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架空の日記

ありったけの虚栄心と、偽りの勇気を抱えて、毎日家を出ます。

街中で、正面から一人、また一人と影が見えるたびに私の全身の筋肉はこわばり、その人影が実体となって接近し私とすれ違う時には、いよいよ平常心が保てなくなるのです。前夜からえっさえっさと蓄えておいた何層もの表皮は、その度に情けなく全身から剥がれ落ち、家に帰る頃にはすっかり丸裸です。

けれども、幸か不幸か感覚麻痺が進行しているようで、恥ずかしさというものはとうに感じなくなりました。ただ残るのは、諦めからくる確かな微笑、それだけです。

日々のルーティーンとなったこの皮の再生・破損サイクルは、私が人間に対して抱いていた漠然とした抵抗感を、"畏れ"という言葉によって説明可能にしました。畏れ、つまり、恐怖と敬意というものは、不気味なほどにぴったりと共存し、人間という巨大なテーマの概観の一端を掴ませてくれるのです。

こうして文を書き進めていると、人間に対する自分の興味というものは幾分熱を帯びた誘惑のようにも見えますが、どうやらその熱の持続性は極めて不確定なようです。

空に浮かぶ雲の輪郭が曖昧なとき、私はひどく安心感を覚えます。反対に、その輪郭が極めて明瞭であると、途端に人間生活というものを遂行することが億劫になってしまい、急いで踵を返して家に戻り、またえっさえっさと表皮の過剰備蓄を始めるほかないのです。


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