降車ボタンの呪縛
午前6時45分
いつも通りバスを待つ私。
「あぁバスが来た」
プシュー
席に座り自分が降りるバス停まで待つ。
そんな私はいつも気になることがある。
それは右斜め前に座っている男性のことだ。
いつもこの時間にいていつも同じ席に座っている。
そして私が気になることは必ずあの人が一番に降車ボタンを押すことである。
次は〇〇のつの時点でピンポーンとなるのである。
必ずあの人がボタンを押している。他にも降りる人はいるけどあの人が必ず一番最初に押している。
別に良いじゃないかと思うのだが何故か気になってしまいあの人に勝ってみたいと思う気持ちがドンドン強くなってくる。
ここは一度勝負してみるかと思って自分はボタンに手を置いた。
別に誰かに迷惑をかけるわけでもない。必ずあの人が降りるのはわかっているのだから自分が押したって構わない。
そしてついにその時が来た。
"つ"
ピンポーン
付いてるか俺のボタンの赤い電光文字は
っつ・・・付いてない。
彼のボタン"止まります”が赤く光っていた。
負けた、最速で押したはずなのに・・・
彼は席から立ち降りていくのだがいつもと違う。
私の方をチラッと見て少し笑った。
まさに勝者の貫禄。
あぁムカつく・・・また明日だ。
私はこの日を境に勝負を挑み続ける事にした。
そして1ヶ月が過ぎた。
今日もいつもの席に座る彼。
私は絶対勝ちたいと思って
・・・・
ピンポーン
押したのは私だ。
場内アナウンスが言われる前に押してやったのだ。
私の指先には赤く光る"止まります"の文字。
ヨッシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
フン、見たかコラ勝ったぞ。
バスはいつも彼が降りる場所に停車した。
さぁ降りるが良い、私が押したボタンで
・・・降りない、彼降りないぞ。
「お客様到着しましたよ」
「すいません、間違えて押してしまいました。次に行ってください」
バスは扉を閉めて進んでいく。
そして彼はいつもとは違う場所で降りた。
腑に落ちなかったが何だかスッキリした。
明日から休み気分良く迎えられるぞ。
そして次の日。
目が覚めると自分はいつも乗っているバス停に立っていた。
時間は午前6時45分。
バスが来た。
これは夢だと思った。
とりあえず乗ってみると私は前彼が乗っていた席に座っていた。
そしてバスには人が乗り、バスは動き出した。
いつも通り座って、前彼が降りていたバス停が近づいてきた。
すると手が勝手に降車ボタンの方に吸い寄せられる。
そしてボタンに手が添えられた。
動かない、何だこれは
そしてバスの壁に何か書かれている。
この席に座っているあなたは選ばれしものだ。
降車ボタンをいち早く押したくてたまらないそんなあなたには毎回必ず押させてあげる権利を差し上げます。
この権利を剥奪したければ誰かがあなたより早く降車ボタンを押さなければなりません。それ以外は決してこの権利を無くすことは出来ません。
365日毎日必ずこの場所に座るのです。
降りないのに押したあなたはよっぽど降車ボタンが好きなのですね。
これは運転手さんの恨みが具現化されたのか。・・・嘘だ、もしかしてあの人も別に押したくて押し立てたわけじゃなくて過去に降りもせずただボタンを押したが為に降りていたのか。
そしてあの時自分は彼より早く押した。だから彼はこの呪縛から解放され降りなかった。
嘘だ、嘘だ、嘘だ、これから毎日降りたくもない場所に降りるのか。
365日、毎日。
そしてバスはバス停に近づく
ピンポーン
場内アナウンスが鳴る前に自分はボタンを押している。
私は壁も文字を読んだ。
注意 ちなみにボタンを押すタイミングは前にあなたが押した記録が継続されます。
そして私の体は勝手に動き出し、降りていく。
そして私は毎日、毎日一番最初にボタンを押し降りるのである。
しかし私にはいまだにライバルは現れることはなく、今日もピンポーンと鳴り響いていた。