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別れを受け入れるということ
この1ヶ月で身内を二人亡くした。
正確には一人と一匹なのだけれども。
もうすぐ10月になるというのに、いつまでも残暑が続く秋だなと思っていた頃、父と一緒に暮らすひとがわたしの携帯に伝言メッセージを残した。
1年前に会った時には車いす姿だった父が入院したとの知らせだった。
わたしには長く父と会わない時期があった。父がわたしたち家族をとても長い間裏切っていたことを知ってしまったからだ。
父がわたしたちから去っていったという事実は、経済的にも精神的にも父という存在に頼っていた娘を心許なくさせた。
父と一緒に暮らすひとが父がもう長くはなく、見舞いに来て欲しいと言った。東京に単身赴任中の兄に連絡すると週末まで外せない予定が入っているというので、心細かったが先に一人で父に会いに行った。
病院が近づくにつれて父に会うのが怖くなった。指先が冷たくなって、鼓動を打つ音が大きくなった。
病室の入り口に懐かしい父の名前を見つけて、これは現実なんだと覚悟を決めた。
ベットに横たわる父は、わたしの知っている父ではなかった。
父の死を受け入れるために与えられた時間が、わたしと父と一緒に暮らすひととでは、あまりにも違った。
急に「看取り」と言われて、わたしは混乱した。
父と一緒に暮らすひととは建設的に物事を進められる間柄ではないので(わたしにとっては)、そのひとと会って話をしなければならないことに、わたしは凄く消耗もした。
この秋初めて暖房を入れた日。
朝からのミーティングが長引いてしまい、コンビニでおにぎりでも買って簡単に昼食を済まそうかと、ふと携帯に目をやると父と一緒に暮らすひとからの着信があった。
「父は逝ってしまったのだ」と悟った。
父は甥や姪たちを可愛がっていたので、父の故郷の石川県に住むいとこたちが、通夜から駆けつけてくれたことは本当に有り難かった。アウェイで戦うスポーツ選手が応援で勇気づけられる気持ちが分かるような気がした。
東山の火葬場へと向かう父を乗せた車に連なるのに、わたしは父と一緒に暮らすひとと一緒のハイヤーには乗りたくなくて、父の遺影を持つことを何とはなしに断った。
この気持ちを父の煙と一緒に昇華できたら、どんなにか楽になれるのにとハイヤーの窓越しから小春日和の空を眺めた。
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父を見送った次の日。愛犬の体調が急に悪くなった。
ずっと咳き込んで、夜もゆっくり眠れなくなってしまった。
愛犬は柴犬で、父がわたしの元を去って、程なく子宮がんと分かり、闘病の末に子宮を摘出した年にうちにやってきてくれた。
その時のわたしは多くのものを失っていた。
子犬を迎えた我が家は活気がでて、子犬に振りまわされて、夫もわたしも癒されていった。
娘を養子で迎えたときも、愛犬はすぐに状況を理解し、妹分として娘を受け入れてくれた。愛犬の背を支えにして娘が初めて歩き出したシーンをわたしは忘れないだろう。
咳が止まらない愛犬を掛かりつけの動物病院に連れていった。
15歳の老犬でもあったが、咳さえ止まれば体力も戻るだろうと軽く考えていた。
10日程して愛犬は咳をしなくなった。だけど少し歩くと、ハーハーと呼吸が荒くなり、熟睡できる時間が短いのが気になった。
再度動物病院に連れていくと、心臓が弱ってきてはいると先生は言った。凄く悪いわけではないので薬を飲ませて様子を見ようということになった。
その日の晩ごはんは、体重が落ちてきていることもあり、愛犬の好きな鶏肉のスープをごはんに掛けたものを夫が食べさせた。愛犬は喜んで食べた。
眠たそうにしている愛犬の手を撫でてやると、少し息が苦しそうではあったがやがて寝付いたので少し安心し、わたしも寝ることにした。
あくる日の朝方、家人の呼ぶ声で目が覚めた。
慌てて駆けつけると、倒れている愛犬の姿に叫び声を上げてしまった。
直ぐに病院へ運ぼうとするわたしに、夫が「もう楽にしてあげよう」と言った。
大好きだよ、大好きだよと顔を撫でながら目を閉じさせてやると、しばらくして愛犬の心臓は止まった。
本当に急に逝ってしまった。
悲しくて、苦しくて、辛くて、涙腺壊れ、泣いた。
父が逝ってしまったときよりも泣いた。ごめんよ、お父さん。
愛犬を火葬場に連れて行った日も秋晴れだった。
今年は紅葉を楽しむ余裕が全くなかったが、火葬場の敷地の紅葉が美しかった。
良い悪いは別として父は自分の思うままに生き切ったし、
愛犬もその生を全うしてくれた。
その事実はわたしを慰めてくれる。
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