朗読用短編「わたしの大好きな松並くんの話」

※この作品は、朗読ユニットふぁにびぃ9月公演にて上演された内容です。

登場人物

わたし (猿島 楓)  

松並 

店長


わたし「だから今度、一緒に山登り行こうってことになったんです!はぁ嬉しいなぁ〜。なんか全然人と仲良くするタイプに見えなかったし、どうせ脈無いだろうなって思ってたんですけど。向こうから誘ってくれたんですよ!すごくないですか・・・!?」

店長 「うん。そうだね。それは是非楽しんできて欲しいんだけど。まだほら、納品終わってないよね。もうすぐ退勤の時間になっちゃうから、お願いできるかな・・・?」

わたし「え、あ、ごめんなさい!つい話に夢中になっちゃって。すいませんでしたすぐやりますー!!」

店長 「うん、よろしくー。」

わたし「はぁ〜楽しみだなぁ〜。一緒に山登りってさ・・・。デート・・・だよね・・・?でいいんだよね・・・!
んもう楽しみいいいい!」

店長 「猿島さーん。声漏れてるよ。ちゃんと手、動かしてねー。」

わたし「あ、はい!すいませーん!」

わたしM「わたしは猿島 楓。珍しい苗字だよね。猿の島と書いてさしま。大学2年生の20歳。このファニビーマートというコンビニでアルバイトをしています。そして今話していたのは店長の笹山さん。めちゃくちゃ優しくて、聞き上手でつい話過ぎちゃうんだよね。歳もそこまで離れてなくて、学校の事とか恋愛の相談もよくしちゃうの。で、今話してたのは・・・。」

SE   入店音 

わたしM「・・・噂をすれば・・・。」

わたし「松並くん・・・!いらっしゃい・・・!」

松並 「・・・。」

わたし「えっとぉー。今日もいつものでいいのかな・・・?」

松並 「うん。」

わたし「いつもありがとうございます。はいこれ。アイスコーヒーと・・・、カフェラテね。あ、レシートは?」

松並 「大丈夫。」

わたし「だよね。ありがとう。また来てね。」

松並 「うん。」

わたし「・・・あ、そうだ。今度の山登り。・・・楽しみにしてるね。」

松並 「うん。・・・僕も。」

わたし「・・・。」

店長 「おーい。猿島さーん。レジ、後ろ並んでるよー。」

わたし「あ、はーい。すいませ〜ん。」

わたしM「皆もう気付いてるよね・・・?そう、わたしは、松並くんのことが・・・・・・、気になってる、うん。まだ好きとかではなくって・・・、どういう人なのかほとんど知らないし。でも初めて話したあの日から、頭から離れなくって。あれは大学2年になってすぐの頃だから、今から一年ちょっと前かな。」

×  ×  ×

店長 「ようやく猿島さんに平日入ってもらえるようになって助かったよ~。全然お昼入れる人いなくて困ってたんだよね~。」

わたし「そうですよね。一年生だと必修が多くて、全然平日空かないんですよ。」

店長 「そっか、もう二年生かー。」

わたし「はい。」

店長 「この歳になると一年はあっという間だな・・・。とほほ。」

わたし「いや、店長もまだ20代ですよね?(笑)」

店長 「学生かどうかで大きな差があるの。卒業したら君も分かるさ。」

わたし「ふーん。」

店長 「あ・・・。」

わたし「ん?どうかしました?」

店長 「いや、あそこの。常連さんなんだけどさ。」

わたし「あぁ。」

店長 「ちょっと変わり者というか、すぐ他のお客さんに話しかけちゃうんだよねぇ。」

わたし「へー、色んな人がいますね。」

店長 「色んな常連さんがいるねぇ。あ。」

わたし「ん?」

店長 「あの彼も、よく来るね。」

わたし「へー。あ、こっちきた。」

松並 「アイスコーヒーひとつと、アイスカフェラテを。一つ。Sサイズで。」

わたし「え。あ、はい。ありがとうございます。・・・レシートご利用ですか?」

松並 「大丈夫です。」

わたし「ではこちらを、あちらの機械に・・・。」

松並 「わかります。よく来るので。」

わたし「あぁ、失礼しました。」

松並 「いえ、こちらこそ。ありがとうございます。」

わたし「・・・なんか、不思議な人ですね。」

店長 「そうねぇ。独特だよね。」

わたし「はい。」

わたしM「いつもなら、接客中に言葉を遮られたら少しムッとしてたかもしれないけど、彼の持つ柔らかい雰囲気に、不思議と嫌な気は一つもしませんでした。

彼の名前は松並くん。買うのは決まってアイスのコーヒーとカフェラテのみ。二つ買っていくってことは、誰かに買っていってるんだよね・・・。誰だろう、家はこの辺なのかな。コーヒーとカフェラテ。松並くんはどっちが好きなんだろう・・・。バイトはしてるのかな。年齢は?

