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##この作品はフィクションであり、実在する個人、企業、団体とは一切関係ありません##そしていつかの存在証明##この作品はフィクションであり、実在する個人、企業、団体とは一切関係ありません##

 幾つ世界線を越えようと構わない。親友の背を追う為なら狂気山脈だって飛び越せる。彼を勇姿を、足跡を、捉えて残し続ける為ならなんだって。


「あーっ! やっと見つけたー!」
 ポップでカラフルな街、のぉとタウン。その中心にある巨大交差点の真ん中で可憐な少女が叫んだ。有名女子校の可憐な白いブレザーに身を包んだ、大きな一眼レフを首から下げた彼女が指差した先には ##401-Unauthorized## が美しい緑髪を流した黒の留袖姿で佇んでいた。
 少女に大声で名前を呼ばれて驚いた ##401-Unauthorized## はビクリと肩を跳ね上げて振り返る。彼女は恐る恐る少女の名前を口にする。
「で、電楽サロンちゃん・・・・・・なんでこんなところに・・・・・・」
「パステルカラーの人混みに黒い服着て赤いお肉を顔に付けていれば誰だって分かるわ」
 電楽サロンはずんずんと ##401-Unauthorized## に近付いていく。怒っています、としっかり全身でアピールしながら。ツーサイドアップにされたひまわり色の髪を揺らして、自分よりも背の高い ##401-Unauthorized## の顔を見上げて睨む。
「もうッ! 見付けた瞬間に逃げないでよ! 追い掛けてるの大変なんだよ!?  ##401-Unauthorized## ちゃんも世界線跳躍してるんだから分かるでしょ!?」
「うぅ、初手から激怒してる・・・・・・許してよぉ、私のこと誰も知らないところに行きたいのぉ」
 しくしく、と目のある辺りを両手で拭う ##401-Unauthorized## に、電楽サロンは怒気が弱まる。だが彼女がいつもこの手で怒りをやり過ごそうとすることを思い出して萎えかかった怒りを持ち直す。
「『人気者のヒロインが自分を崇めるだけの周囲から逃げ出したかった』みたいな感じにしてるけどホントはミーム汚染と既存文化破壊したいだけでしょうが!」
「きゃいん」
「カワイイ感出しても無駄! アタシが元の世界にいた貴方のこと忘れるわけないでしょ! まあまあタッパのある成人男性! なにバ美肉ってんのよ! アタシも巻き添えじゃない!」
「手強いぃ~」
 ふにゃりと揺れる ##401-Unauthorized## は今度こそ泣き出しそうな声を出す。それだけで少女は先程まで怒りを覚えていた ##401-Unauthorized## のことが可哀想になってしまう。トーンを落として、電楽サロンは自分の気持ちを吐露した。
「別に、 ##401-Unauthorized## ちゃんのことが嫌いなわけじゃないよ・・・・・・観測可能な世界を全部汚染したいならすれば良い・・・・・・」
 でもね、と少女は大きい黒目を潤ませる。
「アタシのこと、置いていかないで欲しいの。友達に置いていかれるの、すっごく寂しいから」
「電楽ちゃん・・・・・・」
  ##401-Unauthorized## は親友の想いに触れて感嘆を漏らす。自分を溢れそうな涙を荒っぽく拭った電楽サロンは天真爛漫な笑顔を浮かべて見せた。
「アタシも ##401-Unauthorized## ちゃんと一緒に行くんだから! 汚染にはまず記録係のカメラマンがいないと不便でしょ?」
「うん、そうだね。じゃあさっそく一枚、撮ってくれるかな?」
 謝罪代わりの提案に頷いて電楽サロンはカメラを構える。優しい色合いの街と人々を背景にすると、原色の ##401-Unauthorized## はよく映えた。
「撮るよ~」
 電楽サロンが「noteの運営は~?」という掛け声と共にシャッターを切ろうとした。その瞬間、 ##401-Unauthorized## は脱兎の如く逃げ出した。
「御免! 拙者、限界挑戦中候! 許親友!」
「あっコラ! エセ中国語喋って逃げるな! 意味不明過ぎる!」
 カメラを持ったまま電楽サロンは ##401-Unauthorized## の後ろ姿を追う。追い掛ける度に思うが ##401-Unauthorized## は足が異様に速い。それで大抵の世界であれば新記録が取れると思う。
「無駄技能の塊め! 世界征服くらい余裕なくせに!」
「拙者思考汚染希望!」
「だからそのエセ中国語やめろ!」
 フォン、とレーシングカーのようなコーナーリングを見せて ##401-Unauthorized## は細い路地へと入る。電楽サロンは見失わず食らい付く。彼女の目に、路地の奥にある落書きだらけの公衆電話ボックスが見えた。また世界線を越える気なのだと分かった。
「逃げるな! ##401-Unauthorized## ちゃん!」
 制止する親友の声を振り切って、 ##401-Unauthorized## は電話ボックスに入る。彼女が緑色の受話器を取って耳に当てれば、オレンジ色に光る電光掲示板にコードが表示される。
【<form name="Login" method="post" action="/cgi-bin/Login.cgi"><br><table><tr><br><td>user ID</td><br><td>お肉仮面</form>】
 電話ボックスの中にグリッチノイズが走る。嫋やかな ##401-Unauthorized## の姿が歪み、そして消えた。忽然と跡形も無く消えてしまった。
「あぁ~~! また逃げた!」
 少女はぜえぜえと息を切らして速度を緩める。息を整えつつ、電話ボックスの中へと入った。満遍なく汚い狭い箱の中で、親友への文句をぶつぶつと呟きながら扉を閉める。とてつもなく短い滞在期間だったがこの世界線には名残も未練も無い。一度元いた世界へと戻ることにした。受話器を持ち上げて耳に当てる。

