2024 双子座の言葉 太宰治┃人間というのは常に「一縷の希望の糸を手さぐりで捜し当てているもの」
心理占星術家nicoが選んだ双子座・太陽の言葉は…
毎月、当連載『アポロンの竪琴』を書いている目的は、文学を論じることでも人物そのものを論じることでもなく、定型化、形骸化した12サインの象徴の解釈を捉え直すこと、また逆に、あまりに構造を無視した都合のいい象徴の解釈を捉え直すことにある。
また、アポロンとヘルメスの神話における二人の関係性に見られるように、太陽は常に水星の助けによって「らしさ」が表現されるという考えから、個人の残した言葉を理解することで、太陽サインの「らしさ」がよりはっきりと見えてくるのではないかと考え、このように人物の言葉からサインのイメージを膨らますという作業を続けている。
太陽とは現在進行のエネルギーである。恒星の輝きが私たちに届くのに早すぎることも遅すぎることもない。その輝きを暗闇から発見したときこそが解釈のタイミングであり、その輝きに意味を見出す瞬間である。2024年現在、太宰治の太陽の光はどのような輝きを放っているのだろうか。
占星術の持つ構造をできる限り正しく扱いつつ、今の私たちにふさわしい解釈を探っていく。そんなことを表現したいと思っている。
ということで、『2024年アポロンの竪琴・双子座編』では、文学ファンの憧れの星?である太宰治を取り上げてみる。といっても文学を論じるわけではなく、彼の言葉から双子座のエッセンスを取り出してみることをやってみたい。
3番目のサインで柔軟サイン、そして風エレメント、これが双子座の持つ構造である。柔軟サインは、他に乙女座、射手座、魚座があり、風エレメントは他に天秤座、水瓶座がある。このように整理しているだけで、双子座サインというのが限りなく理想主義であり、希望をもとに生きるサインであることがわかってくる。
キリスト教の教義の一つである三位一体やヒンドゥー教の理念である三神一体からもわかるように、3という数字はものの原型となる不変的な存在、根底にある考え方や「このようにあるべき」という価値観を表していると考えられている。
理念があることによって、進むべき方向、目指すべき指針のようなものが明確になり、ものの存在の輪郭がクリアになっていく。これが双子座(水星)――射手座(木星)の補完関係の意味となる。双子座で根底の考え方をつくり、それを掲げて木星の方向へと進んでいくということだ。
ネイタルチャートに柔軟サインを多く持っている人たちが口癖のように「私は飽きっぽく、やることなすこと続かない」、「人に振り回されやすい」などと言う。それは、他者の考え方や価値観によって支配されているか、本人がそういった生き方を心のどこかで良しとしているからだろう。自分の考え方の土台、理念、理想はそう変わらない。「このように生きたい」と思ったら、大抵の人はその考えに準じた人生を選択する。だが本来、柔軟サインは射手座に代表されるように「矢を射る」ことが得意である。つまり、自分の目的に向かって突き進むことを良しとするサインであるわけだ。
また、風エレメント(Ⅲ双子座、Ⅶ天秤座、Ⅺ水瓶座)も理想主義的な特徴を持っている。数字を見てもらうとわかるが、3、7、11は素数である。他のものと混ざり合わずに独自の考えをもとに生きていきたいというこだわりがそこに見え隠れしている。以下、3番、7番、そして3番・女帝の補完関係にある17番目のカードを見てもらいたい。すべてのカードに星が描かれている(女帝の冠、戦車の天蓋、空)のがわかるだろうか。星はまさしく目指すべき指針、掲げるべき理念という意味である。
火エレメント、地エレメントでつくった自己感覚を持って、自分の理想の世界へと出発していく。風は動きをつくるエレメントであるが、「どこに向かうのか」が明確になっていないと戦車も行き先がわからず足踏みしてしまう。だから、自分の根っこにある「あっちのほう」くらいはちゃんと知っておく。
