ニッチ・マーケティング序説。ニッチはすき間ではありません。独自地位と考えます
「ニッチってなんですか?」って聞かれたら「すき間」と答えませんか。
間違いではないですが、正しくはないと思います。ニッチは「すき間」ではなく「独自地位」と考えるべきです。ニッチという言葉を調べるとわかります。
●「ニッチ」の元祖は古代ローマ
まずは『広辞苑』を見てみましょう。
とあります。さすが広辞苑、わかりやすい。①と④は建築、②は生態学、③がマーケティングやビジネスのニッチです。順番に解説します。
建築学のニッチ。これがニッチの元祖です。古代のローマ。暴君とも呼ばれる皇帝ネロ。芸術も好きだったようで「黄金宮殿」とよばれるドムス・アウレアをつくりました。
ここに八角形の大きな部屋があり、その壁に大きなくぼみがありました。そこ彫像が置かれていたようです。このくぼみがニッチのはじまりと言われています。
建築学のニッチは壁のくぼみです。建築の世界ではニッチという言葉が定着しています。漢字では壁龕(へきがん)と書きます。難かしい字です。バーのカウンターで書けるとモテるかもしれませんね。
●「ニッチ」の生態学から広まった
次は生態学のニッチです。生態学のニッチは20世紀のはじめごろから使われています。1957年に動物学者のジョージ・エヴリン・ハッチンソンがニッチという概念について説明したことで世の中に広まりました。
ニッチは、いまでは高校の生物学の本にも出てきます。ニッチは「生態的地位」と説明されています。でも「生態的地位」はわかりにくいですね。
稲垣栄洋『弱者の戦略』ではこんな説明があります。
と説明しています。生態学のニッチは建築学のニッチからきています。そして生態学のニッチでは、すべての生き物がニッチをもつということです。生き物には必ず存在するべき場所があるということですね。なんだかホッとします。
●「ニッチはすき間」。残念な解釈はここから
3つめ、最後はマーケティングのニッチです。マーケティング業界の神さまといわれているフィリップ・コトラー。1980年に「競争地位別戦略」を提唱しました。ここで生態学のニッチという言葉を使いました。
競争地位別戦略は市場占有率によってプレーヤーを4つに分類しています。業界トップのリーダー、リーダーに挑戦するチャレンジャー、リーダーのやり方をマネするフォロワー、そしてニッチ戦略をとるニッチャーの4つです。
たとえば、おなじみのコンビニ業界。セブン‐イレブン、ローソン、ファミリーマートなどが有名です。いずれも売上高数兆円で、リーダーやチャレンジャーです。
ニッチャーとしては北海道の「セイコーマート」がよく紹介されます。北海道の方はご存じだと思います。「セイコーマート」は売上高は2,000億円もありません。全国で約5兆円の売上のあるセブン‐イレブンに比べると、とても小さなコンビニです。しかし北海道に限ればナンバーワンのコンビニです。
これがニッチャーです。ニッチャーの戦略は上位のリーダー、チャレンジャー、フォロワーがねらわない市場を獲得することです。
つまり独自の市場を獲得することです。必然的に小さな市場がターゲットということになります。ここからビジネスでは「ニッチはすき間」と言われるようになりました。
そうなると「ニッチは小さな市場。すき間。もうからない」という暗いイメージになってしまいました。ここが残念なところです。ニッチは「すき間」と考えるべきではありません。
ニッチの定義を考えなおす必要があります。ここまで説明してきた生態学のニッチ「生態的地位」とマーケティングのニッチ「独自市場」で考えるべきです。
まとめるとニッチとは独自のポジショニング、すなわち「独自地位」とするべきだと思います。
「それはニッチ。すき間だね」と言う前に「それはニッチ。独自地位だね」と言いかえてみてください。これでスッキリするはずです。
ニッチは「独自地位」と考えましょう。
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