 耳障りな電子音の後に、がこんっと地面が揺れた気がした。電子サロンは自分の手を見る。角張って節くれ立った男の手だった。
 電楽サロンは受話器を置いて、ガラスを覆い尽くすように書かれた落書きの隙間から外を見た。人々が行き交う歓楽街が見えた。
<お肉仮面! おぅおっお肉仮面! みんなのヒーローお肉仮面!>
<安い! 速い! 旨い! お肉仮面! 298円お肉仮面!>
<急なタイヤのパンクにはお肉仮面で応急処置! おにおにおにおにお肉仮面!>
<お、お、お肉仮面~! やーさしいきーみーはーッ! 愛とっ! 勇気だけがとーもだちさ~!>
 街灯の大型テレビや店頭から「お肉仮面」の名前が流れてくる。全て親友と電楽サロンが元凶だった。元々、二人は救世主になったはずだった。

 彼等はひょんなことから世界を改変する手段と世界線を跳躍する手段を外宇宙の神から与えられ、世界を救う羽目になった。地球はおろか宇宙の外からやって来る敵と戦い、悪を滅ぼした。平和になった後で暇になり、何となく試したくなった。認知は限界まで行くとどうなるのだろう。奇特なお肉仮面が「ヒーロー」として周知されたのだが、周知され過ぎるとどうなるのか。某少年ジャンプの漫画のように、あちこちで名前を見掛けるようになったら「面白いな」と思っただけだった。
 結果的に、お肉仮面は普遍的になり過ぎてもはや概念でさえ無くなった。あれもこれも全て「お肉仮面」になった。希釈された彼の存在は他の世界線では認識されなくなった。
 何を勘違いしたのか、二人は「難易度高めの新ステージが出来た!」と勘違いし、救世主から文化の破壊者となった。
 「縛りプレイがしたい」。お肉仮面はそう言って電楽サロンを置いていった。電楽サロンはそんな彼を「馬鹿野郎!」と言いながら追い掛け続ける。もう何十年も続く途方も無い旅。いつ終わるとも知れない旅。辛いとは思わない。
 感傷に浸るのをやめて、電楽サロンはもう一度受話器を持ち上げて耳に当てる。今度は何処へ飛ぶのか、飛んだ先に友人はいるのか。分からなくても世界線を飛び越える。
 電子音が鳴る。地面が揺れる錯覚を覚える。電楽サロンが外に出ると、真昼の荒野が辺りに広がっていた。遠くで馬を駆る男達が見える。テンガロンハットにピースメーカー。
「おっと、今度はメキシコか、それともオクラホマか?」
 自分の身体を見下ろすとカウボーイのような服装だった。飛んだ世界の先に合った風貌になるように調整された身体は「移動したい」という彼自身の意志に従い指笛を鳴らす。すると栗毛の馬が何処からともなく走り寄ってきた。
 電楽サロンは乗馬経験などほぼ無いが、問題なく馬に跨がって走り出す。親友を追い掛ける為だけに。





終幕




3,468字

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