双子座は、そして双子座の時期は、大いに理念を語っておきたい。「たどり着けるのかどうか」「やり切れるのかどうか」といった懸念は3番目のサイン双子座期には関係ない。自分自身の根本的な考え方、価値観を明らかにしておくだけで十分だ。そうすれば、必ず風は起こる。
太宰が言っているように、人間というのは常に「一縷(いちる)の希望の糸を手さぐりで捜し当てているもの」なのだ。必ずどんな人の中にも、その人の原型をなしている「希望の糸」は存在している。そして、希望を乗せた「新時代の船」は、「一足おさきにするすると進んで行く。何の渋滞も無いのだ。それはまるで植物の蔓が延びるみたいに、意識を超越した天然の向日性に似ている」ものなのだ。
『パンドラの函』はこのように終わる。
木星は、これから一年をかけて双子座を運行する。争いも貧困もなくならず、むしろ世界はパンドラの函のふたが開きつつあるような、そんな気さえしてくる。実際、占星術的な象徴では神話のパンドラ―は風エレメント・水瓶座の象徴である(前述の17番目のタロットカード「星」もパンドラの象徴となっている)。破壊の天体・冥王星は、これから20年ほどかけて水瓶座を運行する。
だからこそ、自分の蔓くらい陽の当たる明るい方向に向けて伸ばしていくべきではないか。自分が明るければ、きっと周囲も「ひとりでに明るく華やかになって行く」はずなのだ。
「どこに向かうか」は自分の根本に聞いてみるのがいい。必ず、自分の中に答えがあるはずだ。タロットカード「ⅩⅦ The Star」のカードのように自分の内をのぞき込めば、きっと自分の理念は見えてくる。なぜならば、一人一人の中に必ず「希望」と書かれた小さな光る石があるはずなのだから。
むしろ「あらゆる不吉の虫が這(はい)出し、空を覆ってぶんぶん飛び廻」るくらいでないと、人は本当の「希望」が見えてこないのかもしれない。ごくごく根本にある理念がわからないのかもしないのだ。
余談だが、本当は太宰作品の中で最も好きな『女生徒』を取り上げたかったのだけれど、この話はまた今度。
太宰 治(だざい おさむ)
1909年6月19日青森県五所川原市金木町生まれ。双子座に太陽、水星、冥王星を持つ。
小説家。
東大在学中、非合法運動に関係するが、脱落。酒場の女性と鎌倉の小動崎で心中をはかり、ひとり助かる。1935年、「逆行」が、第1回芥川賞の次席となり、翌年、第一創作集『晩年』を刊行。この頃、パビナール中毒に悩む。1939年、井伏鱒二の世話で石原美知子と結婚、平静をえて「富嶽百景」など多くの佳作を書く。戦後、『斜陽』などで流行作家となるが、『人間失格』を残し山崎富栄と玉川上水で入水自殺。
これまでの太陽・双子座の言葉
12サイン3番目のサイン双子座は、風エレメントで柔軟サイン。いわゆる占星術の教科書では、双子座について「知的好奇心が旺盛でコミュニケーション能力が高い」といった描写を目にすることが多い。
では、双子座の好奇心とは、一体どのようなものなのだろうか。双子座を知的活動へと向かわせている原動力はどこにあるのだろう。
牡羊座(火エレメント)、牡牛座(地エレメント)と続く歩みの中で、「私とは何ものか?」を自分の内側に探し求め、「私」というものを確立した後、双子座の段階では自己の成長のために「私」を外の世界と向き合わせることになる。なぜなら、自分をより知るためには、自分以外の世界を知る必要があるからだ。
自分自身の感覚にしがみついていたら、いつまでたっても意識は広がっていかない。そのため、自分であることを手放し、何者か?を外から考える体験をしていくのである。
その体験とはどのようなものか、彼らの言葉から探ってみてほしい。
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