・・・松並くんとの会話はレジでのやり取りだけで、ほとんど素性は分からないまま。あっという間に一年が経ってしまいました。なんというか、わたしはただのコンビニ店員なわけで、話しかけるのも変だし、そもそも、話しかける理由もないし・・・、あれ、私って松並くんのこと・・・。」

店長 「おーい。猿島さん。お客さん。」

わたし「え!あ、ごめんなさい!いらっしゃ・・・って、あ!松並くん!」

松並 「どうも。」

わたし「う、うん。こんにちは」

松並 「いつものお願いします。」

わたし「はい、毎度ありがとうございます。」

松並 「いえ。」

わたし「いつもこのコーヒー誰に買ってってるの?」

わたしM「え、やば。何わたしいきなり話しかけてるの・・・?図々し過ぎない?ウザいと思われたかな・・・。」

松並 「・・・。」

わたしM「まずい、黙らせてしまった。なんか、めっちゃ考えてる・・・?」

松並 「これは、自分用です。」

わたし「へ?」

松並 「コーヒーはブラックで。カフェラテの方にだけガムシロップ入れて、それを交互に飲むとちょうどいいんだ。」

わたし「ブラックと甘いカフェラテ、交互に飲むの?」

松並 「そう。」

わたし「へ、へー。なるほどねぇ〜。」

わたしM「なるほどか?そんな飲み方ある?初めて聞いたよそんな人。やっぱ松並くんって変わってるな。」

松並 「一口、飲んでみる?」

わたし「へ。い、いや。あの、ほら。・・・仕事中なんで。」

松並 「そう、ですよね。すいません。」

わたし「い、いえいえ。」

松並 「・・・あ、そうだ。」

わたし「ん?」

松並 「山登り、行かない?」

わたし「はえ?山?」

松並 「うん。山登り。好きなんだ。」

わたし「・・・行く。行きたいです。」

松並 「だよね。じゃあ行こ。」

わたし「・・・はい。」

わたしM「だよねってなに・・・!わたしから山登り行きたいオーラとか出てたかな!それってなんかあんまり可愛くないよね!・・・んまぁでもいっか!!どうでもいいかもう!!」

松並 「じゃあまた。」

わたし「はい。・・・あ。」

わたしM「行っちゃった。またってどうやって待ち合わせるの?連絡先わかんないじゃん!まぁまたお店に来てくれるのかな。待ってればいいんだよね・・・。

と、言うわけで松並くんと山登りに行くことが決定しました。初めて二人で会うのに山登りって・・・。まぁ面白いからいっか(笑)。それから何事もなく1週間が過ぎ、この話の冒頭に戻ります。」

わたし「じゃあ店長、納品終わったので、上がりますね〜。」

店長 「はーいお疲れ様。またよろしく〜。」

わたし「お疲れ様でしたー。」

わたしM「バイト終わり店を出ると、なんと、松並くんがいました。」

松並 「お疲れ様です。」

わたし「えっ!松並くん、なにしてるの。」

松並 「いや、今日がいいなって。」

わたし「え?いいってなにが?」

松並 「山。」

わたし「山、って。山登り?え、今から?」

松並 「どう?今日が良いと思うんだ。このあと予定あった?」

わたし「いや、今日はもう終わり・・・。」

松並 「もしまた今度がよければ日を改めるけど。」

わたし「ううん!いいよ!山登り、行こ!」

松並 「・・・良かった。ありがと。」

わたしM「いつものわたしなら、急に予定が入るのは好きじゃないんだけど、今日は即答でイェス。ほとんどしゃべったこともないのに。やっぱり、松並くんは不思議な人だ・・・。」

松並 「じゃあ、行こ。少し電車乗るけど、大丈夫?」

わたし「うん!」

 

わたしM「しばらくして、目的地に到着しました。ほとんど山登りはしたことないので、バテずに最後までいけるか不安だったんですが、そんなことより私が気にしてるのは・・・。」

松並 「・・・。ふぅ。」

わたし「ねぇ、松並くん、もうすぐ山頂だよね・・・?疲れた?」

松並 「え、うん、そうだね。少し。」

わたし「そうだよね。私も疲れちゃった・・・。」

松並 「・・・。」

わたしM「全然会話が続きません・・・!いや、わたしもあんまり喋る方じゃないし、多分松並くんもそうなんだよね・・・。どうしよう、なんか気まずい!てかせっかく誘ってもらったのに、もうすぐ頂上着いちゃうよ!なんか、なんでもいいから話題振らなくっちゃ・・・!」

わたし「ね、ねぇ、松並くんは・・・。この山結構登るの・・・!?」

松並 「・・・そうだね。昔は。」

わたし「そ、そっか・・・。」

わたしM「ああああああ話続かないよどうしよおおお!」

わたし「ね、ねぇ今日はさ・・・、なんで・・・。」

松並 「あ。」

わたし「え?」

松並 「ねぇ来て。」

わたし「ん?なに?あっ。」

わたしM「突然何かに反応したかと想うと、松並くんは私の手を取ってぐんぐんと前へ進み始めました。足元に広がる土で出来たでこぼこな道は、舗装された石階段へと変わっていきました。木で囲まれ薄暗かったはずが、その隙間から少しずつ温かなオレンジ色の陽(ひ)が差し込み始めました。」

