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朗読用短編「気遣い」

 ※この作品は、朗読ユニットふぁにびぃ9月公演用に書き下ろし上演された内容です。

登場人物

さおり(さおりん)

こんちゃん(近藤)

ボス(猿島楓)

 

さおり「お疲れ様〜。」

こんちゃん「おーおつかれー。なんか外騒がしいね」

さおり「今あの常連さん来てて大変なのよ。」

こんちゃん「え?誰。」

さおり「ほらあの、よくガハガハ笑ってる全身黒い服のさ。」

こんちゃん「あぁ。あの人ね。そりゃお疲れ様だ。」

さおり「んーありがと〜。お。なにこれ。」

こんちゃん「あぁ。なんか日勤の人が旅行行ってきたんだってさ。そのお土産。」

さおり「へー美味しそうー。」

こんちゃん「皆マメだよね〜。私バイト先にお土産とか買った事ないわ。」

さおり「えー嘘。なんかこんちゃん、そういうのちゃんとしてそうだけどね。」

こんちゃん「いや〜してないしてない。私気遣いとか全然出来ないし。逆に自分もしてもらわなくても平気だしね。」

さおり「そうなんだ。」

こんちゃん「てかさおりん以外に仲良い人ファニマに居ないし。」

さおり「えー何それ。嬉しいんだけど。」

こんちゃん「ほっほっほ。喜べ喜べ〜。」

さおり「ウザ(笑)。どれどれ〜?おー、八ツ橋か〜。良いな〜京都。」

こんちゃん「良いよね〜。昔は興味無かったけど大人になった今だったら行きたいなぁって思う。」

さおり「分かる。修学旅行とかで行っても全然楽しくないもんね。」

こんちゃん「お寺はね〜。舞妓さんとかは綺麗だったけど。」

さおり「ユニバ行く方がよっぽど楽しかったよね。」

こんちゃん「そうそう。」

さおり「えーっと?普通の生八つ橋と~、うわ!抹茶味あるじゃん〜やった〜。ラス1いただきまーす。ん〜おいし〜。」

こんちゃん「やっぱ抹茶だよね〜。」

さおり「女子は抹茶好きだよね〜。」

こんちゃん「好きだね〜抹茶。偏見だけど。」

さおり「あとアボカドね。」

こんちゃん「そうアボカド。好きでしょうね〜。」

さおり「あとバルサミコね。」

こんちゃん「そうバルサミコも好き。」

さおり「偏見だけどね。」

こんちゃん「そう、偏見だよ全部ね。」

さおり「・・・日傘も好きだよね。女子はね。」

こんちゃん「日傘は好きだろうね。女子は。」

さおり「私たちは好きじゃないけどね。女子は好きだろうね。日傘ね。」

こんちゃん「女子はね。邪魔くさいからね。女だからね私たち、女子っていうか。」

さおり「そうそう。でも全部偏見だからね。」

こんちゃん「偏見だよ。もちろんね。」

さおり「冗談だけどね。偏見っていうかね。」

こんちゃん「もちろんもちろん。」

さおり「いやーやっぱこんちゃんと話すの楽で良いわ〜。」

こんちゃん「こちらこそ。」

さおり「なんかもうさ、ちょっとした偏見とかも、初めましての人相手だと言えない感じになっちゃったもんね。」

こんちゃん「そうね〜。相手が何考えてるか分かんないし怖いもんね。」

さおり「ほんっと。」

こんちゃん「それで言うとさ。聞きたいんだけど、さおりんアレどうしてる?」

さおり「アレ?」

こんちゃん「鼻毛出てる時の指摘の仕方。」

さおり「出たー。古からのやつー。」

こんちゃん「これってさ。もう答え出たの?模範解答は。」

さおり「いやぁーどうだろうね。まぁでも私は普通に言っちゃうけどね。」

こんちゃん「えーまじ?」

さおり「だって言ってあげた方がむしろ相手の為じゃん。」

こんちゃん「いやまぁそうなんだけどさ。」

さおり「どうしてるの逆に。」

こんちゃん「んーー。どうだろ・・・。言わないかも。」

