「灯り。」/ショートショートストーリー
歩きはじめたとき。この道はこんなに歩きづらくはなかった。周囲は明るくて景色を楽しむこともできた。最初は楽しくて早足で歩いていたと思う。
ところが途中から道は険しくなり、勾配が急だったり、道が細くなったりとどんどん歩きづらくなる。周囲も暗くなってきて見えづらい。それで自然と足元しか見ないことになる。どうしても歩くのが遅くなったり、休憩が長くなったりする。
みんなは。と考える。聞いたところによると何人も動けなくなってしまい、なかには歩くことをやめてしまったひともいるようだ。そういえば私の高校の同級生もそうだったな。まだ若かくて体力はあったはずなのに。
私も歩くのをやめてしまったほうが楽なんじゃないかと何度も思った。それでもなんとか歩いているのはあの灯りのおかげだ。
氣がつくと前に灯りが見える。ああ。前に歩いているひとがいる。よく見ればこっちだよと教えてくれているようだ。私は安堵する。それで何気なく後ろを見ると後ろにも灯りをもったひとが見える。後ろの灯りはここにいるからと言ってくれているようだ。私は灯りを見て大丈夫という気持ちになる。
よくよく見れば、灯りは繋がっている。私も灯りを手にしている。私も誰かを安堵させたり、大丈夫だよと灯りを手にして歩いているのかと思ったら、なんだか嬉しかった。歩いている道の前方がうっすら明るくなっている。
目がさめて白い天井が見えて。ああ。良い夢をみたなと思った。母親が泣き顔で私に言う。
「もう。無理しないで。仕事は休んでも辞めてもいいのよ。」
私は笑顔でうなづいた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?