2023 獅子座の言葉 中上健次┃唯一無二として「ここに在る」、他者の中からすっくと屹立する自分を探す
獅子座の言葉
今回の獅子座の言葉は、当初、バーグルエン賞を受賞した柄谷行人を取り上げる予定だったのだけれど、受賞作となった「力と交換様式」を消化したとは言えないまま書くというのはなんとも情けなく、こんなに獅子座らしい活動を60年もやっている人を表面的に扱いたくないと悩みに悩み、今回は彼の著書のあちこちに幾度となく登場する親友・中上健次にしてみようかと何十年ぶりかで小説を読み直してみたところ、「いい獅子座だ、これぞ獅子座だ」と思い入る箇所をいくつも見つけたので、今回は中上健次の言葉を取り上げることにした。
圧倒的に濃い人生を生き、足早に駆け抜けた人だ。獅子座的な純度も高いに決まっている。「文學界」昭和49年8月号に掲載された短編小説「黄金比の朝」からこんな言葉を紹介したい
占星術では、実際的な世界、知覚され、実感される世界を地エレメントで表現することがある。ユングのタイプ論でいうと感覚タイプというものだ。
その真反対の性質として精神的な世界、情熱的で純粋な魂の世界は火エレメントが担当している。ユングのタイプ論でいうところの直観タイプとなる。支配星を太陽に持つ獅子座は火エレメントの王様なわけだから、実際的な世界から最も遠く離れ、いわゆる「霞を食って生きる」ことが最もふさわしいサインということになるかもしれない。
それがこまごまと金勘定をしながら生活しなければならないのだとしたら、「精神が五十円玉にあいたちいさな穴をくぐりぬけた分量しか、この世界には有効でないことをみせつけられるようでいらだたしくなる」のは当然のことだろう。
けれど、そんなことを言っていても人は食っていかなければならない。家賃を支払わなくてはならないし、家族を養っていかなければならない。
じゃあ、どうしたらいいというのか?
恐らく多くの獅子座タイプの人は、以上のような葛藤を感じ続けているに違いない。こういった葛藤を解消するために、柄谷行人は「ニュー・アソシエーショニスト宣言*」をし「交換様式D**」といった思想を追い求め続けているにちがいないが、この話題は別の機会に委ねるにして、とにかく獅子座は、世知辛い世界――処世術を駆使し、世俗的な価値観に埋もれた場所から遠く離れ、自分にとっての理想を追い求め続けるべきなのではないだろうか。
そして、個々人の太陽を生きるというのは、本来そういう生き方を目指すべきであり、
こう言い切れる人生をまっとうするべきなのではないだろうか。
これがいわゆるwell-beingであり、本性を生きるということであり、自己実現と言えるものだろう。
彼は、短編集「岬」の終わりにこんな言葉を残している。
火エレメントは、自己の存在を強く感じること「在る」という活動に身を投じることが一つの「善」となると考える。つまり、獅子座=太陽は、唯一無二として「ここに在る」こと、つまり「他者の中から、すっくと屹立する自分をさがす」ことでこそ、我が生が実感されるということでもある。
中上健次の言葉を通して、私自身、もう一度自分の太陽活動について考えてみたい。
世俗の価値観の中に埋もれ、自分自身を息苦しくさせていないだろうか。人の欲望の中で、自分自身が翻弄されていないだろうか。人生の時々に「魂が、生きて良かった、この陽の光を浴びて良かった」と「魂の昂(たか)ぶり」を感じることができているだろうか。
「五十円玉の穴をくぐりぬけた精神の分量なんかたかだか知れている」
そんなもので私の精神を量らせないように、今日からまた自分の理想を握りしめて生きていきたい、そして「他者の中から、すっくと屹立」できる自分でいたいと思う。
中上 健次(なかがみ けんじ)
1946年8月2日、和歌山県生まれ。太陽、水星、冥王星を獅子座に持つ。
作家・批評家・詩人。
『灰色のコカコーラ』でデビュー。73年、『十九歳の地図』が第69回芥川賞候補となる。76年『岬』で第74回芥川賞を受賞。ウィリアム・フォークナーに影響を受け、土俗的な手法で紀州熊野を舞台に「紀州サーガ」とよばれる小説群を執筆。92年没。
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