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魂を売った大阪人

東京の大学に通っている娘に会いに東京へきたときのこと。

私は、東京在住の妹と娘と三人で東京メトロに乗っていた。
東京在住が長い二人も、普段は標準語に似せているが、ネイティブの私が一人居ることで生粋の大阪弁になるらしい。

この日も東京メトロでおもいっきり大阪弁で話していた。
(のちに東京の人は電車の中であまり話さないことを知る)
確か、ゴールデンウィークに大阪へ帰った時、大阪駅の再開発で見知らぬビルが増えていて大変驚いたと妹が話していた。
旧大阪中央郵便局跡地がリニューアルされ新しいビルが建っている。
7月の末にオープン予定である。そんな話で盛り上がっていた。

その時、私達の前に座っていた若い男の人が突如、「どうぞ座ってください」と席を立ち上がった。私達は、席を譲られる理由がわからずキョトンとしていた。
「なんで譲ってくれるんですか?」すかさず妹が尋ねる。
(私は、妹が妊婦に間違えられたと内心思った)

「大阪弁が懐かしすぎて」
「大阪の先輩に席譲らないと」と彼。
なんでも、先日大阪へ帰った時にそのビルを見たという。
彼もまた、久しぶりに帰省をし大阪駅が変わっていたことに驚いたと。
目の前で自分と同じことを思っている人がいることに大変驚き話をしてみたくなったと言っていた。

ありがたく最年長の私が席を譲って頂くことにした。

そこから彼を交えてのトークが始まった。もちろん周りは静かである。
大阪駅開発で駅の街並みが変わってしまったこと。
そして、大学で東京に来てから体験した大阪と東京の違いを面白おかしく話した。そして、自分の悩みごとまで話し出した。
関東出身の奥さんは、関西に馴染まず一緒に帰省したがらない。
最近、子供ができたので、親に合わせてあげたい。そんなことまで話でくれた。

ひとしきり、トークは盛り上がり、楽しい車中を過ごした。私たちの周りは、笑い声でいっぱいだった。

私達が降りる駅に着いた。丁重にお礼を述べ彼とは別れた。

私たちと彼とは初対面だ。大阪出身というだけで前から知っていたかのように会話を楽しむ。なんだか不思議な感じだが、私はそうは思わない。
海外旅行で日本人に会った時に、思わず話ししかけてしまうあの感覚に似ていると思う。
郷土の言葉は、懐かしく感じ、故郷を離れた者にとって互いの結束感を生み出すのだろう。

こんなことは、初めての経験だったが、私たち3人は、楽しい時間を持つことができた。

私たちの降車後、一人で彼はどんな顔をして電車に乗っていたのだろうか?
想像するとすこし面白い。

ちなみに、大阪人が東京へ移り住み、大阪弁を捨て東京弁を話すことを、
「魂を売る」と言うらしい。


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