『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .00
開かなくなったもの、なんでも開けます。 by 鍵屋
〜prologue〜
稲光が聞こえる。その大きな音によって静寂が強調されるような真夜中のことだった。
決して明るくはない暖かい色の電気の下で、木材の香りが高い湿度によって鼻に運ばれてくる。
雷の音に反応し、一人の男が突っ伏していた机から徐に頭をもたげた。数回まばたきをした後、朧げな灯の中で、ベッドに眠るもう一人の男とその隣で丸まっている三毛猫をその男の目は捉えた。
また、稲光が瞬く。
今度は、その音に驚いたのであろう三毛猫がビクッと体を震わせて机に座る男の元へとすり寄った。
「大丈夫だから。ここにいな。サキ。」
サキと呼ばれたそのネコは男の膝の隙間におさまった。数回撫でられると安心したのか、あくびをした後そのまま目を閉じ、眠ってしまった。
一際大きい稲光が落ちる。
男は、ベッドの方にある窓に目を向けた。やむことのない雨がいっそう勢いを増す。夜は深くなっていき、どこから生じるのかわからない不安を増幅させる。
(あのときも、こんな雷の鳴る土砂降りの雨の日だったな...。)
そのとき、視界の下の方で、ベッドに寝ていた男のゆっくり体を起こすところが映った。
「...。.......。晏理...音...おおきい。」
「うん。ちょっと待って。...はい。どうぞ。」
ベッドから起き上がった男はとぼとぼと机の方へ向かい、差し出されたイヤーマフを受け取って身につけた。その目には、光るものが止めどなく溢れ出していた。が、彼自身は気がついていないようだった。その男は、もう一つの木製の椅子に腰掛けると、道具を引っ張り出して、作業を始めようとした。
「今日のお仕事はこれだけ?晏理」
「そうだよ。明日の夕方に取りに来られるそうだから、それまででいいし、今は寝ててもいいよ?」
「うん。了解。でも、寝れなさそうだから、開けちゃうね。本当に良いんだよね?」
「いいよ。...って確認とったから。大丈夫なはず。毎回聞いてくれてありがと。虎史」
「いや。僕が不安なだけだから。じゃあ、ちょっと......」
「わかってる。話さないよ。」
虎史は作業に入った。それを見た晏理は、安心した様子で立ち上がり、猫を抱きかかえて木の香りと雨の音に包まれながら、ベッドの中に入った。
それ以降、大きな音がなることはなかった。
つづく
※フィクションです
では、また次の機会に。