さおり「えー。かわいそ。」

こんちゃん「いやぁ私には荷が重いなぁ。傷つけちゃいそうで。」

さおり「それは気の遣い方間違えちゃってるって。」

こんちゃん「だってさぁ・・・。」

さおり「いやまぁわかるけども。」

こんちゃん「さおりんどうやって言うの。相手が鼻毛出てたら。」

さおり「普通に言うけど。鼻毛でてるよって。」

こんちゃん「んえええ。それは無いでしょ。」

さおり「だって気遣おうが遣わまいが同じじゃん。鼻毛が出てるという事実は。」

こんちゃん「そうだけどー。」

さおり「皆気遣い過ぎなんだよな~。良いんだよ言っちゃえば~。」

こんちゃん「すごいね。尊敬するわ。」

さおり「崇め奉・・・」

こんちゃん「そこまでではない。」

さおり「おん。」

ボス「あーもうどこー!・・・がぁ!」

こんちゃん「おぉびっくりした。」

さおり「ボスー。どうしたんで・・・。」

ボス「だぁーないっ!!」

さおり「えぇ何ごと。」

こんちゃん「あぁ行っちゃった。」

さおり「嵐のごとくだったね・・・。」

こんちゃん「なんか探してるっぽかった?」

さおり「そうねぇ。無いって言ってたよね。」

こんちゃん「・・・無いで言うとさ。」

さおり「無いで言うんだ。」

こんちゃん「私まだ食べてないんだよね。」

さおり「え、なにが。」

こんちゃん「お土産の、八つ橋。」

さおり「え、そうなんだ。ほら、食べなよ!ん。私が買ってきたわけじゃないけど(笑)」

こんちゃん「私さ。抹茶好きなんだよね。女子じゃなくて女だけど。」

さおり「おっ。」

こんちゃん「最後の一個だったんだよね。さおりんが食べたやつ。」

さおり「おっ。」

こんちゃん「ごめんね、急にこんな話して。」

さおり「いや、そのぉ。」

こんちゃん「いや全然、全然。怒ってるとかじゃなくってさ。」

さおり「んえーー絶対怒ってるじゃんごめんって~~。」

こんちゃん「いやいや、ほんとに怒ってないよ。ほんとに。」

さおり「じゃあなんで今言ったの~。ちょっと気になってたって事じゃないのそれ~。」

こんちゃん「いや、良いの。ほんとに。」

さおり「ほんとかなぁ・・・。」

こんちゃん「ほんとほんと。うん。」

さおり「・・・じゃあさ、なんで言ったの?今。」

こんちゃん「さっきさおりんが言ってたからさ。」

さおり「え?」

こんちゃん「鼻毛出てても普通に直接言うって。気遣い過ぎなんだよねみんな~って。さっき言ってたじゃん。」

さおり「んお。そう、ね。言った。」

こんちゃん「気遣い過ぎなのかなぁ~私って思って。で、言ってみた。」

さおり「ふむ。」

こんちゃん「どう?」

さおり「どう、とは?」

こんちゃん「率直に気持ちを伝えられて。」

さおり「うーーん。・・・・・・戸惑ってます。」

こんちゃん「だよね。」

さおり「だね。」

こんちゃん「どうよ?気は変わった?」

さおり「んーどうだろう。」

こんちゃん「お、意外と。そこは頑なですか。」

さおり「頑なって言うかさ。それとこれとは話が違うじゃない。」

こんちゃん「と言いますと?」

さおり「鼻毛はさ。出てたら恥ずかしいじゃん。一本長いのが、びょーんと飛び出してたらさ。きついでしょ。」

こんちゃん「まぁそうね。」

さおり「どんだけいい話しててもさ。例えば、学校の先生がさ、すげーいい話してるときに鼻毛出てたらさ。生徒たちは話聞いてくれなくなると思うの。」

こんちゃん「うーんまぁ、そうかな。」

さおり「いやでしょ?金八先生が鼻毛出てたら。人という字は~とか言いながら鼻毛出てたらさ。恰好付かないじゃん。一本増えちゃってるじゃん!って突っ込まれるからね、生徒に。」

