子に冷たい態度を取るのは平だけだ。だが、不思議なことにそれを喜んでいる節がある。たぶん、かまわれていることや特別扱いが、プラスの感情になるのだろう。やはり一応女の子だ。次の3人の質問は多分的を射ているだろう。心して答えなければならない。

⑬質問する女子たち

「じゃあ、次はサク。」「はい。・・・いつか自分の子供に会えるんですか?」中橋桜らしい質問だ。この子の言葉や行動には、いつも正義や愛が裏打ちされている。生徒会やクラスの活動で一番私の力になってくれているのもこの子だ。こういう人間と友人になりたいと川中Tは思う。「・・・それも、残念だが叶うことはない。」母親になるという事がサクにはもうリアルに感じられるのだろう。親になった時には我が子に会いたいと思うのは当然だが、今それを想像できるのはさすがだ。きっといい母親になるだろう。「わかりました。誰も、会うことはできないんですね?」サクはもう一度、皆のためのように念押しした。「ああ、そうや。」「はい、ありがとうございます。」自分の子供に会えないということは、なかなか受け入れがたいだろう。皆も少し黙ってしまった。が、仕方のない事だ。私も割り切って事実のみを伝えるしかない。川中Tは少し気を引き締めなおした。「あの、今までの話にもう一つプラスしていいですか?」高橋ひなのがサッと手を挙げた。岩瀬恵真と明法寺紗理奈は、どちらもどうぞというジェスチャーをした。高橋ひなのはすごく精神年齢の高い子だ。谷亮介が達観のレベルだとすれば、高橋は仙人クラスだ。なにせ皆が将来をぼんやりと考える中、クラスでただ一人「いつか死ぬので、そこから逆算して人生計画を考えています。設定は90歳です。」と面接で平然と言っていた。もう死ぬことを前提として受け入れ、自分の人生に必要、不必要な事を分け行動している。おそらく友人はあまり必要と考えていないのだろう。休み時間は一人で難しそうな本を読んでいる。またお年玉で株を買っているいるらしい。今の1万円が、50年後に1000万になるかもしれないからだそうだ。その高橋の質問だ。当然皆が聞く必要がある内容だろう。「ん、何、高橋さん。」「あ、先に質問して大丈夫ですか。えっと、もしペアのどちらかが、子どものできない体だった場合はどうなるんですか?」むむ、よく急に言われた中で冷静にそこまで考えることができるなと思う。「たしかに、それはそうやな。・・よくそこまで考えることができるな。しかし、資料にはすべて目を通したが、今のところさっき言ったことしか書かれてないな。もし子どもができなかったら留年であると。ただ事前に健康診断は行うらしい。」「わかりました。そこはまだ決まっていないんですね?」「ん、そうや。すぐに問い合わせてみるわ。」「はい、ありがとうございます。」高橋ひなのは、それで納得したようだ。最後に岩瀬恵真と妙法寺紗理奈の質問が残った。

