地元街角遺産
地元を散歩してたら雰囲気に厚みのある喫茶店を見つけた。
入ってみるとしっかり化粧をしたきつい顔のママがいる。
ここはどんな店なんやろ。
はじめましての店やから一番控えめな席を選んで座った。
「向こうの若いおしゃれなお店と間違えてない?」
「いや、間違えてないです。なんか前に散歩してた時にここ見つけて入ってみたいなと思ってて」
常連さんだけで成り立ってるやろうこの店にはじめましてで俺ぐらいの年齢の人間は珍しいんやと思った。
メニューを探して店内をキョロキョロしてたら
「うちメニューないねん笑」
メニューないん。。。何それ。
「じゃあ、モーニング?一つ願いします!」
「モーニングとコーヒー?ホットでいい?」
モーニングとコーヒー?喫茶店に入ってモーニングって言ったらパンとサラダとコーヒーってセットじゃないんか。ここの店のモーニングには飲み物ついてないんか?どーゆー事やろ。
「えっと。ホットコーヒーとパンとサラダ?が欲しいです。」
「モーニングね」
それがモーニングなんかい!
厚化粧で吊り目がちのママが車のワイパーみたいな角度変更で垂れ目に見えるほどクシャッと笑った。
笑顔のめちゃくちゃ素敵な女性やった。
不思議な雰囲気のお店なぁ。。。
コーヒーが出てくるまでの間また店内を見渡してみた。
キティーちゃんのぬいぐるみ、高級そうなテディベア、若い頃に歌自慢に出たであろうママのでっかい写真、キッチンのど真ん中に鼻が異常に長い歯の抜けたボロボロの、でも高級そうなホームレスっぽい人形5体ぐらい。
店の外で育ってる観葉植物たちが窓からの光を遮って暗く見える店内が余計にその空間をミステリアスに感じさせる。
街でよく見かけるこーやったらウケるやろとか統一感のある感じとは全く違う。ママってどんな趣味の人なんやろ。雑多やな。
ますますこのお店がわからない。
そんなこんなしてるうちにモーニングが出てきた。
コーヒーとパンとサラダとゆで卵までついてる。
しっかりしたモーニングが出てきた。
これでいくらなんやろ。。。
ちょっと怖くなってきた。
だってメニューないんやもん。
だってママめっちゃ厚化粧で吊り目やし。
もし、ママの趣味があの鼻めっちゃ長い歯の抜けたボロボロの高そうな人形やったら
もしかしたら1000円ぐらい取られるんちゃうかな。
しかもあれど真ん中に5体も置いてるし。
わからなすぎるこのお店。
「色んな人形置いてますねこのお店。高そうなテディベアとかそのちょっと怖い人形とか。」
「そ。この人形怖いやろ?これは娘がオーストラリア?アメリカやったかな。にワーキングホリデー行ってた時に買って帰ってきてくれたやつやねん。有名で高い人形みたいやでこれ。」
ママの趣味じゃなかった。
よくよく話を聞いてみるとお店に置いてる人形はお客さんが持ってきてくれたものがほとんどらしい。
「昔はねこの辺はもっと町工場いっぱいあってそこで働く人らがいっぱいきてくれたんよ。今はボケ防止にって感じ。気分で閉めよと思ったら鍵しめるし、閉めても常連さんきたら開けるし笑 自由にやってるねん」
ワイパーが下におりた。
可愛い笑顔やなぁこの人。
ちょっと本を読んでお会計をした。
「最近値上げしてね。。。」
ドキドキ。。。いくらなんや。。。
「350円」
「えーーー!!!!」
「えっ?」
申し訳なさそうな顔をしたママが
「350円」
「えーーー!!!」
「最近値上げして350円。」
「えーーー!!!!!!!」
ミスターマリックや!
ママがミスターマリックに見えてきた!
こんなお店もあるんやな。
自分で持ってる場所やから家賃もないんかな。
昔にこの地域で街が栄えてた時にママが頑張ってこの店を切り盛りしてたから商売っ気のないこの雰囲気の店がまだ残ってるんやな。
そこで読んでた本の中には高齢者が増えて若者が払う税金が増える。とか今の若い世代は年金が貰えないかも。とか世間に対する文句っぽい事を面白おかしく書いてる最近よく見聞きする内容やった。
今の時代をそうもとらえれるけど、こんなお店に出逢えると逆に今、高齢って言われる人たちが少し前の時代に築いてきてくれた物事があるからこそこの値段設定でこの厚みのある豊かな雰囲気の場所が残ってたりもするんやなとも思う。
こーゆー発見があるとやっぱり
俺みたいな若い世代はどこかで先人の築いてきてくれた遺産の上を暮らしてるんよなとも思う。
キテマス。