【リレーエッセイ】#06「図書館情報学と私」木村麻衣子(図書館情報学)
大学教員だ、と言うと「専門は?」と聞かれ、「図書館情報学」と答えると「図書館情報学って何?」と聞かれて、説明がややこしいことになるので、できるだけ大学教員ということはバラさないように生きている木村麻衣子です。
「図書館情報学」をなんとか説明できるようになったのは、ごく最近のことです。私は、「図書館情報学は、人と情報を結びつけるための学問」だと説明しています。それは図書館であってもいいし、なくてもいいのです。結びつけることに資するあらゆることが研究対象になります。SNSも、Wikipediaも、人と情報を結びつけています。
もし時間があれば、さらに次のことを付け加えます。図書館情報学(英語ではLibrary & Information Science)は「図書館の」情報学でも「図書館のための」情報学でもなく、「図書館学・アンド・情報学」なんです、と。「図書館」に直接関わらないことも取り扱う点で,博物館情報学や、人文情報学(デジタル・ヒューマニティーズ)とは異なると思っています。他方、図書館情報学は「情報学」(コンピュータ・サイエンス、情報科学、情報工学などとも呼ばれます)とも異なり、情報技術そのものよりは,伝達される情報の内容や,人間側の指向あるいは行動のほうにより強い関心が向けられるように思います。「情報学」的アプローチを得意とする図書館情報学者もいますので、一概には言えないのですが。
以上、結局、よくわからない説明をする羽目になりました。
図書館情報学を選んだのは消去法でした。出身大学では「文学部」の枠で1年生が入学し、2年生になるときに17専攻の中から1つを選びます。私は父の仕事の関係で2年間、北京に住んでいましたので、その間に英語に遅れをとっており、中国語で受験ができ,受験科目の少ない大学・学部を選んだに過ぎませんでした。中国文学専攻に進んだら楽かなとも思いましたが、考えてみれば文学には露ほどの興味もなく、一方、小さいころからよく利用していた図書館なら、多少は興味が持てるかもと思ったのです。
図書館情報学専攻はハードという前評判でしたが、世の中にはいろいろな参考図書やデータベースがあり、私が知りたいことをこんな風にまとめて検索しやすくしてくれている人が世の中にはたくさんいて、しかもそれらのツールを熟知して使いこなせる人(=図書館員)がいるんだ、ということに衝撃を受け、(英語の文献を読む授業以外は)楽しくこなせました。初めはその気はなかったのですが、「絶対に図書館員になりたい!」という複数の同級生に影響され、「そんなに皆がなりたいというなら私もなってみたい」と思って、完全に周りに流される形で、大学図書館に就職したのでした。
大学図書館で、最初は目録の仕事をしました。学問としての図書館情報学と図書館の実務とでは大きな乖離があり、すばらしい職場ではあったのですが、目録業務があまりにもつまらなくて、早々に退職を検討しました。当時流行の法科大学院に行こうかなとか、司法書士資格を取って独立しようかななどと考えたり、留学を考えて英語を集中的に勉強したりしました。ただ、すぐに仕事を辞める勇気も貯金もなく、今から完全な方向転換をするよりは、とりあえず仕事をしながら図書館情報学の大学院に行くのが無難かなと思いました。夜間の修士課程があったからです。ただこれといってやりたい研究テーマがあったわけでもなく、学部のときの指導教員の先生にご相談したところ、「いま実務で目録をやっているのだから、目録がいいのではないか」(大意)と言っていただいて、今に至ります。
以上のように、常に後ろ向きに、周りの意見に流されながらの進路選択でした。「ここぞ」というときの選択を(たまたま)外さなかったために、幸運にも、なんとか生きてこられたに過ぎません。図書館情報学への熱い思いを語れなくて申し訳ない。私の図書館情報学に対する感情は,愛というよりは,使命感に近いのです。
私はOCLCのキャッチコピーである “Because what we known must be shared.”[1] を非常に気に入っています。知られていることは共有されなければならない。人と情報を結びつけるための全ての活動(もちろん、そこには図書館が含まれます)を理論面から支えるのが今の私の仕事です。この仕事をよりよく行うのが私の使命であり、それが、この仕事にたどり着くまでに出会うことのできたすべての方に感謝を示す唯一の方法だと思っています。
[1] https://www.oclc.org/en/home.html OCLCは,米国の大学図書館を中心に世界中の図書館が参加する,オンライン分担目録作業を目的として形成された非営利組織(『図書館情報学用語辞典』第5版(丸善)より)。