松並 「よかった、間に合った・・・。」

わたしM「松並くんがそういうと、正面から勢いよく風が吹き込みました。スプレーで固めた前髪がファッとめくれあがりわたしは思わず下を向きました。すると松並くんが。」

松並 「ねぇみて・・・!」

わたし「ん・・・なに?」

わたしM「前髪を気にしながら、わたしは顔を上げました。すると。
目の前には今にも沈もうとする夕陽とそれに照らされる街並みが広がっていました。ぶわあーーっと辺り一面、目に映るすべての建物がオレンジ色と藍色の二色で染められています。思わず見とれてしまい、前髪のことなんて一ミリも気になんてなりませんでした。遮るものは何もなく爽やかな夕風が私の頬をなでていきました。」

わたし「めっちゃ奇麗・・・。」

松並 「うん、奇麗。」

わたしM「横に立つ松並くんは、沈む夕陽一点を噛みしめるようジーッと見つめていました。彼はいつも、何を考えているのか分かりづらいけど、今は心の底から感動しているんだと、手に取るように分かりました。私もこの心地いい景色と風を胸に焼き付けようと、真似して静かに眺めました。」

わたしM「それからしばらくして、わたしたち二人はロープウェイに乗っていました。平日の最終便。他に乗客は居らず、二人の貸し切り状態でした。松並くんは・・・、相変わらず無口なまま。楽しんでくれてたのかな。やっぱりちょっと何考えてるか分かりづらいな・・・(笑)」

わたし「あ、あの。今日は誘ってくれてありがとうね。」

松並 「・・・ううん、こちらこそ。ありがとう。」

わたし「うん。」

松並 「コーヒーとカフェラテ、どっちが好き?ですか。」

わたし「え?」

松並 「コーヒーはあんまり飲まない・・・?」

わたし「あぁ・・・そうだね。あんまり飲まないかも。紅茶の方が飲むかな・・・?」

松並 「なんだ・・・。そ、そっか。」

わたし「なんで?」

松並 「いや・・・。あの、実は、いつも買っていくコーヒーとカフェラテ。ほんとは、差し入れたくて買ってたんだよ・・・ね。」

わたし「差し入れ・・・。えっ、なに、私に・・・!?」

松並 「そう。」

わたし「え、そうだったの・・・!」

松並 「うん。でも、渡すタイミング無くて・・・、急に変えるのも恥ずかしくて、毎回買ってたんだ・・・。」

わたし「へ、へぇー。そうだったんだ・・・。」

松並 「・・・うん。」

わたし「・・・え、なんで?」

松並 「なんで・・・。なん、か。・・・ねぇ今日の景色どうだった?綺麗だった?」

わたし「うん、奇麗だったよ。」

松並 「よかったぁ。・・・実は、小さい頃家族でこの山に登ったことがあって。この景色が忘れられなかったんだ。それから何度か一人で登ったりしてたんだけど、今日の天気なら絶対いい景色が見られると思ってさ。この時期ならちょうど陽が落ちるタイミングでロープウェイも最終便になると思って・・・。そしたら、その、二人になれるかと思って・・・。」

わたし「あ・・・。」

わたしM「松並くんがいままで誘ってこなかった理由、そして今日突然誘ってきてくれた理由がようやく分かりました。不思議な人だって思ってたけど、色んなこと考えててくれてたんだ。それに、わたしが今日歩きやすそうな運動靴を履いてるのも見ていたみたい。もう・・・、そこまで回りくどいことしなくてもいいのに・・・。」

松並 「あ、あの別に僕、その変な奴じゃなくてさ・・・。」

わたし「十分変ななやつだよ・・・(笑)」

松並 「僕、猿島さんと同じ授業取ってるんだ、よね・・・。」

わたし「・・・・・・は?え、そうなの?」

松並 「うん。いや、他に人もいっぱいいるし。それにほら、授業中メガネしてるし。あと今ずっとマスクしてるでしょ?だから分からなくて当然なんだけど・・・。」

わたし「なんで言わないの・・・!?え、わたし松並くんと同じ大学なの?」

松並 「うん、実はね・・・。」

わたしM「なんだ、そうだったんだ・・・。じゃあ、焦る必要ないんじゃん。今日で二人の関係がどうなろうとか、連絡先早く聞かなくちゃとか。てか一年間ずっとバイト先でしか会えてなかったのなんなのよ・・・!じゃあこれからは大学でもお話できるんだ・・・。明日からも会えるんだ。はあ・・・よかったぁ・・・。

・・・よかった?いいのかなぁ、それで。なんか、それだけじゃわたし・・・。嫌かも・・・な。」

わたし/松並 「あのさ・・・!」

 

[完]

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