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愛してます。
雅哉くん!
卒業式の予行練習の後、各クラスでお別れ会があった。
だけど、わたしは、雅哉くんが帰ってしまうんじゃないかって心配で、せっかくのお菓子もご馳走も喉に通らず、ソワソワしきりで。
早苗先生が、「明日は、いよいよ卒業式ですね。みなさん、明日が、小学生として登校する最後の日ですよ。どうか、今日はおうちでゆっくり眠って、明日もまた、元気な顔を、先生に見せてくださいね!」と言った。
「先生、まだ泣くのは早いよ〜」佐伯くんがそう言いながら泣いていたけど、それどころじゃあないっ!
帰りの会が終わると、わたしは6年4組の教室を飛び出して行った。
雅哉くん!!
1組の廊下には、やはり雅哉くんファンが押し寄せていた...。だめだ、これじゃ、1組の教室を覗けない...。
すると、島田先生が教室から出てきた。そして、「雅哉は、もう帰りました。仕事があるからね。みんな、残念だけど、引き上げてくれな!」と言った。
「そんなぁぁぁぁっ!」みんなが悲しみの声をあげた。だけど、わたしは声も出ずに、トボトボと歩き出した。涙が溢れてきた。
雅哉くんに、もう一度、会いたい。もう一度だけでいいから、雅哉くんに会わせて!
校庭には、桜の花びらが舞っていた。見渡しても、人影すらない。メリーウェーブがギコギコと錆びついた音をたてているだけだった。
わたしは、ポコポン山のトンネルの中へ入り、座り込んだ。そして、「うえーん!」と泣いた。涙が顔にしみて、鼻水もダラダラで、ぐちゃぐちゃで、トレーナーの裾もビチャビチャで。鼻水ビヨーンてなって、「うえーん!」て泣いた。
どれくらい経ったのかな? 少し眠ってしまったみたい。
ギコギコとメリーウェーブの錆びついた音が聴こえた。ギコギコギコギコギコ! ギコギコギコ!
ん? 誰かいる?
わたしは、トンネルから出て、メリーウェーブを見た。
「あ!!」
「あ! いたっ!」
雅哉くんがニコニコして、こっちにやってきた。そして、「泣いてた?」「え?」「涙と鼻水のあとが、顔にびゅーんてなってる」と言った。「えええーっっっ?!」「顔洗っておいでよ!」「う、うん!」
わたしは、校庭の水道へ走って行って、顔をジャブジャブ洗い、ハンカチでゴシゴシ拭いた。後ろを振り返ると、雅哉くんはまだ、メリーウェーブのところにいて、手を振っていた。
「よしっ!」わたしはまた、走って雅哉くんのところへ戻った。雅哉くんはニコニコして待っていた。
「雅哉くん、帰っちゃったのかと思った」わたしが言うと、「僕も、斉藤雪さん、帰っちゃったのかと思った」と、雅哉くんも言った。2人して、あれ? って顔して、「僕、帰りの会終わってから、4組行ったんだ」「わたしも、1組行ったんだよ」また、2人して、あれ? おかしいなって。
だけど、雅哉くんが「あーっ! そうだ! 4組行く前にトイレ行ったから、そこですれ違っちゃったんだ!」と言った。「お菓子食べ過ぎちゃってさ、大きい方したくなっちゃってさ」雅哉くんは、笑いながら言った。「あー、そうだったんだぁ」わたしも笑った。
雅哉くんが笑った顔好きだよ。雅哉くんが大好きだよ。
「雅哉くん...雅哉くんは遠くに行っちゃうの?」わたしがそう言うと、雅哉くんはちょっと哀しそうな顔をして、「うん。そうだよ」と言った。
「もう、会えなくなる?」わたしがそう聞くと、雅哉くんは、もっと哀しそうな顔をして、「うん...」て。
「じゃあ、これが最後だね。雅哉くんに会えるのは、いまが最後...」「...うん」
「わたし...一生懸命、雅哉くんのモノマネ練習したけど、きっと、ちゃんと出来ないから、明日は、水曜どうでしょうの藤村くんのモノマネするね! だから、雅哉くんと結婚できないね!」わたしは、そう言って、むりやり笑った。「え???」雅哉くんが止まった。「知らない? ちゃんとしろぉぉぉっ! おおいずみぃぃぃっ!」「ああ、知ってる」
風が吹いて、また、桜の花びらが舞った。
「ねぇ、一緒にメリーウェーブ、やってくれない?」雅哉くんが言った。「いいよ!」
「いくよー、せーのっ!!」雅哉くんとわたしは、メリーウェーブの手すりを持って、クルクル走った。そして、2人同時に、地面から足を離した。なんだか知らないけど、笑いがこみ上げてきて、わたしは、キャハキャハ笑いながら回っていた。雅哉くんの笑い声も聴こえていた。
また強い風が吹いて、桜の花びらが、わたしに絡みついてくるみたいに舞った。
メリーウェーブが止まった。つかんでいた手すりが軽く感じて、前を見ると、雅哉くんがいなかった。
「あれぇ? 雅哉くん?」わたしは、あたりを見回した。雅哉くんはいない。
「おーい! 雅哉くぅ〜ん!」ポコポン山のトンネルも覗いたけど、雅哉くんはいなかった。
「雅哉くん... どこかに飛んでっちゃったの?」
その時、後ろで車の発進音が聴こえた。
わたしは、目を閉じて、胸に手をあてた。また風が吹いて、わたしの足元で桜の花びらが舞っていた。
雅哉くん、さようなら。
わたしは、雅哉くんを愛しています。
続く