⑭岩瀬恵真と妙法寺紗理奈

岩瀬恵真と明法寺紗理奈。この二人はお互いをライバル視している。敵対関係と言ってもいい。同族嫌悪というやつか。かたやバドミントンで全国大会、かたや空手で全国大会。かたや学年一のモテ女、かたや学校一のモテ女。岩瀬恵真はかわいい系の女王。明法寺紗理奈は美人系の女王。かたやぶりっこ満点、かたや腹黒満点。お互いがお互いに自分よりも相手の方がモテていると思っている。気に入らない。岩瀬恵真は明法寺紗理奈の計算された腹黒さが許せない。明法寺紗理奈は岩瀬恵真の天然に似せたようなぶりっこ姿が許せない。女の子同士だと、こういうことはすぐに分かるものだ。当然どちらも同性からはあまり好かれていない。また、岩瀬恵真は後輩からはやさしくてカワイイ先輩として慕われてきた。自分にだけストイックで、どちらかと言うと周りにはユルイ面が目立つからだ。明法寺紗理奈は、先輩からは礼儀正しいかわいい後輩として慕われてきた。上手い生き方の一つとして上下関係を乱さないよう心掛けている故に、どちらかと言うと先輩後輩の上下関係にキビシイからだ。そして戦いの第一ラウンド、一年生のときのスポーツテスト。50m走では明法寺紗理奈が僅差で勝利、1000m走では岩瀬恵真が大差で勝利。真の決着は体育大会のリレーアンカー対決に持ち越された。結果は岩瀬恵真が明法寺紗理奈を抜いて1着でゴール。明法寺紗理奈は生まれて初めてリレーで抜かれた。第一ラウンドは岩瀬恵真の勝利。戦いの第二ラウンド、二年生のときのスポーツテスト。こちらも50m走では明法寺紗理奈の辛勝。1000m走では岩瀬恵真の圧勝。というか岩瀬恵真のタイムは3分祖こそこだ。速すぎる。全国バドミントンで培った体力は折り紙つきだ。そして、またしても真の決着は体育大会のリレーアンカー対決に持ち越された。そのリレーでは岩瀬恵真が最後追い詰めるも、明法寺紗理奈が最後まで抜かせず1着でゴール。第二ラウンドは明法寺紗理奈の勝利。目立つ2人の体育大会での注目度はものすごい。岩瀬恵真はぶりっこ泣き。周囲からの同情を引き付けた。明法寺紗理奈は練習し続けた最高の笑顔。周囲からの憧れを引き付けた。第三ラウンドは、二年終了次までの告白され回数。学年内では岩瀬恵真の勝利、学校内では明法寺紗理奈の勝利。なぜか美人は学年内から敬遠されるフシがある。なぜかかわいい系は学年内に絶大な人気をもたらす。告白されたときの返事は、岩瀬恵真は「どっちでもいいけど、今は忙しいから。」、明法寺紗理奈は「嫌いじゃないけど、今は忙しいから。」。断り方も非常に似ている。こちらはまさに互角の勝負となった。その二人が手を挙げている。おそらく大会関係の質問だろう。

⑮庇う男子たち

「じゃあ次、エマ。」また少しざわつき始めたが、原口悠が呼びかけた。「はーい、みんな、自分にとっても大事な話だから静かにしようぜ!」岩瀬恵真のためでもあるだろう。好みの女のためには頑張る男だ。「はい。」岩瀬恵真は発言するときに必ず顔が赤くなる。それが男子にとってさらにカワイク見えるのだろう。「えっと、大会はどうするんですか?」「大会って全中につながる総合選手権?」「はい、それです。」実は明法寺紗理奈も同じことを聞こうとしていた。「・・・。大会ね。流産の危険性があるから、健康上は勧められない。もちろん俺は医者じゃないから詳しいことは分からないが。」「全国制覇を目指して頑張っとったのは知っているが、・・・あきらめてもらうことになるかと思う。無理をすればお前の健康に重大な影響を及ぼすかもしれないし。」うつむいて悲しそうな顔をしている。今にも泣きだしそうだ。「1年間のブランクはインターハイにも関わってくる。なんとか頑張って、高校の2年か3年で雪辱を晴らしてくれ。」岩瀬恵真はしょんぼりして、声を出さずに頷いた。「チィ、相変わらずのぶりっ子が」明法寺紗理奈は心の中で呟いた。その時「いぇーい、岩瀬残念!俺とセックスする?」黒岩弼がちゃちゃを入れた。さすが最低の男。ここで言うか。「おい、弼!」東幸平が威嚇するような声を出した。黒岩弼はすぐに黙った。東の声が聞こえたからだ。「そそ、そ、そうやぞたた、たすく。いまいあいまきずとついいいてそれそれそれそ、れははひどいだだろ。」田中数斗も独特の話しぶりで後に続く。この男はどもり癖があって、言葉を理解すのになかなか苦しむが、悪い男ではない。そして努力する才能がすごい。1年生の時に10分以上かかった1500m走は6分台になった。通知票の成績も1年から2年にかけてだいだいすべての教科でワンランク上がっている。体も大きくなりからかわれることもなくなってきた。すごい成長だ。「うっせ、何言っとるかわからんし!お前が言うな!」黒岩弼は、東と若林以外には強気だ。そして岩瀬恵真の後ろの席にいる、女子にはクラスで一番と言っていいほど優しい椿瑠星が岩瀬恵真に声をかけている。良くは聞こえないが、「部活をやっているクラスの女子みんなが同じ思いであること、お前ならきっとインターハイで優勝できるからあきらめずにがんばれ」のようなことを言っているようだ。我が2年1組にはこういった女子を庇うことのできる男子が多い。ありがたいことだ。岩瀬恵真は涙が出て止まらないようだ。「じゃあ次は明法寺さん。」

