伍子胥の兄
あの復讐鬼、伍子胥の兄です。
伍子胥はこの兄と父の仇を討つために一生の大半を費やしました。
復讐に人生をかけられるだけあって伍子胥は性格の激しい人だったようですが、その兄はとても心根が優しい人だったと思われます。
父とその息子2人を始末しようとした王が、その息子たちに使者を出します。捕らえている親父を助けてやるから出頭するように、と。もちろん出頭してきたら彼らも処刑するつもりです。それを知ってその父は
“尚(伍子胥の兄)は仁だから(殺されるとわかっていても)必ず来る”
と言っています。
“仁”だから、つまり優しいから処刑されるとわかっていても来る、という理屈が最初はわかりませんでした。
しかし、よく考えると確かに優しいから、親父を独りで死なせられない、せめて自分が一緒に、と言う発想になるのでしょう。いろいろ理屈を言ってはいましたが。
さらにこの人は弟の伍子胥には”逃げろ”と言います。一緒に出頭しよう(=一緒に死のう)ではないのです。
父が囚われている状況では家父長権は長男の彼にあったはずです。だから長男である彼が逃げて、その代わりに次男の伍子胥を王の召喚に応じさせることもできたはずです。(伍子胥がそういう命令に従うかどうかはわかりませんが。)でもしませんでした。
ではなぜ自分は出頭し(確実な死)弟の伍子胥は逃がしたのかというと、それは西洋風に言えば弟を愛していたからだし、古代中国風に言うと”仁”だったから、ということでしょう。
弟の伍子胥に生きていて欲しかった、死なせたくなかったから、兄は”逃げろ”(原文では”去るべし”)と言ったのだと私は思っています。つまりお前だけは生き残ってくれ、という
やっぱこの人、仁だわ😂
親父の評価は正しい。
そして(伍子胥の逃亡を助けた漁師と同じように)この人も最後に伍子胥に微笑みかけたと思います。
(お前には生きていて欲しい。
親父がかわいそうだし、士大夫としての面子もあるから私は行くが、お前はこんな馬鹿げたことに付き合う必要はないよ。)
上記の( )内の想いを伍子胥は、兄の微笑みから読み取ったと思います…私の完全な妄想です。そしてさらに妄想を重ねますが、伍子胥はここで泣きました。私もこの場面を(勝手に)想像して目頭が熱くなりました。
結局、兄は父と一緒に処刑されます。
しかし伍子胥は生きている間ずっとこの2人を敬愛し続けたと思います。そうでなければ復讐に人生を賭けたりはしないでしょうから。