ロシア語家庭教師のリラ先生(ロシアで出会った人のこと・その2)
リラ先生は私が2017年夏にモスクワに来て、最初にロシア語を教えてもらった先生だ。モスクワ中心部にある国立研究大学経済高等学院で日本語講師をしながら、日本人駐在員とその家族のロシア語家庭教師も務めていて、私は知人を通じて彼女を紹介してもらった。東北大学に語学留学していた才女で、年齢は30代そこそこの私と同じくらいか若く、ストレートの金髪ボブスタイルと、「赤毛のアン」のようなそばかすがとてもチャーミングな人だった。
先生は日本文化に造詣が深く、日本の“ゆるかわ”系キャラクターのTシャツを着てやってくることもあった。私はそのキャラクターの名前を知らなかったが、「それかわいいですね!」と言うと、照れくさそうに「はい、これは〇〇のTシャツなんです~」と教えてくれた。さらに先生は、とてもきちんとした人で、レッスンの開始時刻に遅れそうになると、メッセージアプリで「すみません、10分ほど遅れます」とわざわざ連絡をくれた。
リラ先生は私にとって初めてじっくりと交流するロシア人だったから、私のロシア人女性への印象は「賢く、真面目でチャーミング」ということになった。
先生との交流は、私が秋に語学学校CREF(「ロシアで出会った人のこと・その1」参照)に入学した後も続いた。散歩が大好きな先生は、モスクワの若者が集う話題のスポットにたくさん連れて行ってくれた。かつての計器工場やパン工場を改装したショッピングエリアの「Design Center ARTPLAY」や「Хлебозавод」(フリェボザボード・パン工場の意味)では、若者が経営するセレクトショップやおしゃれなカフェを巡って楽しんだ。
印象深いのは、ロシア版「デザインフェスタ」とも言える「Ламбада-маркет」(ランバダ・マーケット)だ。こちらもとある工場跡地の倉庫内で、ロシアの若いクリエイターが自作の洋服やジュエリー、キッチン用品、お菓子などを出展し、それぞれのブースでお客さんとの交流を楽しみながら販売していた。先生と私は「これ似合いますか?」「すごくいいですよ!」などと言いながら、お気に入りの一品を求めて歩き回った。
実は先生には夢があって、それは、モスクワの観光ガイドになることだった。だからたまたま通りかかった小川にある水道施設の歴史的な意義を知っていたし、多くの観光客が訪れるロシア正教会の「救世主キリスト大聖堂」の歴史にも詳しかった。「私が日本に帰ったら、観光客をご紹介できるかもしれません」と言うと、とても喜んでくれた。年末年始だったろうか、モスクワから少し離れた故郷に帰省した先生が、お母様が私のために編んでくださったというチェブラーシカとワニのゲーナ、モスクワ五輪のマスコットキャラクター・こぐまのミーシャのぬいぐるみをモスクワに持ち帰り、私にプレゼントしてくれた。今でも宝物である。
先生とのご縁は長く続くと信じていたが、ある日、先生との連絡はパタリと途絶えた。秋から続いていたCREFでの学習が一段落し、再び家庭教師をお願いしようとしたのだが、「今はちょっと忙しくて……」というような返事を最後に、メッセージの返信が来なくなった。はて、彼女の人の好さに甘えて、何か無礼なことをしてしまっていただろうか、といろいろ考えたが、全く連絡が取れないので原因は分からない。ただ、SNSの更新もあの当時から止まっているようで、それも不可解である。ほとほと愛想をつかされたか、記憶喪失になってしまったのかも?と思っているが、モヤモヤは残ったままだ。生きているうちにまた会いたい、と思うのだけど、誰か彼女の行方を知らないだろうか。
・Design Center ARTPLAY
https://artplay.ru/
・Хлебозавод
https://hlebozavod9.ru/
・Ламбада-маркет
https://lmbd.ru/?srsltid=AfmBOoqpm0D_BEJ8S8X_XDxpDcGNqHWA10kNv-OyHy-OHAF8yprkTFda
・デザインフェスタ
https://designfesta.com/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?