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自分に似合うリップを買った(やってみたいをやってみる1)

リップを買うのは久しぶりだった。
数年ぶりかもしれない。

お化粧を始めたのは大学生になってからで、見た目が変わるってこんな風なんだ、と胸が高鳴った。
お化粧したり、髪を染めたり、新しい服を着たりすると、少しだけ違う自分になれる気がして、楽しかった。
大学院生の頃、ひとと会うのに勇気が必要な日が多かったのだけど、服を選んでお化粧するのは私が私に力を込める大事な時間だった。
生身のままで誰かに会うのが怖くて、バカみたいに高いヒールで自転車漕いでた厚化粧の私は、たぶんちょっと痛々しくて、でも振り返ると愛おしく思ってしまう。

社会人になってから、服装もお化粧も地味になった。
仕事柄ヒールを履けないことを最初は愚痴っていたくせに、だんだんスニーカーの気楽さに甘えるようになって、お休みの日もおしゃれをすることが減った。
ここ数年はマスクで顔が隠れることもあって、しっかりお化粧しなくなって、新しい服を買うこともめっきり減った。
「私がおしゃれしたって、どうせ」
SNSで新作コスメや流行りのファッションの情報をたくさん見るくせに、買うことはなかった。

似合うリップに出会ったのは、たまたまだった。
お出かけ中にふらっと覗いたお店に、以前プロのメイクさんに「とっても似合います!」と言ってつけてもらったリップがあった。
あ、ここからかもしれない。
そう思って、手に取った。
何が欲しいのかわからなくなって、昔みたくおしゃれにときめくことがなくなっているけれど、ずっとずっと、これが私のスタイルって言えるものが欲しかった。
このリップから、また探してみてもいいかもしれない、と思った。

鏡の前でリップを塗ったら、顔色がぱっと明るくなる気がして、ちょっとだけ、元気が出る。
新しいリップを塗るようになってから、「あ、笑おう」と思って口角を上げることが増えた。
このリップには笑顔が似合う。
私だって、笑った顔がいちばんいいのだ。

お化粧って、そういうことなんだろうな、と思う。
自分に似合う色をまとうと、いつもより笑顔が増えたり、ひととまっすぐ目を合わせられたり。
そうやって、今日の私ちょっといいぞ、と思えた日は、お化粧を落としても消えない。

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