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ていねいな暮らし、ミーナの行進

 小川洋子『ミーナの行進』を初めて手に取ったのは、小学生の時、市の図書館でだった。祖母におすすめされて読み始めたのだが、それがあまりにも煙草臭くて、すごく好きだったのに結局読み進められず返却してしまったのだった。
 そして再会したのはその何年後だったろうか。友人に貸してもらって開いた時、あのマッチ箱の本だ!とすぐにその素敵な雰囲気を思い出した。それから大学生になってどうしても手元に置いておきたくて文庫版を買い、今回また読み返してしまった。
 そしてわたしはどうやら小川洋子作品を読むと感情が溢れてしまってnoteが書きたくなるらしい。他にも読んではいるのだが、たとえば三浦綾子さんの本を読んだときは反対に考え込みすぎてしまって何も書けなくなってしまう(いつか『氷点』について書いてみたい。最近読み返した『海嶺』も)。
 さて、今日のわたしが『ミーナの行進』を読んで感じたのは、芦屋にある家にただよう静かで落ち着いて、みんなが各々の大切なものを大切にしている丁寧な暮らしへの憧れである。とりわけ、お手伝いの米田さんが、普段は片付けにうるさいのに、ミーナが読んだ本はどう置かれていても触れないままにしていること、ミーナがマッチ箱一つ一つを大切に保管してその物語を作っていること、伯母さんが本や雑誌、どのような紙媒体であってもその一字一字をチェックして誤植を見つけ出そうとしていることである。
 現代社会に生きていると、とかく周りの生活に影響を受けがちなものである。最近は、友人たちが海外旅行に行っているストーリーを見て、自分は行けないくせに羨ましくなってしまったり。でも、よく考えれば別にその国に行きたいわけでも、今行かないといけないわけでもない。わたしは絶対にいつかフランスに行くと決めているし、それは今ではないのである。また、ずっと家で時間を過ごしてしまって、今しかいないこの地での時間を浪費していると感じてしまっても、それは真実ではない。自分が行きたいとそこまで思わないなら行かなくていいし、これからするかもしれない僅かな後悔の可能性のために今という時間を使うべきではない。
 毎日出かけなくても、旅行に行かなくても、家で過ごす日常を丁寧に過ごしていれば十分である。雑に料理してしまっても、丁寧な暮らしYouTuberのように食材や家具にこだわれなかったとしても、それが今の自分である。それを忘れないように、焦らないようにしていたい。そして焦ってしまったらまた、『ミーナの行進』を読めばいいと気づけた。
   『ミーナの行進』はわたしのお守りとなった。

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