死ぬ前にあれが食べたい
ぴゅうるるる
風が吹く。やつが来た。
「もうすぐあなた、逝きますよ」
来たと思ったら開口一番それなのね。
「すみません」
そう。本当なのね。いつかその時になるとは思っていたけれど。
「死ぬ前に何が食べたい?なんて交わされまくった質問、タイムリーですね」
それじゃあ、せっかくなのでうなぎを!!!
「誰も奢るなんて言ってませんよ、自己負担です」
ケチ。どれがいいかしら。
「私だったらティファニーで朝食をとりたいですねえ」
ちょっと文学的で鼻につく……。
もうすぐ死ぬって言われて信じちゃうあたしもあたしだけど、もう死んだあんたがこんな話するなんて皮肉よね。
「もしもの話は、もしもで終わるからおもしろいんです」
なに言ってんだか。
「それで、何を食べたいですか」
そうね、すいか。
「すいか」
そう、すいか。
「なぜ?うなぎから随分と方向転換しましたね」
だって、小さい頃から好きだったし。ずっとすいかを一玉あたしだけでまるっと食べたいと思ってたの。でもそうしたらお腹下しちゃうでしょ。でも死ぬならお腹をいくら下してもつらくないじゃない。
「なるほど」
あんまり共感してないみたいだけど?
「してませんね。まあ、私があなたにすいかを一玉差し出したときはその時だと思ってください」
ありがとう、お心遣いに感謝するね。
「口の周りを鮮やかな赤といくつかの黒で飾る姿が容易に想像できますよ」
ちゃんと冷やしてね、あの映画のように川で冷やしてくれると嬉しいわ。そして飯台みたいな桶に入れて、水を拭わずに持ってきて。夏の眩しい日だといいな。
「我儘ではありませんか」
いいじゃない、一生に一回なのだから。死ぬのも、生まれるのも。
そうだ、心を楽にしてくれてありがとう。
ぴゅうるるる
照れ隠しかしら?
ちょろい女子大生の川添理来です。