あくまで個人の感想です#3 幾つの大罪で須賀健太に撃ち抜かれる
久し振りの観劇第二弾、なんとこれ実は、大人計画「もうがまんできない」を火曜日に観た、その週の金曜日に観たのである。
贅沢すぎて倒れそうだが、無事六本木に降り立ちEXシアターに向かう。
思い返せばこの春は私はなにかが弾け飛んでいた。たぶん今までかけっぱなしにしていた安い南京錠のようなものが。
この贅沢ツアーに私を連れ出してくれたのは職場のスタッフさんで、大人計画を最前列引き当ててくれたお人である。
それがなんと、今回は二列目ときた。今年のチケット運をここに注ぎ込んでしまったのではないかと心配になる。それをご相伴に預かる私としては、気が気でならない。神様、どうか彼女に推しのライブが当たる運命を与えていただきたい。
開演前、マキシマム・ザ・ホルモンなど腹に響く重たい音がスピーカーから流れてくる。臨場感である。テレビやDVDとは違うのはこれだ。一気に別世界へ飛ばされる感覚。
幕に映し出される映像。数日前の大人計画とはまた趣が違い、スタートでぐん、と世界を転換させられるのだ。
グレーのスーツを着た、いかにも普通の青年が現れる。可愛らしい童顔の青年は、実直で大人しそうだ。
この青年・大谷を演じるのが、須賀健太である。
テレビで見聞きしていた程度の私のイメージ通りだ。失礼を承知で言うが、華のあるタイプだはなく、脚が地についた堅実な演技力で勝負する俳優というイメージ。
幕があき、しばらくはやはり「そういった立ち位置」の役なのだと思って観ていた。しかしこれがドカンとひっくり返るのである。
共演の顔ぶれと役が、まあ濃い。犯罪を犯した人たちの役なので、まあインパクトと個性を強く打ち出した役を、これまた強めのキャストが強めに演じる。
ゆうたろうが驚くほどにカワイイ。ちょっと男性であることが良くわからなくなるほどに美人だ。仕草も語り口もあまりにナチュラルに女性で驚いた(女性の役ではないが)。他にも濱尾ノリタカ、前野朋哉、波岡一喜などルックスも演技もとにかく目を引く。そんな中、主役の大谷は他の登場人物たちに基本振り回されている。大人しくて気のいい青年。インパクトの強い登場人物たちの物語をひとつに編み上げる、そんな役なのかなと思っていた。
物語は進む。「本物の殺人者による殺害方法のブレインストーミング」。語られるそれぞれの罪。だんだんと、キャラクターたちが重みを増してくる。なぜ罪を犯したのか。どんな罪なのか。それは罪なのか。
語られてゆくうちに、なにか違和感が出てくる。
犯罪者たちが互いの罪を語り、殺害方法について話し合う。それなのになにかほんわかとしていた空気に、嫌な淀みが混ざってゆく。
透明な水に一滴、墨汁を垂らしたような。
何かがおかしいぞ。違和感。
ああ、私は何と須賀健太を侮っていたのか。
大人しげで心根の優しそうな普通の青年だと思っていたこの男が孕んでいる闇の深さ。そして今まで見ていたはずなのに、自分が気づかなかった事への驚き。さっきまでの平凡な童顔の青年はどこに行ってしまったのか。いや、そんな男ははじめからいなかったのではないか。頭をグチャグチャにかき回されたような気分だ。
気づけば思い当たる節がいくつも用意されていた。それなのに、すっかり煙に巻かれてしまった。
クライマックス、罪と刑法について怒涛のように詰められる。その頃には私はもうすっかり、須賀健太演じる大谷という男のことで頭がいっぱいだった。
終演後、挨拶に出てきた須賀健太にまたまた驚いた。
こんなに大きくて、こんなに貫禄と華のある人だったのか。観客をひとりひとり確かめるように、目の上に手で庇をつくり客席を眺める。子役からのキャリアで説明できるものではない。気のいい好青年ぶりは変わらずに、ただただその大きさに圧倒された。
今更ながら、俳優というその仕事に心底驚かされた。今までも演者の「芝居の凄さ」を見たことがなかったわけではないつもりだ。それでも、眼の前ほんの数メートルもない先にある、怪物のような存在感で何のことはない顔をして観客に微笑む青年の姿は、芝居のすごさ面白さで真正面から撃ち抜いてきた。
他の作文でも書いたが、この舞台が、私に「これは楽しかった感動した、だけで終わらせたくない」と思わせてくれた。そしてnoteのアカウントを作ったのだ。
こうして書いてみても、体の中心を撃ち抜かれた衝撃を書き表せている実感はない。それでも、一人の生活に新しいものをひとつ吹き込んだ。
ひとつの舞台が私にくれた、これは大切な宝石だ。この宝石を、ここから磨き続けてゆきたいと思わせてくれたのは、須賀健太という俳優の熱量だ。
分け与えられたこの炎を、静かに守り、こうして書いてゆこう。
まだ始まったばかりの拙さであるが、書き続けてゆこうと思わせてくれた。
俳優、須賀健太。
これまでとこれからを、もっと知りたいもっと観たい俳優。