【感想】★★★「クジラアタマの王様」伊坂幸太郎
評価 ★★★
内容紹介
■記憶の片隅に残る、しかし、覚えていない「夢」。自分は何かと戦っている? ――製菓会社の広報部署で働く岸は、商品への異物混入問い合わせを先輩から引き継いだことを皮切りに様々なトラブルに見舞われる。悪意、非難、罵倒。感情をぶつけられ、疲れ果てる岸だったが、とある議員の登場で状況が変わる。そして、そこには思いもよらぬ「繋がり」があり……。伊坂マジック、鮮やかなる新境地。(解説・川原礫)
感想
◾️夢の中で大きな怪物と戦い、その勝敗によって現実世界の結果が変わってくるという話だが、全体的なテーマとして、『優れたものが、必ずしも生き残るわけではなく、多数の助けになる事よりも少数の力を持った人間の利益が優先される』という社会構造と、『短期的には非難されても、大局的には大勢の人を救う方を選ぶべき』というのが描かれている。
現実社会の問題も読み進めるごとに大事になっていき、最終的にはコロナ禍を彷彿とさせる新型インフルエンザのパンデミックの話へと展開されていく。しかも、この作品はコロナ禍前に書かれているというところが、伊坂さんの作家としての能力の高さを感じさせる。
名前もなき登場人物が物語の最後に重要な人物として登場したり、伏線とも思わないような事が物語において密接に関わっていたりと、作品の最後半では展開が面白くなっていく。
夢の世界と現実の世界では、どちらが実世界なのか?という事を『胡蝶の夢』として暗示しているのも伊坂さんらしいなと思う。
ただ、伊坂作品らしい独特なワールドを築いているが、過去の名著に比べるとパワー不足を感じる。