【ポニョ考察#01】クラゲとイカとヌタウナギとアリス
宮崎駿監督の新作公開に備えて、ポニョの主題をしっかり振り返っていきましょう。
『崖の上のポニョ』は人間の脳の進化をテーマにしています。
それは、どこにも説明されていないし公式には誰も言ってないのですが、映画の中にひとつだけ大きなヒントがあります。
登場する生き物です。
クラゲとイカとヌタウナギです。
この3種が登場したら、脳の進化を連想するひとは一定数いるはずです。
(脳科学や生物の進化に興味がある人など)
ウサギと懐中時計とトランプが登場したら、『不思議の国のアリス』を連想するのとちょうど同じくらいのかんじです。
偶然かもしれない。でも、映画の中にウサギと懐中時計とトランプが登場したら、アリスをほのめかしてるのかな?と思っちゃいますよね。
それでは登場シーンを振り返ってみましょう。
クラゲ
海中にクラゲが大発生しています。
クラゲは目や脳を持たない原始的なスタイルの生き物です。
イカ
通りがかった大きなイカにフジモトは光で合図を送ります。
※ ジブリ公式で提供されている静止画のほかに、一部動画からキャプチャした画像を引用の範囲で使用します。
イカやタコの仲間は発達した脳を持っていて知能が高いことで知られます。
ヌタウナギ
ここは一瞬なので気付きにくいですが、フジモトのまわりにニョロニョロしたものがたくさんいて、ウミヘビではなくたぶんヌタウナギ?です。
ヌタウナギは、名前にウナギとついていてもウナギ(硬骨魚類)の仲間ではなく、円口類というとても原始的な脊椎動物です。
円口類で現生しているのはヌタウナギとヤツメウナギの類だけですが、
もしかしたら描かれているのは厳密にはヌタウナギではなく、われわれ脊椎動物の祖先である、いにしえの円口類をイメージしたものかもしれません。
というのはこの空間は、現代とは時空がずれているようなのです。
ポニョが初登場する場面で、窓の周りに三葉虫が動いています。
三葉虫は中学理科で習ったと思いますが古生代の示準化石ですから、ポニョは三葉虫が生きている時代からやって来た、ということになります。ですからフジモトのまわりにいるニョロニョロは、古生代に生きていた我々の直属のご先祖様ということなのかもしれません。
まあ円口類であることは間違いないです。
(写真は苦手な人がいるかもしれないので貼りませんが、興味ある人は検索して確認してください)
映画の冒頭の数分間には海中にたくさんの生き物が登場するのですが、この3種(クラゲ、イカ、ヌタウナギ)はとくにフジモトとの関わりが強めに描かれています。
クラゲ、イカ、ヌタウナギ、そしてヒトの系統樹
フジモト(いちおう、ヒト)含め4種の生物の関係を見てみます。
進化の系統樹は、お馴染み『あつまれ!どうぶつの森』の博物館でみると、こんなかんじです。
ヌタウナギなどの円口類は無顎類に属します。
脊椎動物グループの中で特に高い知能を持つヒトと、無脊椎動物グループの中で最も脳が発達したイカ。
5億年の時を超え、別々に進化を経た果てに、フジモトがイカに合図を送る。あの場面のエモさがおわかりいただけるでしょうか!!
クラゲ、イカ、円口類、これらを登場させれば、脳の進化がテーマになっていることが、わかる人にはわかるよね? と宮崎駿監督は考えたのかもしれませんが、ヒントとしては難しすぎたかもしれませんね。
<参考に、 脳の進化の話題には円口類がよく登場します>
人間の脳のしくみ
人が意思を決定するには、かんたんにいえば、脳のふたつの系統が関わっています。
ひとつは、思考。(あるいは理性や知性というもの)
もうひとつは感情。(あるいは本能とか欲望とか直感とか)
「頭ではわかっているけど気持ちがついていかない」などの言い回しがあるように、思考と感情が別々にうごくので人間はフクザツです。
ポニョ制作時に宮崎駿監督が、「クラゲ、いいよね」みたいなことを言っていた映像があったような気がしますが(うろ覚えですみません)、クラゲは脳がないので難しいことを「考え」て「悩む」ことがありませんから、人間から見たら時にうらやましい存在かもしれません。
思考と感情は、脳のなかでそれぞれ使う場所が異なります。
宮崎駿監督は「脳の表側と奥」のように言ったりしますが、
思考は「脳の表側」で、感情や本能は「脳の奥」です。
思考にかかわる脳の表側とは大脳新皮質で、進化的に新しい場所です。とくに人類は発達している部分です。
「脳の奥」には魚類から哺乳類まで共通する進化的に古いしくみがあります。三葉虫といっしょに海で泳いでいた時代につくりあげ、現在まで使っているのです。
このふたつの働きを、それぞれ仲良く、いい関係にしていくことが人間の未来には大事だよー!!!っていうのが、ポニョの物語の主題です。
前作『風立ちぬ』では、美しい飛行機を作りたいという思いを、戦争に使われる結果を知りながら貫いた主人公の人生が描かれました。
ココロとアタマが矛盾しがちな人類の生き方をテーマにしていることはポニョと共通しています。
2023年の新作がどういったものかはまだわかりませんが、心して鑑賞したいと思います。
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