こんちゃん「そんな気の利いたこと言う生徒は居ないと思うけどね。」

さおり「僕は死にましぇ~んとか言ってらんないからねもう。」

こんちゃん「それは金八先生じゃないけどね。」

さおり「織部金次郎だっけ。」

こんちゃん「星野達郎だね。」

さおり「そっか。」

こんちゃん「うん。」

さおり「だからね。確かに相手のプライドを傷つけてしまうかもしれない。でもそれでも、相手の為になるなら、私は指摘していきたいね。」

こんちゃん「鼻毛の話だよね。」

さおり「鼻毛の話だね。」

ボス「ねぇもうなんでないの!!」

こんちゃん「あ、ボス。」

さおり「戻ってきた。」

ボス「あぁもう終わった!この世が終わった!終わった!!」

こんちゃん「どどどどうしたんすか。」

さおり「なんか探し物ですか?」

ボス「ないのよどこにもぉ!」

さおり「何がですか?」

ボス「メガネ!」

さおり「えっ。」

ボス「このあとデートで映画観に行くんだけど。メガネ無いとなんにも見えないよぉ。」

こんちゃん「メガネ・・・。」

ボス「あぁもう最悪・・・!なんで私っていつもこうなの!」

こんちゃん「お、落ち着いてください。一旦ちょっと座りましょ。」

ボス「うんん・・・!」

さおり「・・・・・・あるよね、メガネ。」

こんちゃん「あるね、メガネ。」

さおり「額の上にね、かかってるよね。」

こんちゃん「かかってるね、メガネ。」

さおり「そうだよね。見えちゃいけないものとかじゃないよね。全員見えてるよね。あれ。」

こんちゃん「見えてますね完全に。晒されてますね。白日の下に。」

さおり「ですよね・・・。」

こんちゃん「あのぉ・・・ボス・・・。」

ボス「だぁい!!ああ!!」

こんちゃん「あぁダメだ。メガネと共に人の心も失っちゃってる。」

ボス「だぁにっ(なに)!!」

さおり「もうモンスターだよ。メガネを求めて人里に降りてきたモンスターだよ。」

こんちゃん「あーもうどうしたらいいんだー!」

さおり「こうなったボスは誰にも止められないよぉぉ!」

こんちゃん「うわぁぁぁん!・・・・・・・てか。さおりん、言えばいいじゃん。」

さおり「は??」

こんちゃん「さっきずっと偉そうに語ってたじゃーん。相手のプライドが傷ついたとしても、相手のためを思うんなら指摘してあげるのが本当の優しさなんでしょ!」

さおり「それは鼻毛の話ね!」

こんちゃん「それよりよっぽど楽でしょうが!メガネあるって伝えるだけなんだからぁ!」

ボス「何話してやがんだぁ!」

さおり「ひぃぃ!」

こんちゃん「ほら早くしないと!全員喰われて誰もいなくなっちゃうよ!ゾンビ映画の冒頭みたいになっちゃうからぁ!」

さおり「何もんなんだよアイツはぁ!!」

こんちゃん「アイツとか言わないの先輩なんだから!」

ボス「ンンン?!」

さおり「どうしたらいいのさぁ!(泣)心の準備が〜。」

こんちゃん「さおりん!ここは私に任せて。(口笛)ツツツツ、ほ〜らおいで〜。美味しそうでしょ〜」

さおり「お土産の八つ橋で!そんなので釣れるわけ!」

ボス「あぁぁ!」

こんちゃん「ほーら取ってこーい!」

ボス「あぁぁぁ〜〜!」

さおり「釣れたぁ!」

こんちゃん「さ、今のうちに!」

さおり「今のうちにってなに!」

こんちゃん「心の準備を!」

さおり「どうしたらいいの!」

こんちゃん「まずは落ち着いて!呼吸を整えるよ!」

さおり「う、うん。」

こんちゃん「ひっひふー、ひっひふー。ほら一緒に。」

二人「ひっひふー、ひっひふー。」

こんちゃん「ほら、落ち着いてきたでしょ。」

さおり「う、うん。だいぶね・・・。」

こんちゃん「さ、疲れた時は甘いものだよ。これをっ!」

さおり「八つ橋はそんなに万能じゃない、って・・・。」

こんちゃん「あ。」

さおり「八つ橋、最後の1個だ。」

こんちゃん「あー、さっきボスに1個与えちゃったからな〜。」

さおり「猿山の猿みたいに言うな。」

こんちゃん「私まだ貰ってないのに。」

さおり「うーんそうだね。これはこんちゃんが食べなよ。」

こんちゃん「本当?悪いね。」

ボス「ふんふん(鼻息)あぁ!八つ橋ぃぃ!!」

こんちゃん「あ!ボスが戻ってきた!」

さおり「まずい、こんちゃんの最後の1個が!」

ボス「ふん!あむ!ん〜んまい〜〜。」

こんちゃん「あぁぁ私の八つ橋ぃぃぃ〜!」

ボス「なに、あんた文句でもあるのぉ!」

こんちゃん「ひぃぃ、た、助けてぇぇ!!」

ボス「うがあああああ!!」

こんちゃん「さ、さおりいいいいいん!!」

さおり「メ、メガネ!!」(BGM:カットイン)

ボス「はっ!」

さおり「メガネ、あります!!額の上にメガネあります!!」

こんちゃん「さおりん!」

さおり「ずっと、額の上にメガネありましたぁ!!」

ボス「メ、メガネェ、わたしのメガネェ。」

さおり「ずっと前から言いたくて、でも!・・・私言えなくてぇ。」

ボス「あ・・・。ごめんなさい私。」

さおり「私の方こそ、ごめんなさい。もっと早く伝えてあげられたら・・・誰も傷つかずに済んだのに・・・。」

ボス「顔を上げて。さおりちゃん。それに近藤ちゃんも。・・・悪かったわね。」

こんちゃん「ボス・・・またあの頃のボスに会えて本当に嬉しいです。」

ボス「私、このメガネ彼氏に貰った大切なやつで。無くしたかと思ったらもう!」

さおり「それであんな化け物に。・・・無理はないです。」

こんちゃん「無理はあったね。」

ボス「そうだ、2人はまだうちの彼氏会ったことないよね??」

こんちゃん「あーないですね多分。」

ボス「昔はこのお店の常連だったのよ?」

さおり「へーそうなんですね。」

ボス「ま、私の為だったらしいけど。」

こんちゃん「へー。」

ボス「あの人ほんと変わり者でねぇ!」

二人「お前が言うな。」

ボス「それでねそれでね。」

さおり「ちょっとしんどいか。」

こんちゃん「だいぶね。」

さおり「じゃあボス、私トイレ行ってくるんで〜。」

こんちゃん「休憩あがりま〜す。」

ボス「松並くんって言うんだけどね。可愛い苗字でしょ〜。私もいつか~ って、あれ。誰もいない。ねぇちょっと。ねぇってばーーー!!」

 

[完]

 

 

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