⑯質問終了。資料配布へ

「あ、はい、同じ質問だったので、大丈夫です、わかりました。ハイ!」「そうか。明法寺さんも、中体連の大会じゃないけど、空手で全国での活躍を期待されとったよな。・・・すまない。高校で頑張ってほしい。」「いえ、先生が謝ることじゃないですし、それで終わりじゃないんで、ハイ!」明法寺紗理奈は明るく答えた。岩瀬恵真はまだ泣いている。「あんなぶり娘と同じ反応してたまるか、男子に味方されてヒロイン気取りかよ」と思っている。去年のリレーで抜かれたせいもあるが、どうしてもあのぶりっ子ぶりが許せない。そして岩瀬恵真に優しくする男子も。「弱い方、感情丸出しの方が、許され愛されるのか、あっそう」と思うが、気に入らないことがあっても絶対に表情には出さない。将来芸能界入りを目指している明法寺紗理奈は、評判を落とすような行動や言動を避け、いつも笑顔でいるようにしてきた。粟島の次に位置する大人の笑顔だ。そしてトラブルにならないように、その粟島と行動を共にするようにしている。「ブスと行動すると、ろくなことにならない」は明法寺紗理奈の持論だ。誰もその腹黒さを知らない・・と思っているのは本人だけで、結構生徒は気づいている。もちろん教員はいわずもがなだ。質問がすべて終わったかと思ったとき、奴が手を挙げた。クラス一のナゾの男、多賀翔太が。「コイツもしかして・・・。」誰もが思った。めんどくさいが聞いてみるか。「多賀君、何?」「えーえーと。セックスって何ですか。」「・・・・・・言いやがったこいつ」クラスの誰しもが思った。めんどくさい、と。さすが「伝説のヒッチハイク事件」(命名は小畠菜月)を起こした男である。川中Tは答えた。「えーと、資料にかいてあるからそれ読め、終わり、以上。」「あ、あ、はい。」いちいち答えるのがめんどくさい。時間もない。次に進もう。川中Tは思った。おそらく皆も思った。しかいもう一人いた。「ふう、わたしだけじゃなかったんだ、せっくすってんのことかわからないの、あんしんした、しりょうよもっと」と思ったのは西村亜柚だ。休憩時間はいつもしっかりと両手で本を持って読んでいる。歳の離れた三女で家族の皆からかわいがられすぎたせいか、とっても幼い。身長も低く、あまり人と話すこともないため、クラスでは「かわいいマスコット」の役目をしている。もちろん男女問わず、誰もが優しくしている。この子をいじめるのは犯罪だ。あの黒岩弼でさえ自分よりも幼いと思っているのか、お兄さんヅラして優しく接する時があるほどだ。マスコット力、半端ない。「えー、実は高橋さんの質問以外は生徒配布資料に書いてある。皆が気になる所は詳しく説明した方がいいかと思って質問タイムを取っただけだ。後は資料を見てほしい。それから、セックスの相手を、つまり誰と子どもを作るかを考えるための大事な参考資料も配るぞ。」「大事な資料って何すか?」野原希咲はやっと落ち着いたようだ。「ああ。キサ、これとこれ配って。」「あー、はい。ってこれ・・・、はあ?マジすか?」「ああ、マジだよ。」「何々!?」「何配るの?」「早く見せて」クラスが一気にざわつきだした。野原希咲は答えた。「みんなの3学期の通知票!全員のぶん!」


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